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透明街の人喰い獏 (2)  作者: 葉里ノイ


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193-焼失


(虫の駆除をすべきか、フェルニゲシュの始末をすべきか……)

 穴だらけの古城で、ズラトロクは頭を抱えていた。

 立ち入り禁止の塔の最上階、フェルニゲシュの首輪を処置するための部屋から無数の巨大虫が飛び出した。体長は以前、城下町で処理した個体よりも短く小振りだ。幾つかは始末したが、個体差なのか一部は素速く逃げられてしまった。

 虫を追うか考えるが、方々へ散ってしまったので、一人で全てを追うのは困難だ。

 それより避難が遅れて城にまだ人が残っているなら手を貸すべきだろう。暴走するフェルニゲシュの攻撃と巨大虫は変転人には相手できない。

 虫が蠢く最上階の部屋には、虫以外に生きている個体はいなかった。転がるミモザは全て亡骸だった。上の方にある亡骸は最近死んだ者のようだが、下敷きになっている亡骸は枯れ果てていた。彼が虫を認識するよりも前に死んでいたようだ。

 ズラトロクは一旦そこから離れ、瓦礫の転がる廊下を走った。ミモザの行動は彼にはわからず、もし生きている者がいたとしても、声を上げてくれなければ居場所が特定できない。フェルニゲシュの破壊の音を聞いて距離を判断しながら、ズラトロクは唯一心当たりのある厨房に飛び込んだ。

「おい! 誰かいるか?」

 仕事場が固定されている変転人は調理師だけだ。幸い厨房はまだ存在していたが、一部に欠けが見られる。衝撃で調理道具や食器が散乱し、割れた皿やグラスの破片が飛び散っていた。

「……ロク、様……?」

 震える小さな声が何処からか聞こえてきた。厨房の隅の大きな冷蔵庫の陰から、灰色頭の少女が目に涙を溜めて覗いていた。

「ハトか?」

「は、はい……ハトです」

「怪我は?」

「転んで、少し擦り剥いたくらいです……」

「来い。ここは危険だ、避難しろ」

「は、はい……」

 返事はするが、ハトは腰が抜けて立てなかった。頭の先が動かないことで察し、ズラトロクも厨房に入る。

「す、すみません……」

「いい。城下町に一人で避難できるか?」

「走るんですか……? バイクがあれば、何とか……」

「わかった。バイクまで連れて行く」

 杖を持ち直し、床に座り込む調理師の少女を抱え上げ、城壁の外に停めてあるバイクへと向かう。城に用がある者や配達をする変転人のために駐輪所があるのだ。

 有色の変転人であるハトは自力で転送ができない。花街の外へ逃がすのが最も安全だが、ズラトロクはこの惨状を残して城から離れられなかった。

「あ、あの……その、これは一体何の騒ぎなんですか……?」

 フェルニゲシュの首輪も寄生虫のことも知らない有色の変転人は、この騒動の原因を想像すらできない。もし明かしてしまえば、城下町に混乱が起きる。その混乱を鎮める人手は足りない。まだもう少し、濁して足掻くしかない。

「調査中だ。城内の問題だから、暫くは城下町にいてもらうことになる。鎮静すれば迎えに行く」

「え……そこまで御迷惑は……」

「気にするな。独断で戻って巻き込まれたら大変だからな」

 ズラトロクは女性に対しては手厚い。一箇所に長居するのは危険なため、厨房に他に誰もいないことを確認して駆け出す。

 廊下を走って門から出ると遠回りだ。廊下の窓を開けて飛び出す。

「うっ……」

 高所の宙で一瞬ふわりと浮くような感覚があり、ハトは小さく声が漏れた。人の姿を与えられる前は空を飛んでいたが、翼を失った身を高所へ踊らせると恐怖が微かに顔を覗かせる。翼があるからこそ空中は穏やかなのだ。

 しかもそのまま落下した。獣でも一度の跳躍で城壁の上には辿り着けない。一旦庭へ降り、駆け抜けて城壁へ跳び上がる。

 城壁の外の一角に自転車とバイクが数台停まっており、ズラトロクはその前へ降り立ってハトを下ろした。フェルニゲシュに吹き飛ばされている可能性も考えていたが、幸い駐輪所は無事だった。

