2話 小型は正義、巨大化はロマン
元気いっぱいラナーリアです。3歳です。
頭脳は三十路、身体は3歳、ラナーリアです。
今日もハッピーだ。何故ならば、ご飯がうまいんだ。
魔力暴発を起こしてニ週間。記憶を取り戻して一週間が過ぎた。まだ大事をとってベッドから出してもらえないが、心も身体もハピハピハッピーだ。
今日の朝食はフッワフワのバターロールと苺ジャムに、フッワフワのオムレツ。オレンジドレッシングの生ハムサラダ。クリームスープ、苺ゴロゴロのヨーグルト。
日本人だった頃はだいたいご飯と一品か、丼で済ませていた。それが、朝からフルコースなのだ。幸せじゃないはずがない。
3日前までは胃腸に優しいトロトロ野菜のスープやリゾットが中心だったが、ドクターのゴーサインのお陰で普通食が食べられるようになった。
お陰様でハッピーです。ゴロゴロしてお絵描きするだけで、すごーい!と褒められ、お礼を言うだけで感動され、父母からこねくり回されただけで、美味しいご飯が提供されるのだ。何をやっても褒め散らかされる。赤ちゃんかな?もう、最高です。
しかしながら、流石に一週間も部屋から出られないとなると退屈になってくるものだ。褒められ過ぎて調子にのり、絵を描きまくったお陰で画家にでもなった気分だ。
だけど、もういいんだ。絵はもういい。
うずうずするんだ。探検がしたい。ジプシーの血が騒ぐ。誰にも止められねぇんだ。
「ちなー。ラナはお家の中とか、おにあをたんけんします!」
ちなとは、マルチナと言う名のラナーリアの専属メイドのことだ。優しくおっとりとした性格で、それを体現している様なふくよかなお胸がふわふわ揺れる我が侭ボディの持ち主だ。
が、敢えなく止められてしまう。まだ安静にしてましょうね。と。良い子ですからね。と。
ふざけんな。私はただの子どもじゃねぇんだ!こちとら心は三十路だぞ。探検だ!探検がしてぇんだ。宝探しだ!行かせてくれ!頼む!私の中でジプシーが踊り狂ってるんだ!頭の中では大暴れだ。
しかし、私の心は三十路なので大人の余裕で我慢すると、布団に潜り込んだ。ふて寝である。
「まぁまぁ、お嬢様。大丈夫ですよ。お医者様がいいとおっしゃれば、チナはお供しますから。午後にいらっしゃったらお尋ねしてみましょうね。」
マルチナはニコニコと微笑んで、丸まった布団の上からトントントンとラナーリアをあやした。
気がついたら眠ってしまっていた様だ。布団から顔を出して時計見てみるがそんなに時間は経っていないようだ。
チナは居なかった。昼食の準備だろうか?窓の方を見ると窓辺の花瓶に真新しい花が挿してある。お母さまが部屋から出られない私の為に毎日、庭から摘んできてくれるのだ。
眠ってしまってる間にかお母さまがいらっしゃったのね。
窓から気持ちのいい風がカーテンを揺らし、さらりと頬を撫でる。なんて気持ちがいいんだろう。心が洗われる様だ…。
…
…
………
…………
自由だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!
風だ、風が私を誘っているんだ!
ラナーリアこと私は部屋に誰も居ないことをいい事に廊下で風になっていた。
メイドだ!隠れろ…!!
スッ…
飾り台の影にそっと身を寄せる。サイズ的にも影に紛れ隠れやすい。さながら隠密にでもなったかの様だ。滾る!
忙しなく働くメイドを遣過し飾り棚からスッと出る。西だ!西に向かうぞ!そのまま、また駆け出した。
はぁ…はぁ…広い…やっと端に着いた。幸いそれからも二度、メイドやフットマンを遣過し、無事、隠密に成功しながら屋敷の端にたどり着いた。目の前には大きな両開きの扉がある。思いっきり背伸びをし扉を押した。
すんっ…古めかしい様な匂いが鼻についた。この匂い知っているぞ。古本屋さんの匂いだ。
部屋に入るとギィっと古めかしい音と共に扉が閉まる。広い角部屋は書庫だったらしく上の階にも吹き抜けているのか天井が高い。中央には大きなテーブルに椅子が並んでおり、立派な地図を広げて作戦会議がしたくなる様な、そんな雰囲気だ。うん。いつかきっとやろう!
