第八場(舞台)
登場人物
松五郎
三郎
黒子=蘭
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客1
客2
〇舞台
歌舞伎の舞台。客席は満員。
着物で女装した松五郎、三味線と長唄に合わせ、扇子を持って舞っている。
松五郎「これは、これは、よい心持ちにございまする」
客1「沢田屋」
客2「二代目」
黒子が松五郎の背後に駆け寄る。
松五郎、黒子の手伝いで藤色の着物を脱ぐと長唄の曲が変わり、下に着ている紅色の着物が現れる。
黒子(蘭の声)「変な気起こしたら、命ないわよ」
松五郎、やや動揺するが気を取り直して舞い続ける。
〇楽屋
松五郎と三郎、裸になって一つの布団の中で抱き合っている。
松五郎「三郎、これでお別れよ。明日からはお前が三代目藤島松五郎になるの」
三郎「えっ?どういう意味ですか。松五郎先生」
松五郎「あたしはもうここには戻れないの」
三郎「どうしてですか」
松五郎「あたしは徳川将軍に成りすまして、残りの人生を送らなくてはならないの。だからそのかわり、三郎があたしに成りすますのよ。『枕獅子』の舞いと台詞は全部覚えてるはずよねえ」
三郎「明日から、おいらが『枕獅子』を演じるんですか?無理ですよ」
松五郎「嘘おっしゃい。お前が影で稽古してるの、あたしが知らないとでも思ってるの?」
三郎「そんな......松五郎先生、行かないでください」
天井で物音がする。
松五郎、上半身を起こす。それにつられ三郎も上半身を起こす。
三郎「どうしました?」
松五郎「女忍者よ。いつもあたしを監視してるの。さっきも黒子に化けてあたしを脅したわ」
三郎「女忍者?」
松五郎「あの女忍者、あたしたち男と男の道ならぬ関係も知っているのかしら」
松五郎の顔をクローズアップ。
(つづく)