「……よし、気を付けてな」

 スクーターを一台引き抜き、城下町へ頭を向ける。大型のバイクも停まっているが、小さい方が標的になる確率は低い。

「かっ飛ばして行きます」

 乗り物のある場所まで送ってもらい、気持ちも軽くなったハトはサングラスを取り出した。食材として捕らえられ死を待つだけだったが、気紛れで人の姿を与えられて命拾いした彼女は逞しい。

 変換石で走るよう改造されたバイクのエンジンを吹かし、ハトは深々と頭を下げて走り出した。

 城壁の向こうから壁を穿つ音が聞こえ、ズラトロクはハトの背に向けて杖を振る。まだ届く距離で良かった。城から離すために空間を切断して彼女を遠ざけ、誰もいなくなった空間に黒い光が走った。


     * * *


 花街の城下町では、古城の騒ぎなど目にも耳にも入らない。常のように平和そのものだった。

 日常を送る変転人達は市場で買い物をし、談笑する。巨大虫が現れた所為で混乱と恐怖が充満していたが、漸く少し緊張が解けたのだ。

 城下町は大きく分けて四つあり、巨大な虫が現れた場所はここから離れた町である。そして城が調査をしている安心感もあった。

 無色の変転人は有色のようにまだ日常には戻れないが、有色が外出をしていることに安堵している。もしまた妙な虫が現れたら迅速に察知して避難させるのが無色の務めである。そういう責務があるわけではないが、無色は武器を生成できるため自ずと責任感が湧いてくる。

 灰所属のジギタリスは城下町を巡回し、異変がないか感覚を研ぎ澄ませる。虫が現れれば、あの大きさなら有色でもすぐに気付く。無色ならその前、虫が現れる兆候を察知したい。

 現在ある情報によれば、虫は城下町の外から侵入した痕跡が無く、突然町中に現れたようだ。屋根より高く体を持ち上げる虫は遠方からでも屋根越しに見ることができる。なのに外から来た目撃情報が出て来ないのだ。

 調査している城の話だと、変転人に寄生しているのだと言う。あんなに大きな虫がどうやって変転人の体内に落ち着けるのか、全くわからなかった。

「――タリス、そっちはどうだ?」

 同じく巡回していた無色の青年がジギタリスの姿を見つけて、道の反対側から軽く手を上げた。

「ベル」

 道を横切り、ジギタリスは黒所属のベラドンナへ早足で接触する。彼は昨年に人の姿を与えられたばかりで、面倒見の良い先輩であるジギタリスによく花街のことを教わっている。

 ベラドンナは全草に毒があり、根と根茎に特に強い毒がある。黒い実を付けるが、それも毒である。ベラドンナは摂取すれば最悪死ぬほどの猛毒で毒薬として有名だが、薬としても用いられている。ベラドンナは『美しい女性』という意味で、散瞳の効果があり、瞳を大きく見せるために女性が好んで使用した。

 彼は男だが、そんな名前の所為か中性的な顔をしている。

 ジギタリスは虫が出現した町に棲んでいて、彼と情報を共有するためにここへ遣って来た。虫が出現した町は虫を認知しているが、それ以外の町はまだあまり情報が行き届いていないのだ。調査が一段落して漸く他の町にも目を向けることができた。