壁には半円状の縦長い窓が一定の距離にあり、その間を本棚が埋め尽くしている。上階にも本棚があり右奥に階段が見える。中央は吹き抜けており、上階では真ん中に左右に行き来するための橋の様な渡り通路が架けられていた。そこから更に見上げると天井近い壁には美しい薔薇窓がキラキラとしている。
「滾る…!」
まるでルートが決まっているかの様に、ルンルンとスキップしながら右奥の階段を登った。上階には迫り出した様に通路が続いており壁には本がぎっしり詰まった本棚がずらりと並んでいる。その向かいの手すりの合間から下階が覗いた。そのまま歩いて辺りをキョロキョロと観察しながらスゥッと空気を鼻から吸い込んだ。古書の匂いが心地いい。
どうせだし、なんか一冊見てみようかな。そう思いたち、なんとなしに目についた本を引き出した。適当なところからパカっと開く。
何かの物語だろうか。丁度開いたページには挿絵が描かれている。
挿絵には額から鋭い角を生やした虎のような狼のような大型の生き物が描かれていた。
挿絵の下に文字が書かれている。
「え、るが、いあ?」
すると。
ぶわぁっと、眩しい光を放ちながら風が巻き起こった。
「きゃぁぁああぁっっ」
凄まじい突風に尻餅をつき、本を手放す。風が舞い本棚から本を巻き上げる。窓ガラスがガタガタと揺れ、遠くからパリーンと言う音が聞こえてきた。
ひと暴れした風はまるで満足したかのようにラナーリアの目前で小さな旋風になり緩やかになくなった。はちきれんばかりに旋風を見つめていたが、なくなったと同時に、物凄い焦りが襲ってきた。しまった!何かやらかしてしまったみたい!
「なぁう」
しかし、不意に聞こえた可愛らしい声で全部消し飛んだ。この鳴き声は確実に猫だ。
見つめた先にいたのは茶虎の猫だ。多分猫だ。何が多分かと言うと、可愛らしい額から小さな結晶の様なツノが生えているからだ。けれど、魔法ありのファンタジーのような世界なのだ。動物に角くらい生えていて当然である。さっきの挿絵の動物にも同じような角が生えていたし、気にすることはない。それより何より、思った以上の可愛らしさだ。今すぐにでも撫で回したい。
「ねこちゃーん!ちっちゃいなーかぁいいなーさぁさぁ、おいでぇ。」
手を差し出すと、すんなりと近寄ってきてくれた。懐っこい子だ。ラナーリアの指先をスンスンと嗅いだあとスルリと頬擦りしてくれた。
そのまま近寄ってきて膝の上にちょこんと乗った。ラナーリアの膝いっぱいいっぱいに猫がいる。幸せだ。逃げないことをいい事に、優しく抱きしめた。可愛い…あぁぁ、いい匂いがする。スン…スンスンスンスンスゥーン。後頭部に鼻を沈め思いっきり嗅ぐ。猫吸いは一種の麻薬である。最高だ。やめられない。止まらない。
スンスンとひたすら匂いを嗅いでいると。なにやら騒がしくなった。
「ラナーリア!いるのか?!」
「ラナリィ!」
両親が使用人を引き連れてやってきたのだ。
「強い魔力放出があった!ラナを探せ!!」
使用人達や騎士の様な人達に父が叫んだ。
やばい…!!当たり前である。一瞬屋敷が揺れたかの様な風が舞ったのだ。
色々なやばいが溢れてくる。部屋から勝手に抜け出したこと然り、これは故意ではないが、書庫が酷い惨状であることもだ。多分いけない本を開いてしまったに違いない。
手すりにしがみついて下階に呼びかける。
「おとーちゃま、おかーちゃま、ラナはここです!」
早いとこ誤った方が賢いはず!
