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十三話

「どこまで着いてくるんだ?」


雨というものが降り続く中で歩いていた俺たちは、一緒に来ていたタクシーに声をかける。


「我か?途中までは一緒しようと思ってな。車両のメンテナンスをしないといけないからな」

「すぐにやらないといけないことなのか?」

「ああ、何かあってからの発見が遅れたら、部品を見繕ったりに時間がかかるからな」


タクシーはそう言って、俺たちと一緒に向かうことにする。

先頭は、ウタだ。


「どこに向かうのか決まっているのか?」

「セツ、当たり前です、ついてきてください!」

「わかった、わかった」


面倒だとは思いつつも、セントラル以外の世界を初めて感じるのだから、仕方ないとも思う。

ウタは見えていないのにも関わらず、神木と呼ばれる大きすぎる木に向かって歩いている。


「なかなかつきませんね」

「端から真ん中までは距離があるからな。対して運動をしていないのが、体にきているだけだろ?」

「そうなのかもしれませんが、言い方というものがあると思いますよ、セツ」

「嘘をつくのはうまくないからな」

「そうなのかもしれませんけど…」


ここまでは結構な距離を歩いていた。

予定通り、タクシーとは途中で別れて、俺たちだけで神木を目指していた。


途中で、降っていた雨と呼ばれるものがやみ、晴れていたが、空の色は見たこともない色をしていた。

セントラルでは、常に茶色だった空が、ここでは青だ。

そして、太陽の日差しもかなり強い。


「すごいですね」

「何がだ?」

「なんていえばいいのでしょうか?いい匂いがします」

「いい匂いだ?」

「はい。セツにはわかりませんか?」

「わからないな」

「そうですか…」


ウタは少し悲しそうにする。

俺にはいい匂いと言われても、わからない。

土の匂いや草木の香りは確かにするが、それがいい匂いという意味にはとらえられなかった。

あまり多くの匂いを嗅ぎすぎてしまうと、もし何かに狙われてしまったときに、五感すべてで相手に対処するということができないからだ。


「いけそうか?」

「できるところまでは、頑張ってみます」

「そうか」

「はい」


あの美味しくないと言っていた完全栄養食も毎回のようにチャレンジをして食べようとしていたことを考えても、かなりの負けず嫌いというかやらないと気がすまない性格なのだろうということがわかる。

棒のようなものをついて安全かを確認しながら歩くので余計に疲れるだろうが、関係はないということなのだろう。

そんなウタと、それを後ろからついていっている俺というのは、傍から見ればご主人様と従者に思われる可能性もあったのかもしれないが、思ったことがあった。

たそれよりも違和感を感じていた。


「人がいないな」

「そうですね。音といいますか、それがあまりないですね」

「ああ…」


ここまでかなりの距離を歩いてきていたというのに、ここまで人に出会うことがなかったことだ。

確かに都市の周りといえばいいのか、お店には人がいた。

だというのに、神木に向かって歩けば歩くほど人がいない。

そもそも、外を歩いている人というのがいないのだ。

どういった意味があるのかわからなかったが、考えても仕方がないのでさらに近づいていく。


「さすがに休まないと無理じゃないか?」

「はい、そんな感じがしますね」


ただ、さすがに距離もあったため、俺たちは休憩を挟むことにした。

セントラルとは違い、ウエストの建物は木でできているからというのもあるのか、建物の大きさも低いこともあり風はよくとおる。

そのために、日陰で休むだけで心地よい。

セントラルのように機械のうるささも感じることもなく、水の音などの自然な音のみが聞こえている。

やはりおかしい。


「ウタ」

「はい。どうかしましたか?もう行きますか?」

「いや、少し隠れたい」

「どういうことでしょうか?」

「嫌な予感ってやつだ」

「嫌な予感ですか?」

「そうだ。なんとなくだけどな」


音がしないというよりも、ここまでくるとさせていないと感じた。

それはどういう意味を発するのか?

このウエストは、都市ぐるみでおかしなことをしているということがあり得るかもしれない。

でも、その理由がわからない。

理由がわからないのであれば、理由がわかるまで、相手の出方を見るというのが、定石だった。

そこでよく行うのが、完全に姿を消せるようにするということだ。


まあ、問題は俺とウタの二人が同時に隠れられるかというものだ。

たぶん、殺しをやってきた俺と違いウタはそういった技術がないのでできない可能性が高いだろう。

となると隠れるのは俺だけになる。


「ウタ」

「なんでしょうか?」

「これからやることに対して…」

「すべて話してください。私はセツのやることであれば、なんでも対応しますから」

「どうしてだ?」

「だって、私はすでに死んでいる人なんでしょう?だったら、生き残らせてくれた人には尽くそうと考えるのが普通です」


ウタはそう答える。

ただ、なんとなく考えていることはわかる。

こうやって強気に言っていたところで、不安なのだろう。

それはそうだ。

知らない場所で、一人きりでいるというのは、不安になるだろう。

それでもウタはしっかりと頷く。


「大丈夫ですから」

「わかった」


俺は再度ウタに説明をする。

そして、姿を隠すのだった。


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