「特に変わった所は無いかな。具合が悪そうな変転人はいなかったよ。城の方から時折聞こえる音の方も気になるけど……」

「音?」

「ベルは聞こえない? 今は止んでるけど、時々音が聞こえるよ。何の音かはわからないけど、ここまで聞こえるなら相当大きな音だね」

「鐘じゃないのか?」

「鐘なら鐘ってわかるよ。わかるよね?」

「たぶん……わかる。叩き損ねた鐘の音じゃないのか」

「今までそんな気の抜けた鐘の音が聞こえたことはないかな……」

 死刑の鐘がそんな気の抜けた音を発したら、幾ら罪人でも浮かばれない。しっかりと死に切れず苦しんで化けて出そうだ。

「そうだ、さっき差し入れを貰ったんだ。やるよ」

「差し入れ?」

「町を守ってくれてありがとう、だと」

 ベラドンナは袋に入ったビスケットを差し出す。武器を生成できない有色は、危険に立ち向かう無色を尊敬している。巡回しているとこうして食べ物を貰うことがある。

「この御菓子をいつまでも食べられるように、私達は守らないとね」

「御菓子って、何で焼いたら御菓子になるんだろうな」

「っ……材料を混ぜて、捏ねて、焼けば出来上がるんだよね?」

 唐突な問いにジギタリスは目が泳ぐ。先輩だろうと質問に答えられないこともある。袋に伸ばした手がびくりと止まってしまった。

「タリスは料理も製菓もできないんだよな?」

「ぐ……確かに私は作ってくれる人がいないと死ぬけど!」

「俺もだな。タリスが教えてくれないと俺もできない」

「それは他の変転人に頼むといいよ……私が無理ってだけで、ベルまでできないままじゃなくていいよ」

「適材適所か? 人は難しいな。植物なんて地面に根を差したら生きられるのに。人は足を地面に差しても餓え死にする」

「……試したの?」

「遣るだろ。本当に体が変化したのか」

「私は遣ったことないけど」

 虫や他の動物に比べ、植物は人間と懸け離れている。その分、人の体に慣れるのに時間を要する。そして植物と人の体の違いを恐る恐る確認し、認識していく。人の体のどの部分が植物の根に相当するのかわからないが、足だろうと考える者は多い。

「人の体は便利だ。でも光合成ができないのは欠陥にしか思えない」

「まあね……人の体はこういう美味しい物を知れるけど」

 ジギタリスは笑いながら甘い菓子に手を伸ばし、一つ抓んだ。植物は菓子を食べられない。

 その手と抓んだ菓子は、とさりと軽い音を立てて地面に落ちた。

「え……?」

 理解が追い付かないというのは、こういうことを言うのだろう。ベラドンナの前には平和な市場があるはずだった。変転人が行き交い、食べ物や雑貨などが売られる小さな店が並ぶ。肉類はあまり店頭に出ないが、木箱や籠に入れられた色取り取りの野菜や果物、大きな瓶や袋に手作りの菓子が並んでいた。

 その全てが一瞬の内に消えた。目の前にいたジギタリスもいなくなった。

 足元に落ちた手は肘から向こうが無く、焦げた断面からは血も流れない。

 道を歩いていた変転人も見当たらない。

 ベラドンナは徐々に鼓動が速くなるのを感じた。ビスケットの袋を持つ手に力が籠り、幾つか砕ける。小刻みに震える手に汗が滲んだ。

 背後の離れた場所で悲鳴が上がる。その声は伝播し、彼と同じように思考が停止して呆然としていた変転人達が叫び始める。

 城の方から抉れた地面は真っ直ぐに、その線上の全ての存在を焼き消してしまった。

「タリス……人の手を地面に差したら生えるのか……?」


     * * *


 調理師を逃がし、ズラトロクは踵を返して古城へ戻る。騒ぎの元凶を殴らなければならない。城の壁には寄生虫が何匹も貼り付いているが、ハトは気付いていなかっただろう。長身のズラトロクが体で視界を塞ぎ、駐輪所からは城壁が阻んで見えない。あんな物を見れば、あんなに余裕のある顔で去れなかった。

 虫の始末は後に回し、ズラトロクは立ち入り禁止の塔へと駆ける。

(誰もいないのか……? それとももうフェルニゲシュを抑えに行った?)

 ハト以外、近くに生存者はいなかった。フェルニゲシュを共に抑えたヴイーヴルとアイトワラスの姿も見えない。城は広いが、今は警戒する対象が同じで、行動は似通ってくるはずだ。なのに物音が聞こえない。

(ハトの他にも誰かを発見して、避難を手伝ってるのか……?)

 塔を繋ぐ渡り廊下を駆け抜け、開いたままの扉に飛び込む。そこで慌てて停止した。

 瓦礫を踏み、フェルニゲシュがゆっくりと歩いていた。

(何だ……? 目が紅い……ヒートか!?)

 その割にはフェルニゲシュは静かである。話には聞いたことがあるが、ズラトロクは熱暴走(ヒート)状態の獣を見るのは初めてだ。暴走と言うのだから、手が付けられないほど暴れ回るものだと思っていた。

(ただでさえ厄介なのに、ヒートとは……俺一人では抑えられない……!)