「ごめんなちゃーい!!!」
「ラナーリアっ!無事か?!」
「ラナっ!怪我はないの?!」
「お嬢様ぁぁ!!」
チナもいるじゃないか!やばい。チナめっちゃ泣いてるし、絶対やばいぞ。なんかすごく大事になっている。叱られるフラグを連立させてしまっている。
駆け上がってきた両親とチナ、ミカエリス達に頭を擦り付ける様に謝る。土下座だ。
「このたびは、まことにもうしわけありましぇんでした。」
「ラナ、顔を上げなさい。怪我は?」
父が膝を付き私に問いかけた。私は顔を上げで首をぶんぶんとふった。
「なんともありましぇんわ。」
そう答えると母には抱きしめられ、チナにはわんわん泣かれ、下階には騎士達や使用人達が集まっているし、申し訳ない気持ちで一杯だ。
「なぁぁう」
虎猫ちゃんの存在感のある声に一同が見遣る。
「ねこちゃん。」
暫く離れて様子を伺っていたのか、にゃんにゃん言いながら猫ちゃんが寄ってきて私に身体を擦り付けてきた。
「これは…精霊かっ!?」
「なああう」
肯定する様に父を見上げて鳴いた猫ちゃんはふわりと浮かび上がった。
「とんだ!!」
元々、若干浮いていた気がしたのは気のせいではなかった様だ!と言うか、ただの猫じゃなかったのか。いや、まぁ、只者ではないなとは思っていたけどなっ。フンスっフンスっ。
「あなた、何故、精霊がここに?」
母が戸惑う様に父に問いかける。精霊は何処にでもいる訳ではないらしい。
「分からない。ドクターはいるか?!」
すると下階から声が聞こえた。
「はい、こちらに。」
うわっ、ドクターまでいるのか?!やばいぞ。絶対安静って言われてたんだった。どうしよう、あの人、絶対怒ると怖いタイプなんだもの。
下階からドクターがやって来て父と何やら話をしてから、こちらを見遣った。
「お嬢様。」
「っひゃい!」
肩をびくつかせ返事をする。めちゃくちゃ怖い。
「ここには何故?」
え、どうしよう。私の中のジプシーが。いやいやいやいやそれは言っちゃダメなやつだ。
「か、風にいざなわれて…?」
あ、やばい。焦って適当な事を言ってしまった。語彙が足りない。しかし、何故かドクターはふむと納得した様に頷いた。
「お嬢様、先ほどの地鳴りが起きる直前は何をなさっておいでて?」
地鳴りもしたのか。確かに屋敷が揺れた様な気がしたが、突風のせいだと思っていたし、びびってそれどころじゃなかったから分からなかった。私はキョロキョロと辺りを見渡して、散らかった本達の中から始めに引き出して開いた本を見つけ指差す。
「あれをひらきまちたの。それで文字をちょっとだけよみまちたわ。」
ドクターは、本を取り上げるとふむと顎を触りながらページを捲る。
「何の変哲もないただの本ですね。風と大地の精霊について署された童話の様です。」
そう言いながらペラペラとページを捲って手を止めた。そのページを暫く見つめると、不意に本から目を離して猫ちゃんを見た。
「そちらにいらっしゃる精霊はその風と大地の精霊かと思われます。額の精霊石は風の緑石と土の琥珀石が混じり合わず諧調している。精霊学の古文書にも同じ記載がありました。一致していることからも間違いは無いでしょう。」
そう言い切りドクターは眼鏡を上げてから、私を見た。
「その精霊がお嬢様を呼んだのでしょう。」
え?違うけど…。
「どう言う事だ?」
父がドクターに問う。え…、ただ滾りを止められなかっただけだけど。とは言えるはずもない。私の戸惑いを放置しドクターは話し始める。
「そちらの精霊からお嬢様に向けて魔力の道が感じられます。仮の契約が成立しているのではないかと。珍しい話ですが、精霊の方から一方的な繋がりを求めることがごく稀にあります。その精霊はお嬢様との繋がりが欲しくてここに呼び、この本を手に取らせた。そして、自分の名を呼ばせたのでしょう。風に導かれたと言う事が、その何よりの証拠。精霊からの興味がなければ名を読まれたくらいじゃ仮にとはいえ契約は繋がりません。」
私はパッと猫ちゃんを見たが、その他全員はバッと私を見ている。
「お嬢様はこのページを開いて、名を読んだのではありませんか?」
ドクターが見せて来たページは、確かに私が適当に開いた挿絵のページだった。
「えるがいあ?」
「そう、それがこの精霊の名のようですね。」
ふぁ、ふぁ、ふぁんだじー!!!
しかし困ったな。呼ばれたつもりも呼ばれた気配も全くなかった気がする。偶然と偶然が重なり合ってゴッツンコしちゃっただけじゃないだろうか?猫ちゃんが私をあんなにも滾らせたという事なの?
私は猫ちゃんことエルガイアを見つめて問うた。
「ほんとうにしょうなの?」
「なあう」
猫ちゃんは満足そうに鳴くと私にスリスリと頬擦りをしはじめる。
「ふふふ、えるがいあ、かっこいぃ名前だね!だけど、絵とまったくおしゅがたがちがいますわ。」
「んーなぁ」
何とも不服そうに鳴くと猫ちゃんは尻尾でペシンと床を叩いた。
すると猫ちゃんはキラキラと輝き小さな旋風となった。その風と輝きが大きくなると急にフッと消えた。
猫ちゃん?怒っちゃった?
