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2度目の婚約破棄は余裕です。  作者: 八山はちた
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1話 ハッピーに生きるために、深いこと考えるの辞めました!




突然言い放たれた婚約破棄からもう1年経とうとしていた。こざっぱりとしたなんの洒落っ気のない部屋で、ただテレビのスピーカーから音声が垂れ流される。やれ保育園で虐待やら、サッカーで誰がゴールを決めたやら。

何にも心が動かない。…疲れた。

終電で帰って来て、徐にテレビをつけ、そのままベッドにダイブした。そのまま動けない。そして、いつものようにゆっくり目を閉じる。

顔洗わなきゃなぁ…でも、疲れたなぁ。

これも、いつもの思考回路である。

明日も仕事か…。


大恋愛というわけではないが、大学で同じ学部、同じサークルだった彼と知り合い、何となく一緒にいるうちに付き合い出した。

何やかんやあったが、そのまま卒業し就職し、落ち着いたら結婚しようと、何となしに彼の部屋で作った夕飯を食べながら、婚約指輪を渡されプロポーズされた。


それがそれから3年、今か今かとその日を待ち続けた。話があるとメッセージが来て、おいおい、ついに来たんじゃないの?とルンルン気分でお洒落して待ち合わせのカフェに向かった私に告げられたのか、

「お前とは結婚できない。」

だった。

隣になんか知らない可愛い子いるなーとは思った。なんでだろーって。もしかしたら妹かもしれないじゃないか。すでに思考停止していたのだろうと今では思う。

彼女に子供が出来た。だからお前とは結婚できない。別れてほしい。

あれ?時間が止まった?と思った。しかし止まって動けないのは私自身だった。

あー、この子は妹ではないな。なんてそんな事を考えながらただただ表情を固めていた。

終始俯いている女の子は、ごめんなさい、ごめんなさい。と肩を震わせている。え、こいつ泣いているのか?嘘だろ。私が泣く方じゃないのか?なんて考えていたはずが、口をついた言葉は祝福だった。

「おめでとう。私のことは気にせずお幸せに。」

仕方ないじゃない。とてつもなく居た堪れなかったんだ。

気がついたら、次の日、会社で働いていた。傷付かないわけがないのだ、悲しくないわけがないのだ。だけど、人生は待ってくれない。そうしてがむしゃらに働いて働いて、成果を出したり、失敗したり、怒られたり認められたりしながら働いて働いて一年がたとうとしている。


不意にテレビのスピーカーから聞こえたフレーズを繰り返した。

「そうだ、京都に行こう。」


そうして、今ここ。禅である。

私は今し方、スコーンと肩をすっぱたかれたところである。煩悩を捨てよ。

名のある禅寺で私は坐禅を組んでいる。

手を合わせたまたゆっくり頭を下げる。

忙しい日々も、仕事の重責も彼に捨てられたことも、全て些事である。心を鎮めよ。

ここには都会の喧騒はない。生き急ぐ必要はないのだ。

あぁ、ゆっくりと生きたい。広大な大地の上で自然と戯れたい。

「そうだ、北海道に行こう。」

スパコーンッ


次の日、会社に出社した私は退職届を課長に叩きつけ、文字通り飛んだ。北は北海道、南は沖縄。自分探しである。何たって、会社、家、寝る、会社、家、寝るの繰り返しの人生だった為、懐はぽっかぽかではないが、そんなに寒くはない。

色んなところへ行き、色んなものをみて、人やもの、文化に触れた。そのまま住み込みで働いてみたりもした。搾りたての牛乳(広大な牧場で)とか、ホクホクのじゃがバター(ジャガイモ畑で)とか、賄いの海鮮切り端丼(旅館の仲居)とか、ねっとり甘い焼き芋食べながら(さつまいも畑から)桜島を眺めたりとか。

