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7.風と水

あれから5年。ヘクサライ歴1060年。

ルークは10歳となり、体も大きくなった。あれからどの探検家も研究者も魔族に関することは新事実は何も出てきていない。ユリウスとの探検は多忙ではあるが、ルークにとっては全てが新鮮で楽しいものであった。

ユリウスの探検エリアとしてはドルト公国内を探索するのが、使命である。ユリウスはクルーゲ公爵のお気に入りとして、長年国内を拠点としていたが、5年前の魔族研究会議において、更に距離が近くなり、翌年探検家としては異例の騎士爵の資格を授与された。


 「あれから5年か‥」


ルークは馬車を引きながら、呟いた。それを聞いたユリウスは寝そべりながら、笑みを浮かべていた。

丸一年の長旅をして、毎年4月に行われる魔族研究会議へ参加するために毎度、ミュンベル大公宮殿へ戻る。その繰り返しである。

そして、毎度シーアイルへ滞在する。


 「あ、おかえりなさーい。」


15歳になったジミーが大きな声で2人を迎え入れた。

この1年、母ジルの体調が悪く、娘のジミーが主体的に客の対応をしている。


 「ジルさんあの体調はどうだ?」


ジミーの顔を少し不安な様子であり、小さく首を横に振った。

その後、ジミーはビールとオレンジジュースをテーブルに置き、次にフライドポテトとパン、ルークの大好物の肉団子ホワイトソースがテーブルに置かれた。

客は2人だけしかおらず、ジミーは隣の席に座った。


 「とにかく、今はお父さんと2人で何とか頑張らないと‥」


水を勢いよく飲み、頬を叩き、その場を去った。

ユリウスもルークもジミーが疲弊しているのが、分かった。

その日は2人とも2階の部屋に行き、就寝した。


翌朝。

朝食を食べた後にジルの姿が見えた。1年経過したとは思えないほど、白髪や皺も増えていた。

ジルの一生懸命の笑顔とジミーの寂しそうな笑顔と共にルークとユリウスは馬車で宮殿へ向かった。

毎年来る長い街道を抜け、宮殿へ到着。クルーゲ伯爵への1年間の報告済ました。


 「そういえば、ルークは10歳になったのか‥」


その言葉を発したクルーゲ伯爵は何処と無く、寂しげな顔をしており、じっと見つめていた。

そして、ユリウスに顔を向け、紙を渡した。


 「ユーリ。これを見ろ。」


ある報告書であった。

北の隣国にあるマクレスター王国への調査であった。

内容は「黒血病の調査」と記してあった。


 「今回の報告でこの黒血病の報告が増えていて、それを2人に調べてきて欲しいんだ。」


黒血病とは魔族種の血を体内に取り入れることにより、人間種の血が黒く変色し、臓器が壊死していく病である。

第一次人魔大戦後に数名が羅患し、研究されてきた。感染力などはないが、致死率50%とされ、治療方法は水分の摂取により、魔族の体液を排出することしか確立されていない。


 「黒血病って大体、魔族との大戦時に増加するものであって、現在はそんな戦いもないのになんで増加しているんですか?」


ルークも黒血病は調べており、治療方法も独自の物を一度、クルーゲ公爵に提案している。

 

 「流石は黒血病を研究しているだけはあるな、ルーク。元来、この病は大戦後の兵士が発症することが多い。ただ、今回はマクレスター王国内の一般市民が10名ほど、国境にあるドルト公国ハンジェル地方で、3名の報告がある。おそらく、私の考えではこの2倍いや、下手したらもっと多いかもしれない。そのため、今回魔族、もしくは”魔人”が主導してこの騒ぎが起こっていると考えている。」


魔人。

ヘクサライ歴955年にフィル・フォーゲンが魔族(devil)を発見して以来、数多の魔族が発見され、それに伴う大戦も2度起きている。ただ、どの書籍にも魔人(demon)


 「ユリウスは魔族探検においては世界でもトップの情報収集能力だ。その見習いのルークは10歳であるが、既に探検家での独り立ちも可能、そして、黒血病の研究もしている。それに過去に魔族を1人殺したという世界で唯一の子だ。まだ、訓練してるのだろう?」