 杖を構えるが、ドラゴンである上に首輪で抑制し続け爆発しそうな獣の相手などしたくない。近辺にはやはり誰の気配も無く、ヴイーヴルとアイトワラスの助力は得られそうにない。

「フェルニゲシュ……」

「…………」

 名を呟いても返事は無い。今だけは性別がどうと気にしないのに、彼は虚ろな紅い双眸をズラトロクに向けるだけで、話そうとしない。

「……何故、無差別に攻撃をする……君の所為で、何人が死んだと……!」

「…………」

 杖を握るフェルニゲシュの手に力が籠る。耳は聞こえているのだとズラトロクは察した。

「自我のある内に杖を仕舞え、フェルニゲシュ! これ以上……」


「――何人、殺した?」


「!」

 返事があるとは思わなかった。言葉を返す余裕が残っているとは。

「……話せるなら理性が残ってるってことだな。一旦杖を仕舞おう。俺も……」

「お前は、何人殺した?」

「……俺?」

 フェルニゲシュは己が何人殺したのか尋ねているのだとズラトロクは解釈した。だが違うようだ。ズラトロクは言葉に詰まってしまう。フェルニゲシュは彼が生まれてから今までに何人殺したか聞きたいのだろうか。その対象は獣なのか変転人なのか、殺した人間の数なら問われても覚えていない。

「何で急にそんな……」

「お前は何人、アナを殺した?」

「アナ……? ゲンチアナのことか? 俺は、殺したことは無い」

「……そうか」

 妙な質問だ。まるで今まで何人ものゲンチアナが犠牲になったことを知っているかのような――

(まさか……!)

 一つの推測に辿り着き、ぞわりと悪寒が走った。

 首輪の維持のためにフェルニゲシュがゲンチアナを殺す時、彼に理性は無い。意識はあっても、ゲンチアナを殺したことを覚えていない。なのに、彼はそれを知っている素振りをする。

 その答えはあまりに簡潔で、無情だった。

「……誰から、聞いたんだ」

「アイトが……言っていた。まだ頭の整理ができていない……整理ができない。誰がアナを殺したんだ……何度も、何度も……」

(アイトワラスか……! 何てことを……何がしたいんだ、あいつは! やはり男は信用できない……!)

「怒りが泉のように湧いてくる。それを外へ放出する」

 フェルニゲシュは壁に杖を向け、揺らぐ光線を放った。

(自我はあるが、感情が制御できないのか……)

 廊下に大穴が空き、壁が瓦礫となる。話はできるが、対話は無理のようだ。長年首輪で御していた弊害だろう。自分の感情に振り回される姿は哀れだった。

 誰かが力尽くで止めるしかない。ズラトロクは杖を構え、首を落とすつもりで薙いだ。暴走するドラゴン相手に手加減などできない。

 力を抑えられていても出力の仕方は忘れない。フェルニゲシュは細い管が絡んだような奇怪な杖をズラトロクへ向けた。

 フェルニゲシュの首は落ちず、傷一つ付かない。

(見えない壁があるようだ……。力を抑え付けていたからな……こいつの能力がわからない)

 唯一、首輪に綻びが出る約五十年に一度だけ、理性を失った彼の力を目にすることができる。その際は黒い炎で焼き尽くしていた。煌々と眩しいが目が眩むことはない揺らぐ光線は見たことがなく、見えない壁で防ぐのも初めてだ。相手が変転人なら本気を出す必要が無いからだろう。

(嫌なことを思い出す……。俺だって……犠牲を生まずフェルニゲシュを封じられるなら、その方がいい……)

 久し振りに動いたとは思えない速度でフェルニゲシュは瓦礫を跳び越え、ズラトロクは咄嗟に杖を構えた。フェルニゲシュが振り下ろした杖をズラトロクの杖が受け止める。流木がぶつかるような軽い音が重く伸し掛かった。

(何で杖で直接殴るんだ!? 戦い方を忘れたのか!? ガス欠か……? 杖が折れたら大怪我だぞ!?)

 余程強度に自信があるのか、フェルニゲシュは剣戟を繰り広げるように杖を振る。ズラトロクは剣など握ったことがなく、受けるだけで精一杯だ。

 杖が折れないよう力を受け流しつつ、跳び退いて距離を取る。杖で殴ることを想定していなかったズラトロクに対し、フェルニゲシュの杖はある程度の強度を持たせているようだ。

(……剣のような動き……アルペンローゼか)

 アルペンローゼは日中は忙しなく仕事に走り回っているが、皆が寝静まり仕事の無い夜に庭で鍛錬をする時がある。それをフェルニゲシュは自室から見下ろしていた。アルペンローゼの武器は刺突を得意とするレイピアだ。

 フェルニゲシュは杖を突くように繰り出す動きをしている。

 刺突は受けることが難しく、避ける方が楽だ。アルペンローゼの両刃のレイピアなら避けた後に薙いで血が舞うだろうが、フェルニゲシュの杖には刃が無い。アルペンローゼの真似をしても力を発揮できない。

(まともに相手をしない方がいいな……俺の方が折れてしまう)

 連続で空間切断を行い、フェルニゲシュが追い付く前に距離を取る。

 フェルニゲシュは彼を追わなかった。紅い視線だけがズラトロクを追っていた。その手の杖に絡む細い管が生き物のように動き出す。

(何だ……?)