その時、カタカタカタカタカタカタと窓が震え出したかと思ったら、ガガガガガっと言う地響きと共に外から大きな咆哮が聞こえてきた。
「ガオオオオゥ」
「なんだ?!」
「行ってみましょう!」
私は父に抱えられ外に向かう。そこにいた全員が後に続いた。
風が髪を靡かせる。その風が吹きつけてくるその先に高く隆起した地面だったものの上に大きな金色の獣が座っていた。額からは緑と琥珀色のグラデーションが美しい結晶の角を生やし、しなやかな毛皮の内側に逞しい筋肉が締まっているのか迫力がある。口元から覗く二本の牙は鋭く研がれた刃のようだ。
「ね、猫ちゃん…?」
「がるるん」
喉をゴロゴロと鳴らしながら低い声を上げる。大きい!象並みじゃないか?!
「……ドクター、ラナーリアはまだ三つだ。それに元々、魔力過多で身体が弱い…。それなのに、この様に強大な魔力を持つ精霊と仮とはいえ契約してしまっては危険ないのか?」
父がドクターに尋ねる。え?私身体弱かったんだっけ?そうだったっけ?目覚めてから、すこぶる元気だから忘れてたけど、そう言われてみると良く寝込んでたかも知れない。
だけど、その不安は最もだ。小さくなれて、でっかくなれる。正義とロマンを兼ね備えているなんて流石にカッコ良すぎる。私には身に余る精霊なのではないだろうか。
ドクターは少し考えてから答える。
「公爵様、実はお伝えしていなかったことが…。」
父は少しだけ眉根を寄せて聞いた。
「なんだ?」
「お嬢様が魔力暴発を起こした後、…無事、目が覚めたとしても、何かしらの後遺症は残るだろう、或いは命の危険すらあるだろうと思っておりました。もともとお嬢様は魔力が高過ぎたため小さな身体では、均衡が取れず常に魔力が溢れている状態でした。しかし、倒れられてから暫くして、それがピタリと止まったのです。」
「…そう言えば、ラナーリアが目覚めた時、君は魔力が馴染んでいると言っていたな。」
「はい。しかしそちらの精霊の加護があったからだと言えば説明がつきます。建国の王が精霊王から加護を頂いたという書物は残っていますが、元来、精霊が契約前に加護を授ける事はありません。しかし、精霊エルガイアはお嬢様との繋がりを強く求めている。ならば、エルガイアがお嬢様を救うため加護を与えていたと考えれば辻褄が合います。」
「では、この精霊エルガイアがラナーリアを救ってくれたと。害することは無いと。そう言うことか。」
そこで、それまで黙っていた母が口を開いた。
「わたくし、小さい頃にお祖父様から聞いたことがあるのですが。」
「夫人の御祖父といえば、あの大魔法使いの?」
母の話に興味があるのかドクターが聞き返す。
「はい。わたくし達、公爵家は昔から魔力の高い子供が生まれることがあります。ラナーリアもお祖父様もそう。我がエルドガルドの始祖は建国の際、大魔法使いとして当時の聖王と共に魔を祓い国を起こしたと言われています。」
「その話ならば、クレオスの民ならば皆知っているだろう。」
そうなんだ。知らなかった。因みにクレオスとはこの国の名前だ。セントクレオス王国。
「だまらっしゃい。話はここからですわ。」
「すまん。」
そう言えば、父は婿養子だ。完全に尻に敷かれているが、夫婦仲は良好だ。母の話は続く。
「我が公爵家の始祖、クラウディアは生まれつき魔力量が多すぎ身体が弱く、いつも死の影に脅かされていたそうです。そんな境遇の中でも心の清らかだった彼女をある精霊が深く愛したそうです。その後、彼女の魔力は安定し、忽ち実力を発揮し大魔法使いとなった。建国の後、王から賜った名はその精霊獣の名からとり、エルドガルドと。」
「その精霊獣がこのエルガイア。」
母の答えに父が呟いた。エルガイア、エルドガルド。うん、確かに似ている。その時、ドクターが身を乗り出した。
「そうか!きっとそうです!その精霊エルガイアからはお嬢様に対し唯ならぬ愛情を感じます!お嬢様の莫大な魔力量も、魔力過多による虚弱も、エルガイアからの愛情も、始祖クラウディアと同じ。これならば説明がつく!お嬢様は、ただの先祖返りなのではなく、始祖クラウディアの生まれ変わりなんです!精霊は魂の匂いを覚えていると聞いたことがあります!」