はっきり言おう。食べ物がまぁ美味い。新鮮は美味いのだ。賄いが目当てなのは言うまでもない。

美味い思いをしながら、色んな事を経験し様々な人と会い、沢山のことを学んだ。

生き物の世話に休みはない事。芋を一から作るのは大変な事。お客様への心を込めたおもてなしの裏には大変な苦労がある事。色んな人がいて、色んな考えをもち、様々な悩みを抱え、幸せは何処かとただ生きていること。やはり芋はうまいと言う事。

そして、自分は何てちっぽけなのかと言う事。

この有象無象の森羅万象な世界で私や他人は目的を果たす為にぴよぴよぴよぴよと囀っている。まるで養鶏場のピヨピーの様にひしめきあって。

目的とは生きる事。幸せになりたいだとか、あれやこれが欲しいとか考えながら、何十億人の人間が個性を持って縦横無尽に生きている。

あいつの考えてる事分からなくて怖い。え?わかると思ってる方が怖いんじゃない?

他人の考えている事なんて分かるはずがないのに、どうして人はそう言う気持ちになるのか。何で選ばれないのか、何で愛されないのか、何で評価されないのか、何がダメなのか。分かるはずがないだろう。

私はとてもちっぽけで、他人の考えていることなどわからない。だけど、生きている。他人だって同じ様に生きているのだ。

だからただ、気にせず生きていけばいい。必ず色んなものと混じり合うがただ生きるしかないのだから。

だから、ただ生きよう。


そう思い至ったとき、京都で坐禅をくんでからまた3年の時が流れていた。

30歳である。

スッキリした気分だった。晴れやかだ。

なにやら難しい御託を並べたが要約すると、今すっごく楽しい。小さい事でうじうじするのやめよっ!である。ハッピー。


長らくジプシーの様な生活を送ってしまったが、そろそろ地に足を付けようと、新しい街で部屋を借りた。まだ殺風景な室内に、ローテブルと布団が一式敷いてある。

「ズズッ…。寒いなぁ。風邪ひいたかなぁ。」

鼻を啜りながら、湯たんぽ抱っこして毛布に包まった。

明日は職探しでも行こう…。心機一転、生まれ変わった気持ちでまたハッピーに人生を楽しもう。そう思いながらその日は床についた。

はずだった。













眩しい…。窓から陽の光が差し込んで瞼の中が赤く染まる。小鳥の囀りが聞こえて来る。

朝か…。起きなきゃ…。

重たい瞼を開ける。ぼんやりして焦点が合わない。まだ眠い…。寝たい。もう少し。

「あと15分…。」

「……お嬢様……?」

微睡みながら辺りを見渡すが、お嬢様とやらはいらっしゃらない。代わりに何故かメイドの様な姿をした女性と目があった。

ぼんやりとして見ていると、その女性が悲鳴の様な声を上げた。

「お嬢様っ!?あぁ、あぁ、お目覚めにっ!奥様っ!旦那様ー‼︎」

そうして、勢いよく扉を開けその向こうに走り去って行った。

びっくりした。大きな声で完全に覚醒してしまった。上体を起こして瞬きをしながら辺りをもう一度見渡した。温かみのある白い壁紙に可愛らしいアンティークの様な家具が、その上にはパステル色の熊やウサギのぬいぐるみ等が飾ってある。

