十二話
「ここが、ウエストなんですね」
「みたいだな。そもそも壁がないよな」
「そうなのですね。確かに、言われれば圧迫感がありませんね」
「見えなくてもわかるものなのか?」
「はい。空気を感じることができますから」
俺たちが感動していると、車両がゆっくりと速度を緩める。
近くを見ると、セントラルとは全く違う光景だった。
道のようなものは、土を固めただけのものではあるけれど、しっかりとしているのがわかる。
そして、その奥には何かが多くなっているのが見える。
また、驚くべきものもあった。
「川だと?」
「セツ、どうかしたの?」
「セントラルとは違う、綺麗な川がある」
「綺麗な川とはどういういみでしょうか?」
「下が見えるんだ」
「下というのは地面ということでしょうか?」
「ああ」
「そ、それはすごいですね。確かに嫌な臭いというのもしません」
「ここは、セントラルと違って、すべてが綺麗だからな。もう少ししたら車庫につく。そこから少しの手続きを終えれば、ウエストの都市に入ることができるからな」
「手続きが必要なんだな」
「当たり前だ。書類を書いただろ?あれだ」
タクシーがそう言葉にして、理解する。
確かにセントラルでも、かなり書類を書かされた。
あれをまた書かないといけないと思うと、少し嫌な気はするが、横で楽しそうにしているウタを見ると、それくらいのことはしないととも思う。
結局のところ、それから書類を書いていたときだった。
外に何か音が鳴る。
「これは、なんでしょうか?」
「雨だ」
「雨とはなんでしょうか?」
「水が降る現象のことだ」
「水が降るだと?」
最初は何を言っているのかわからなかったが、本当に外を見ると小さな水の粒が空から降っていた。
初めて見る光景に驚いて、手が止まっていたときだった。
「あの、できましたか?」
「すみません、すぐ書きます」
「いえ、間違えのないようにお願いします」
そう言葉にしたのは、ウエストに入るための手続きを行っている女性だ。
入都と言われるその行為は、都市に入るための手続きを行うことだという。
こうやって書類を書く理由というのがなんのかということも教えてくれるいい人だ。
「ここには、本当にご飯を食べにと?」
「そうだ」
「その割には、二人も御使いを連れているのは、すごいことですね」
「御使い?」
聞きなれない言葉に、俺は聞き直してしまう。
二人連れているというのは、ウタとタクシーで間違いはないのだろうが、御使いという言葉がなんなのかわからない。
ただ、女性は不思議そうだ。
「御使いというのは、体の一部を犠牲にして、神様から特別な力を承った人のことを言います」
「それが、ウタとタクシーってことになるんだな」
「はい。すごい存在なんですよ。ウエストを納めていらっしゃるオーラン様も同じように御使いですから」
「そうなのか…もしかして、御使いってわかったら、特別扱いがされたりするのか?」
「どうなのでしょうか?それはわかりません」
女性はそう答える。
ウタたちは、外の雨を見ていたからか、今の話を聞いていなかったことは救いなのかもしれない。
都市が違うだけにそんなことがあるのだというのだろうか?
それに驚く内容だった。
それは欠落者が珍しい存在だということだ。
セントラルでは、欠落者というのはそれなりにいた。
そして、セントラルを納めているとされている人も、普通の人だと認識している。
だからこそ思うのは、セントラルとは違う都市では、文化すらも違うということなのだろう。
そのことに驚きながらも、書類を書き終えた俺たちは先ほどの女性にオススメされたご飯を食べることにした。
「美味しい、美味しいです」
「そうなのか?味はあまりわからないが…」
「これの美味しさがわかりませんか?」
「タクシーはわかるのか?」
「我か?こう見えても、いろんな場所のものを食べてるからな、これはこれでうまいとちゃんとわかるぞ」
「そうなのか」
実際に食べたところで、わかるというものではなかった。
確かに味はするのだが、それが美味しいという感想にはならなかった。
そんな俺を見て、ウタが言う。
「まだまだたくさんの料理を食べないといけませんね!」
笑いながらのその言葉はこれからの試練の序章にしかすぎなかったが、新しい都市ということに俺たちは三者三様のモチベーションで挑むのだった。