恋の量子力学を解く、たったひとつのシュレディンガー方程式
幼馴染み、と聞かれれば違うと嘘はつけないし、恋人、と茶化されればそうだとは言いたくない。
どうして片方だけを選ばなくちゃいけない?
「はっきりさせる必要あるか」
「来月から別々の高校なんだ。楓にしっかり伝えないと他の奴に取られるぞ」
教室の窓を横切った猫をバックにに昴が俺に突っかかる。
「あんな貧乳チビ女、誰が欲しがるんだ、お前か?」
俺の冗談に昴は顔を引きつらせると冷たく言い放った。
「やはりお前にはもったいなさすぎる。お望みどおりにしてやるけどどうなっても恨むなよ」
「今日、公園」と言った昴に無関心なふりをしながら、結局、俺は植え込みの影から2人を見ていた。
昴の前だとあんなに楽しそうに笑うのかよ。
身を乗り出してしまった俺の姿に気づいた楓が昴と顔を見合わせて笑うと手招きした。
人のこと見て笑うなんて気に食わない。
興味なさそうに近づくと昴はニヤリとしながらすれ違い去っていった。
2人きりになったものの何もできずにいると、楓は「昴君の言ったとおりだ」とニンマリした。
楓の口から昴の名を聞かされると胸が苦しくなる。
「はっきりさせたくないんでしょ? 昴君の事も私たちの関係も」
そうだよ。覗き見するだけで何も聞けない。でも、
「そうじゃない、俺は」
なんで昴も楓も分かってくれないんだ。どっちかを選んだら選ばなかった方はどうなる? なかったことになるのか? 世界がいきなりそんな風に変わって怖くないのか?
下を向いてしまった俺に、楓はいきなり両手で俺の頬を叩いた。
驚く俺に楓の顔が近づく。
潤んだ瞳はまっすぐ俺を見てる。艶やかな唇に目を奪われる。
甘い吐息が漏れた瞬間、俺の唇に柔らかい感触が伝わる。
ほんの一瞬だった。
「私の気持ちは伝えたからね。何回も待てないからね」
楓は照れくさそうに言うとくるりと回ってアッカンベーをする。
昔から変わらない俺だけに見せる照れ隠しの仕草。
その姿を見たかったから俺は――
刹那、遠くから猫が「にゃあ」と鳴く。
ぐらり、と視界が歪んで目の前が暗くなる。
やめてくれ折角うまくいったんだ、また戻さないでくれ。
明るくなった先はいつもの教室で、
「楓にしっかり伝えないと他の奴に取られるぞ」
昴が俺に言った。
1度目は何も起こらず、2度目はフラれ、3度目にようやく告白された。
それでも過去に来たってことは……俺と昴が付き合うルートが正解、なのか!?
全ての事実が重なって存在するこの教室でどれが正解なのか誰か観測してくれ。
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