 細い管は解けようとするが解け切る前に再び絡み合う。――いや、形を、杖の形を変えていた。

 奇怪な杖は変形し、細い管を纏ったショットガンの形を作り出した。

「は」

 ズラトロクは思わず声を漏らしてしまう。杖を数本所持する獣は珍しくないが、変形する杖など聞いたことがない。

 彼の杖はサーベルのような形をしているが、刃物のように切れるわけではない。ならばフェルニゲシュが変形させたショットガンのような杖も実際に撃つことはできないだろう。

 ――もしそれが変形した物でなければ、そう思っただろう。変形する杖がズラトロクの杖と同じわけがない。現にフェルニゲシュはそのショットガンの銃口を上げ、ズラトロクへと向けている。

「おい……何をしているかわかってるのか……? 男はこれ以上庇わないからな……」

 忠告を最後まで聞かず、フェルニゲシュは微塵も躊躇無く引金を引いた。もうズラトロクの声は彼の耳に届いていないようだった。

「!」

 杖を振る間も無く、ズラトロクは転ぶようにそれを避けた。この時ほど集中力と反射神経を発揮したことはないかもしれない。

 先程まで放っていた光線よりかなり細く、小さな銃口から発射された物で間違い無い。

 遠くで破壊の音が微かに聞こえ、ズラトロクははっと振り返った。

「な……」

 背後の壁は撃ち抜かれ、野原と薄青い空が広がる外が見えた。その向こうにちらほらと黒い光が揺らいでいる。

「嘘だろ……」

 攻撃を避けても、古城の周囲に建造物は無い。広い野原が広がるだけだ。誰も被害を受ける心配は無い。そう思っていた。

 なのに、ショットガンから発射された光線は何も無い野原を抉り、彼方の城下町に届いていた。射出する光を細くすることで威力よりも距離に力を割き、より遠くへ飛ばしているようだった。

「フェルニゲシュ!」

 城下町で変転人が叫んでも声は聞こえない。家々を破壊する轟音だけ辛うじて耳に届いた。

 もしエーデルワイスやアルペンローゼが城下町に避難していたら。無いとは言い切れない。彼女達が何処に避難しているか、ズラトロクは知らないのだから。

 ズラトロクは怒号を上げ、杖を振って距離を詰めた。あれだけ強力な弾は連続で撃てないはずだ。フェルニゲシュはその場から動かず、されるがままズラトロクに胸倉を掴まれた。彼はもう片手で銃身を掴んで銃口を下げる。

「なんてことを……!」

「…………」

「罪人はやはり何の反省もしない……首輪なんか、贅沢だったんだ! 君のために一体何人のゲンチアナが……!」

 銃口がぴくりと動く。

 ズラトロクに掴まれていようが構わず、フェルニゲシュは銃を上げる。押し返されても、僅かにフェルニゲシュの力が勝っていた。

「ゲンチアナを無駄死ににさせる気か!? 君が暴走して変転人を殺し続けたら、ゲンチアナが報われない!」

「…………」

 フェルニゲシュは拮抗しながら銃口を上げ、ズラトロクの胸に当てた。

 ズラトロクが避ければ、また城下町に着弾する。

 自分の身で受け止められるかわからない。少なくとも、白い獣のように腕を吹き飛ばされるだけでは済まないだろう。存在を掻き消されて最期を迎えた上に城下町も吹き飛ぶなら最悪だ。

 止められるならば止めたい。だがドラゴンを前に何処まで足掻けるのか。せめて同じ龍属のヴイーヴルがここに居てくれれば、もう少し希望があったのに。

 銃口がズラトロクの胸を向いたまま、フェルニゲシュは空虚な紅い瞳に何も映さずに引金を引いた。


女の子が見て可愛いと思う杖はやっぱりハートとか月が付いたやつかなと思うんですが、男の子が見て格好良いと思う杖は何だろう? と考えて作ったのがズラトロクとフェルニゲシュの杖です。剣とか銃は格好良いし、変形も格好良いです。

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