第七場(柳生下屋敷)
登場人物
十兵衛
宗矩
友矩
〇柳生下屋敷
柳生下屋敷の全景
〇座敷
床の間には水墨画の掛軸と赤い甲冑が鎮座している。
宗矩、十兵衛、友矩の三人が、畳みの上に差布団を敷いて、円形の座っている。
十兵衛「家光公を斬った忍者を生け捕りにして、吊り責めで拷問したところ、自分の素性と能面党について洗いざらい告白しました。
その男は藤島松五郎という女形の歌舞伎役者でした」
宗矩「歌舞伎役者が能面を被り、能面党? ふん、面白い」
十兵衛「能面党は一番上に三人の頭取がいるとのこと。その下に町火消のように”い”組から”ん”組まで四十八の組があり、それぞれの組に三名から八名の党員がいて、組は組頭が仕切っております。
松五郎は”ま”組に所属しているが、”ま”組の組頭の正体は知らないとのこと。組頭はいつも能面をかぶっていて素顔を見たことがない。こう申しておりました」
友矩「嘘でしょう。自分の組の組頭が誰か知らないなんて。そんな話、信じられません」
宗矩「嘘の可能性もあるじゃろう。能面党を裏切れば、必ず仲間が殺しに来る」
十兵衛「それはともかく、歌舞伎役者の松五郎は、歌舞伎公演の初日に何としても戻りたいと申しておりました。もし初日だけ出演できれば、こちらの言うことは何でも訊くとのこと」
宗矩「それで?」
十兵衛「松五郎は解放しました」
友矩「それはまずいですよ。逃げるかもしれませんよ」
十兵衛「お蘭に見張らせてある」
友矩「......」
十兵衛「友矩、まだこの前のこと怒ってるのか?」
友矩「えっ?」
宗矩「日光社参の大名行列で、わしが家光公の影武者になって駕籠に乗っていたことを事前に知らされていなかったのは、柳生家では友矩だけじゃったのう」
十兵衛「まあ、事前にあれを知っていたのは、大名行列の中でも近習と数人の茶坊主だけだった。許せ」
友矩「許すも何も......別に最初から怒ってないですよ」
友矩が不服そうに口をすぼめるのを見て、宗矩が「ハハハ......」と高笑いする。
十兵衛「それに松五郎は利用価値があります。化粧をすると......瓜二つなんです」
宗矩「どういう意味じゃ?」
十兵衛「まだ幕府は家光公のご崩御を世に公表しておりませぬ。某にいい考えがござる」
(つづく)