いやいやいや。ドクター。飛躍しすぎだろ。そこまで大それた魂なんて持ってないよ。なんだね、その今まで見たことない様な熱量は。
「がるう、くるる…」
静かに聞いていたエルガイアは切なそうに鳴くと隆起した地面から飛び降りた。そろりと父に抱かれた私に近づくと、深く頭を垂れた。
私は父に目を向けて下ろしてもらえる様に頼む。父は静かに頷いて私をそっと下ろしてくれた。
エルガイアに近づいて鼻の頭を撫でてみる。くすぐったそうに目を閉じてくるると鳴いた。
「える、えるがいあ、しょうなの?私をたしゅけてくれたの?」
するとエルガイアは嬉しそうにがるうと鳴いた。
「ありがとう。」
私はエルガイアの顔を抱きしめた。丁度鼻の上に乗っかって足が浮く。心地いい。エルガイアは嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らしている。そうしていると何だか、切ない様な嬉しい様な不思議な感覚で満たされていく。あぁ、求められるってこんな気持ちなんだ。尊いな…。
エルガイアの鼻からストンと降りると父母に向き直って手を組んだ。
「おとーちゃま、おかーちゃま、ラナはえるがいあとけいやくちます。おゆるちくださいましぇんか?」
父と母は顔を見合わせた後、ふっと安心する様に微笑んだ。その後、屈んで私の目を見つめて答えた。
「ラナがしたい様にしなさい。エルガイアはラナの恩人だ。私たちは恩人を無碍にしたりはしないよ。」
「わたくしもそうよ。ラナリィ。今ラナリィが元気なのはエルガイア様のお陰なのでしょう?わたくしは感謝で一杯だわ。エルガイア様、ありがとうございます。」
父と母の承諾を得て、私はドクターに質問する。
「ドクター。けいあくはどうちたらできますか?」
ドクターはエルガイアと私を見遣りながら答えた。
「お嬢様、世界には精霊と契約している魔法士はそれ程多くはなく、その殆どが術者が契約を求めたケースです。多くの術者は精霊に会いに行く、或いは召喚しその精霊呼び出します。その後で、彼らは精霊の望む物を与え認められなければ契約できないのです。ある者は戦い勝利する、またある者は貴重な魔石を求められ、ある者は魔力を全て奪われたと言う魔法士にとって残酷なケースもありました。しかし、エルガイアの場合はそれを望まないでしょう。お嬢様があげたいものを与えてあげればきっと喜びますよ。」
エルガイアを見つめると両の目をキラキラさせて私を見つめている。期待の眼差しというやつかな?本当に何でもいいのかな?でも何にも持ってないしなぁ。名前は立派なものを持ってるし。
「んうぅ…。」
私はそっとエルガイアの鼻筋にチュッとキスをした。
「える、わたしはえるにしんらいとゆうじょうをあげる!!そしたらいっしょにおやちゅを食べたり、いっしょにたんけんしたりしよう!ずっとずっとずーっと、ともだちだよ!」
そう言ってにっこり笑ってみせた。
するとエルガイアは目を一層キラキラさせた後、首を高く上げ遠吠えする様に声を上げた。
「ガルオォーーン」
すると柔らかな緑と琥珀の光がエルガイアの身体から溢れ出した。その光は私の方へ向かってきて身体中を撫でる様に足先から額の上に辿り着くと、強く瞬きそこから吸収していく様に私の中に溶け込んていく。何かが入り込んでくる感覚だ。しかし不思議と不快感はなく穏やかな気持ちだった。光の全てが収まると額に熱を感じた。
…これで、契約できたってことなのかな?
あれぇ、なんかもっとこう、力が…力が漲ってくるぞ!みたいな何かを期待していたんだけど、変わった感じがしないなぁ。
だけど、精霊と契約しちゃったぞ!これぞ、ファンタジー!!悪の軍団を千切っては投げ、千切っては投げだ!!夢が膨らむ!
なんだか明日からまた楽しくなりそう!
ダンスでも踊り出したい気分だ。そう思いながら、私の意識は遠のいていった。
遠くで両親やチナの悲鳴が聞こえて私の意識は途絶えた。
文章力が低いので筆が遅いです。
ノリと勢いだけで書いています。暖かい目で読んでいただけたらと思います。
誤字脱字、乱文あるかと思います。
よろしくお願いします。