「……………???」

次は身近を見渡した。天蓋付きの大きなベッドがある様だ。いや、その上にいる様だ。私がだ。

「なんだこれは…」

何これサラサラのふかふかである。

可笑しいな。ホームセンターで買った安物の敷き布団セットで寝ていた気がするのだが。

「…どこだ、ここは?」

あれ?私の声こんなんだっけ?なんか高い様な…。

喉元に手を当てながら疑問符を浮かべていたら、開け放たれた扉から品の良い女の人が息をきらして駆け込んできた。

「ラナーリアっ!!」

私の元に駆け寄り両の頬に手を添えられた。

「あぁ…ラナーリア、良かった…目が覚めたのですねっ」

プラチナブロンドの髪を美しく結い上げ、まるで異世界転生のラノベの登場人物の様なドレスを纏っている美人は涙をはらはらと流している。

「ラナーリア?」

瞳の色が金色だ…綺麗だ。そう思いながら呼ばれた名前らしき言葉を繰り返す。ん?何だろう。

「ラナーリアっ!!」

扉の向こうから次々と人が駆け込んでくる。

その先だって入ってきたスラっとした美丈夫は、片側にペリースを羽織った軍服姿だ。かっこいー。

ツカツカとこちらへ近寄りベットの前で屈むと心配そうに私を見つめた。

「ラナーリア、目が覚めたか。」

「旦那様、主治医がお見えです。」

旦那様と呼ばれた美丈夫の向こう側から、ロマンスグレーの頭髪を後ろに撫で付けた、いかにもセバスと呼びたくなる様な執事が声をかける。

「ああ、ミカエリス。そうだったな。ドクター頼む。」

おしいっ。そっちだったか!

ミカエリスが促すと白衣を纏った男性が前に出だ。優しそうな眼に丸眼鏡をかけ、さらりとした長い髪を縛り横に流している。そのドクターと呼ばれた男性が私の前に近づくと、美人と美丈夫はそっと横によけ場所を譲る。

脈拍をとり、下瞼を下げ眼球を見たり、全身のチェックをうける。

最後に私の両手をとり、小さく何かをつぶやくと包まれた私の掌から淡い光が溢れた。

光は暖かくキラキラと瞬きながら蛍が飛ぶようにふわふわと私の周りを浮遊し、溶け込む様に消えた。

「身体に異常はありませんね。魔力の状態も安定しています。問題はないでしょう。」

そう言って、ドクターは眼鏡の奥の眼を優しく細めた。

その声に、部屋に張り詰めていた空気がふっと穏やかなものに変わるのがわかった。

「良かったわっ、ラナーリア。貴女、一週間も眠ってたのよ?」

問いかけられたが、完全に置いてけぼり状態である。しかし、状況に流されなている間も脳みそは絶賛フル稼働中である。徐々に記憶が連なって積もっていく。

「どうした?ラナ。ドクターっ、本当に大丈夫なのか?!」

美丈夫に問いかけられたドクターは、眼鏡の縁をスッと上げながら和かに答える。

「はい。魔力暴発したとは思えないくらい、お嬢様に魔力が馴染んでいます。全身の魔力塊もなく、後遺症もないでしょう。」

そうか。そう言いながら美丈夫は、安心した様な、しかし心配そうに眉尻を下げる。

一身に視線を受け戸惑う。身体が小さいのだ。お子ちゃまサイズで大の大人数人に凝視されると結構な迫力だ。

初めは、これが…転生?と思ったが、はてさて記憶があるのだ。思い出せるのだ。ラナーリアとしての記憶が、まるで映画のフィルムの様に連なって思い出せる。しかし、眠る前までの日本人としての記憶は新しい。

うむぅ…と声を出す。

「ラナ…?」

眉根を寄せ難しい顔をしている私に美人が不安げに声をかける。

この美人と美丈夫は私の両親だ。完全にラナーリアとしての記憶が思い出せる。好きなものはぬいぐるみと苺。嫌いなものは人参だ。

エルドガルド公爵家の長女で、兄が1人いる。

「ラナリィ…」

心配そうに母が私の手を握り込む。ここらで一つ、安心させたほうがいいだろう。ダンマリは良くない。

「おとーちゃま、おかーちゃま、ごちんぱいをおかけちまちたわ。私は元気ですの。」

そうそう、そう言えばラナーリアは今年で3歳だ。

なんということでしょう。昨日の今日で十分の一になってしまった気分だ。若返りだ。

しかしながら多分、乗り移り型の転生ではない。まるで前世と今世が昨日の今日でコンニチハな気分だが、確実に生まれ変わり型の転生だろう。そして多分ラナーリア(私)が思い出したのだ。日本人だった私の記憶を。

なんてこったい。心機一転、生まれ変わった気持ちで頑張るつもりが全く別人になってしまってた。こら、神よ、そういう意味ではなかったんだぞ。




勢いとノリだけで書いています。

誤字脱字あると思います。

初投稿です。加筆修正すると思います。

よろしくお願いします。

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