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3.ユリウス・シノダ

何時間寝ていたのかはわからない。

ルークはずっと長い夢を見ていた。母との楽しい思い出ばかりだ。何年もこのままが良いと思えた。

それを邪魔するかのように急に外部からの夢を破壊された。


 「おい、大丈夫か」


寝起きであり、夢を途中で終わったということから少し不機嫌な顔で声のする方へ目を向けたが、全く見知らぬ人であった。それに自分の目の前に母の姿も村人の姿も見えなかった。あの出来事は全て悪夢だったのかもしれないと考えた。


 「あ、あの、あなたは誰ですか?」


身長は大きくないが、厚着している服からでもわかるほどの筋肉質な体であった。

そして、今まで見たことのない顔の系統であり、ルークは少し怯えていた。


 「あー、怖がらせて申し訳ないね。私はユリウス、”ユリウス・シノダ”だ」


ルークはその名前をどこかの本で聞いたことがあったが、思い出せなかった。

ただ、その男は笑顔で接してくれ、今のルークの状況にも何も聞くことはなかった。

年は30歳でドルト公国ミュンベル州出身とのことだ。それ以外のことは話さず、ルークとユリウスは大きく穴の空いた牛舎を突き進み、牛のいる牧場に座り込んだ。バッグに入っていた不味い手作りパンをルークに食わせた。


 「不味い‥」


人生で食べたパンの中で、一番不味いパンだった。

だが、一番胸に突き刺さるパンだった。これは全て現実だったと確信した。


 「ユリウスさん、ママはどこにいったか知ってる?」


ユリウスは黙っていた。

ルークはそれを見て、何かを感じ、不味いパンを全部食べた。

1分くらいの沈黙だった。

ただ、その1分は2人にとっては1時間くらいに感じる長い時であった。


 「君、そう言えば名前は?」


重い口を少し開いた。


 「ルーク・ウィザード‥」


 「ルークか。良い名前だ。少し長いお話をしても良いかな?」


ルークは小さく頷いた。


 「俺はこの国の命令により、魔族の生息地を探している探検家なんだよね。それで先日、ここから山々を越えた村でヒンターカイフェ村の話を聞いたんだ。夕方ごろ、その道中に魔族がこの村付近で飛んでいるのを見たんだ。だから、一旦身を隠していたんだ。ただ、夜になると物凄い大きな音が聞こえたんだ。だけど、夜に動くの危険だから、早朝ここに向かったんだ。そしたら、そこの牛舎が大きく崩れていた。そして、ルーク君と他大勢の人が倒れているのを見てすぐに駆け寄ったんだ。」


その話を聞いて、ルークが理解したことが2つあった。

まず、今があの時から翌日の朝になっていた。それと、ユリウスが母と村人たちをどこかに移動させたということだ。


 「ママは今どこなの?」


ユリウスはあまり言いたくないような顔をしていた。

だが、純粋な子供の目を見て、重い現実を突きつけてしまうと思いながらも牛舎横へ案内した。


 「俺がついた時にはみんなが死んでいると理解した。ただ、ルーク君だけはただ寝ていることに気がついたんだ。だから、君を傷つけないようにと思い、遺体をルークくんの目に入らない場所に移動したんだ。勝手なことしてまい、申し訳ない。」


2人は遺体のある場所に足を止めた。

ルークはその光景に驚愕した。

村人含め、母たちの顔の血は拭かれ、綺麗に仰向けに横一列に寝ていた。


ただ、そんなことよりもルークは母の亡骸を数時間ぶりに鮮明に確認し、涙を多く出しながら、歩み寄った。

ユリウスはその光景を見てられず、遠くで倒れている魔族を眺めながら、タバコを吸った。


ルークは強かった。

泣き止んだ後、ユリウスへ歩みよった。


 「ユリウスさん。人は死んだ後、どうすれば良いの?」


ルークは数々の本を読んできたが、それはあくまで空き家にあった本を読んでいたのみであり、”弔い”のことは無知であった。


 「色々な方法があるんだ。宗教って知っている?」


ルークは大きく頷いた。


 「君は強いな‥」


ルークは首を傾げた。


 「宗教はこの世界に3つが主にある。ヘルト教・サターナ教・釈法教とね。宗教によって人を‥なんて言ったらいいかな‥あ、天国へのお手伝いが違うんだよね。ここの国はほとんどがヘルト教が『土葬』、つまり土に埋めるんだ。だけど、俺は釈法教だから、『火葬』、つまり燃やすんだよね。」