5年前の会議からBar.エナルの裏山をクルーゲ侯爵が全て買取、ルークに貸し出している。

ルークは毎年戻ってきても謎の力の研究と鍛錬を欠かさずに行ってきた。


 「もうルークがある程度、その力を制御できているのであれば、この極秘の任務による調査をお願いできないか?」


ルークは少し黙り込んだ。

この能力が本当に役に立つかわかないからだ。

5年前からルーク自身に課された訓練であり、クルーゲ侯爵とその近衛兵の一部しか知らされていない。

思い口を開いた。


 「僕はこの5年間、自分の力と向き合ってきました。僕はこれを『魔を制する術』、”魔術”と名づけました。」


 「ほう。”魔術”か‥それで、今は魔を制する術は身についたのか?」


ルークは大きな白紙を空いているテーブルの上に広げ、何かを描き始めた。


ルークの中で”魔術”とは心の奥底にある炎のようなモノがあり、色がついている。魔術には種類がいくつかあり、ルークは5年前に黒い炎と緑の炎が現れた。黒い炎は意味を理解してないが、緑の炎は「風の魔術」が使える。おそらく、他にも魔術の種類はたくさんあり、それらの予想などを鵜まえ、白紙に描き丁寧に説明していた。

そして、2年前には青色の炎を現し、「水の魔術」も使えるようになった。風も水も形態変化をさせ、大木を一本切り付けるくらいまでは操れるが、使うと体力の消耗が異常に激しく、その場で動けなくなるほどであった。


 「そうか。水と風を生み出し、どちらも形を変えることができるのか。その話を聞く限りだと、他にも何種かは使える魔術はありそうだな。」


ルークもクルーゲ侯爵の話に同調していた。


 「そういえば眼の方はどうなっている?」


ヒンターカイフェ村襲撃時に覚醒した遠くを見る力と透けて見る力、それと人や物を見る時に時折様々な色のオーラが見える。これはここ2年くらいして、見え方を習得した。


 「人や物、例えば石とかが多いです。透明なオーラとか黄色オーラとかが、たまに見えます。おそらく、これは魔術を使うための力が漏れ出しているんだと思います。僕は”魔力”と名づけました。」


ルークは具体的に魔力の説明をした。

魔力は万物全てに備わっており、全ては無色透明のオーラのような物を放っている。ただ、人やモノによっては見えなかったり、大きかったりする。ルークは無色と水色、緑色、黒色を交互に放っている。その色は魔力の種類である。魔術を使いすぎるとオーラは徐々に薄くなる。身体や精神的な部分を大まかに支えている目に見えざるエネルギーと考えた。


 「”魔術”、”魔力”‥この5年で色々と研究をし、説明できるほどになっているのは感慨深いな。今は魔族1人は倒せる程になってるのか?」


ルークは自身なさげに答えた。


 「多分‥ただ、5年前よりはこの力の使い方もわかってるので、なんとかなるかもしれません。」


クルーゲ公爵はその話を聞き、分厚い資料を2人の前にドンと置いた。


 「先ほど話した。マクレスター王国に関する資料だ。2人に国外調査を命じたい。もちろん優秀な兵士も何人か同行させる。」


国外調査は過去に一度だけ実施されており、それ以降はない。

その時は調査員2名で行き、帰らぬ人となった。現地国の要人からは魔族による襲撃と言われている。その時もマクレスター王国であった。


 「マクレスター王国は外交もしており、貿易もしている。ただ、過去に一度調査員が2名が惨殺されている。我が国としては魔族、もしくは魔人が国家の中枢に潜んでいる可能性がある考えている。それもルークのその目で確かめてきてほしい。」


魔族であれば、人の目で判断はできるが、魔人は人と見た目が変わりなく、見た目では判断できないと言われている。ある書籍には「魔族と同様に尾が生えており、それを隠している」という記載がされているが、定かではない。そのため、ルーク・ウィザードの”眼”が必要になったという経緯である。


 「わかりました。ただ、もしもこの調査が成功した場合はルークにも爵位の授与をお願いしたいです。おそらく、死人が出る可能性もある調査です。そして、今回の柱はルークです。ですので‥」


クルーゲ公爵は手を前に出し、発言を制止した。


 「ユーリ。そんなことを言われなくとも、それは頭に入っておる。それにそれだけではない。他にも考えているが、それは国外調査後に伝える。最大限君たち2人を守る体制は整えている。出発は3日後だ。頼むぞ。」


発言後、2人をじっと見続け、焼き付けていた。

2人は深々と頭を下げ、部屋を出た。


 「ユーリ。どうするの?」


ユリウスは帰る途中、露天で酒を買い、勢いよく飲み始めた。


 「ルーク。お前は頭が良いからわかるだろ。あの君主様の目だ。あれを見たら、覚悟するしかないだろ。」


そう言い、また酒を買い、勢いよく飲んだ。


 「ねー、それのどこが覚悟なの?」


そのままユリウスはいつもの行きつけの酒場に入って行った。

ただ、ルークはその覚悟というものは届いていた。国外調査が成功したら、莫大な国益となり、各国の魔族研究に大きく差をつけることが可能であり、更にマクレスター王国が魔族に支配されていると分かれば、進軍をし、撲滅することも可能である。反対にもしも失敗したら、国外調査員は死ぬことになる。

その可能性を低くするため、ルークも同行する。

それもルーク自身も理解していた。だから、少し不安であった。


 「とにかく、残り3日で僕が魔族を倒し、みんなを守らないと‥」


ルークはBar.エナルへと戻り、その裏山へ行った。

今できることは水の魔術と風の魔術を駆使することであった。


 「そういえば、魔族は水中で窒息死することが判明してたはず‥そしたら、それを上手く利用すれば‥」


ルークは今まで水や風は形態を刃物のように変え、切り刻むことだけを訓練していた。

ただ、風には風の能力、水には水の能力を分けて考えるようにした。

水をイメージし、足元から湧き出し、目の前にある人サイズの岩に水を纏わり付かせた。

これは水中での無酸素状態をイメージした魔術である。

ただ、風は空気中にあるイメージであるが、水は池や川のイメージ、そのため地下水からわざわざ湧き出さないといけない。更に岩を纏わり付かせるほどの水の量は魔力の消費量が大きく、消耗が激しい。

なので、この3日間は魔力量を増やすことと、効率的に水を生成することが重要になる。


 「そういえば、水って空気中にもあったよね‥」


そう呟くと、目を瞑り集中した。

イメージは水蒸気、今いる場所は山の中、木々からも水は湧いている。

両手を前に出し、掌に水を生成した。


 「おーなんだこれ」


目を開けると今まで出したこともない今までの2倍の水の量を生み出した。

更にルークは疲弊していなかった。


 「すごい。この量で今まで魔力も半分以下なら使える。ただ、生成までが遅すぎるからそこを変えないと‥」


魔術の特性を捉えて、攻撃パターンも増やさないといけないとルークは考え、日が暮れるまで訓練を進めていた。


翌朝。

気づくと、ベッド上にいた。


 「おぉ起きたか。お前裏山で倒れてたから運んできたんだぞ」


トーマスが安堵した顔で言っていたが、全く記憶にない。

ただ、ルークは水魔術をひたすら使用していたことを思い出した。


 「俺はお前のその魔術というものは全くわからないが、未知の力を使ってんだ。もう少し慎重にやりな。」


魔術に関しては刊行令が敷かれており、知っているのはクルーゲ公爵や一部上層部、そして今回の国外調査員のみだが、裏山をクルーゲ公爵が買い取る際にトーマスに直接事情を説明していた。

ルークは一呼吸置き、今の言葉をしみじみ理解した。

トーマスが置いてあっただろうサンドイッチと少し冷めたスープを勢いよく食べた。少し物足りなかったが、それよりもルークは今の魔術をどうコントールするかをまとめたかった。


 「僕には今、確かに魔力量を増やすことも大事だけど、魔力を無駄に放出しないで、コントロールする。これをあと2日で完成させないといけない。」


ルークは2日間、魔力コントロールを重点にした水の形態変化、風の殺傷性を上げるトレーニングを突き詰めた。

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