驚いた顔をしていたルークは、少し考えた。


 「なんで燃やすの?」


 「人ってのはね。魂は死んでしまった人にそのままついてるんじゃなくて、新しく生まれ変わって、また人に取り付くというのが釈法教の考えなんだよね。」


また、少し考えていた。


 「その体を燃やさない、埋めないってなったら、どうなるの?」


 「んー難しい質問だね。多分、天国に行けないんじゃないかな‥」


ルークは不適な笑みを浮かべていた。


 「じゃあ地獄に行くの?」


その質問には少し驚いたが、ユリウスは丁寧に答えた。


 「それは悪いことをしたら、そうなるだろうね‥」


その後、ルークの口から驚愕の一言が出た。


 「だったら、ママ以外はそのままにして‥」


理解ができなかった。


 「どういう‥意味?」


ルークはずっと言っていなかった。昨晩の出来事を出来る限り話した。

魔族の襲来、村人の裏切り、魔除け村の真実、謎の能力、そして母の死。


 「話してくれて、ありがとう‥」


ユリウスはタバコを蒸かしながら、泣くのを堪えていた。


 「そんなことがあったのか‥ルークは俺よりも強いな‥うんわかった。」


そう言い放ち、ユリウスは母を丁寧に持ち上げ牧場の真ん中に置いた。

その周りに丁寧に薪を置き、体の下にも薪を並べた。各家々を周り、白い布を持っていき、顔にかからないように何層もかけた。


 「ユリウスさん、火葬するの?」


タバコに火をつけ、母の方をじっと見つめていた。

返答はなかったが、ユリウスの姿を見て、ルークも母を見つめた。


 「火をつけるぞ。大丈夫か?」


小さく頷いたルークは涙を一粒落とした。

吸っていたタバコをルークに渡した。ルークは一吸いしようかと思ったが、体に悪いことはわかっていたので、そのまま母の周りにある薪にそっと置いた。

母リリーナ・ウィザードの最後の顔を見て、別れを告げた。


 「ママ‥ありがとう‥またね」


タバコの火種が徐々に薪へ移り、火の勢いが増していく、母の姿は見えなくなっていった。


 「リリーナさんだっけか。俺はそのルークのママのことは何も知らないが、今の君を見るとすごい幸せな日々を過ごしてきたんだった思うよ」


ルークは火をじっと見つめ、涙を流し、笑顔でいた。

2人はそっと手を合わせ、目を閉じ、しばらくそこにいた。

火は大きく燃え上がり、熱が当たるもそれは何故か心地よく、暖かさを感じた。

ルークは心の奥底に灯火を感じた。


 「ルーク‥俺はずっと1人で旅をしてきた。とにかく他人と連むのが、嫌でね。でも、君が良ければ、一緒に来ないか?危険ではあるが、君は‥ルークは強い、立派な男に俺が育てる」


その言葉を聞いたルークは悩んでいた。

確かに今目の前で、火葬されている横目にする話ではないが、この瞬間を過ぎるとルークは孤独になってしまう。いくら知性があっても所詮は5歳であり、1人では生きていくのは到底無理である。

それに魔族への憎しみは全く消えておらず、ユリウスの旅は”ある目的”と一致する部分がある。


 「ユリウスさん‥」


横を向き、一言放った。


 「その旅で魔族は殺しても良いですか?」


その眼差しは5歳とは思えないほどの憎しみと恐怖が詰まっていた。

少年の心は既に血に染まり、黒い憎悪が溢れていることをユリウスは痛感した。


 「ルーク‥魔族を殺すのは人の夢であり、人の義務だ。そのためにも俺はこの旅を5年もしている。だから、なんて言うのかね‥『やってみようもんならやってみろ』だね」


ルークはまた更に大きく燃え上がる火を見て、決心した。


 「僕はこれからたくさん勉強して、たくさん強くなって、魔族を全部殺す。それが僕の夢。だから、ユリウスさんこれからよろしくお願いします」


ユリウスは笑顔であった。

タバコを蒸かしながら、火を2人で何時間も見ていた。

その後、ルークは母の燃える火の前で一眠りした。ユリウスはルークが倒したと思われる魔族をじっくりと調べた。


 「ルークから話は聞いてたが、これは激しく切り刻まれてるな‥あの子、何か特別な能力でもあるのか‥本人はあまり覚えていなかったが‥」


魔族の体は中身が見えるほど、切り刻まれていた。

村人たちの遺体は既にハエが集っており、ウジも沸いている。ただ、この魔族の体には全く虫は寄り付いていない。それどころか、異臭すらしない。

人間とは全く異なる臓器も出てきており、観察していた。


 「とりあえず、心臓を探してみるか」


ナイフを取り出し、丁寧に胸から切り裂いた。


 「何もない‥」


先ほどの異様な臓器はどうやら臓器ではなく、ただの内容物であり、おそらく、リリーナの手足だと思われる。心臓を含めて、臓器はなく、全て肉塊であり、大きな胃のような空洞があるのが、確認できたのみであった。

頭を切り裂いてみた。


 「脳みそなのか?人間のような皺はないけど、丸い白い玉があるな‥なんかすごい傷がついてるからこれが死因かな。しかし、こんな魔族の体を見た人なんて、この世界で俺が初めてじゃないか。とりあえず、写真を撮ろう。」


ユリウスは馬車から長年使い古してきた写真機を取り出し、魔族の死体を隅々まで撮影した。


後から小さな声が聞こえた。


 「ユリウスさん‥お腹空きました‥」


ルークは今日一日パン一つしか食べておらず、空腹が限界に達していた。

そろそろ旅の準備もしないといけないし、この魔族の件を一刻も早く、国王に報告しないいけない。

ルークに荷造りをするのと、家に何か食材がないかを確かめるよう促した。


 「ただいま‥」


母の温もりがまだ残る実家へ最後の帰宅をした。

作朝、食べたシチューの残りがあった。ルークはそれを手に取り、立ったまま鍋ごと食らいついた。

もう旅への準備は寝ている間に切り替えてはいたが、冷めても美味しい母の手料理に涙が一滴垂れた。


 「お邪魔します‥ってまぁ行儀は悪いが仕方ないな」


ユリウスはそのルークの姿を見ても何も言えなく、笑顔でいた。

ルークは歴史書や伝記など含めた10冊程度と母の写真、多少の服をバッグに詰め込んだ。

ユリウスはバッグに入れる本のタイトルを見ながら、感心していた。


 「『フィル・フォーゲンの冒険録』こんなのも読むんだな‥ん?アベル・ホフマン‥どこかで聞いたことあるな‥この本後で、読ませてくれないか?」


ルークは小さく頷いた。


荷物を馬車に乗せ、村に余っていた食料類も大量に積み、馬も一頭拝借した。


 「そしたら、今からドルト公国の首都であり、俺の故郷のミュンベル州へ向かうぞ」


ルークは初めて出会ってから初めて笑顔を見せた。

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