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何でも屋と季節外れの夢  作者: 水之音 霊季
一章 アスカとルミ①
9/29

五 電話口の声 ─二〇一九年 四月二十一日─ 五

 ルミさんからの依頼を受けたあの日から、

 早くも一ヶ月が経とうとしていた。


 私の見立て通り、S市からやって来るお客さんは多かった。


 驚いたのは、彼氏さんのことを知っている(・・・・・)人の割合。

 予想以上に多かったのだ。


 と言っても、そもそもの予想が低かったから、

 それ以上といっても高が知れているけど。


「情報はそれなりに集まるんだけどなぁ……」


 私が最初から知っていた情報、

 ルミさんから聞いて新たに得た情報、

 お客さんから得た情報。


 全部を合わせていくと、

 彼氏さん──鮫島秋文さんの人間像が浮かび上がってくる。


 T県S市出身。小中はひとまず置いといて、

 市内の高校に進学。

 高校卒業後は都内の大学に進学し、

 そこを卒業した後はC県で就職。


「あとは趣味が廃墟と心霊スポット巡り……か」


 この趣味についてはルミさんが

 何度か話していたこともあって、

 元々知っている情報だった。

 中学時代から続いている趣味らしい。


 ちなみに、ルミさんはこの手の話題が苦手だ。

 大が百個付いても足りないほど苦手だ。

 だから、探索に同行しないのは勿論のこと、

 どこに行くのかも絶対に聞かない。

 土産話や写真なんかも当然NG。


『出掛けてくる』


 このワードが彼氏さんが

 廃墟・心霊スポット巡りに向かうことを意味する隠語として、

 二人の間だけで機能しているそうだ。


 ルミさんの話では、失踪当日の朝、

 彼氏さんが家を出るときにこの隠語を使っていたらしい。


 だから、その行き先はどこかしらの

 廃墟・心霊スポットだと予想される。


「でも、ルミさんにはそれがどこかわからない」


 失踪日は三月一日。その二週間前──二月十五日にも、

 彼氏さんは『出掛けてくる』と家を出ていた。


 そして、そのまた一週間前には、

 恐怖映像の特番が放送されていた。


「テレビで流れた心霊スポット……」


 その番組は私も録画していたから、昨晩寝る前に見返した。


 室内で撮られた映像、公園で撮られた映像、

 学校で撮られた映像、海で撮られた映像、

 監視カメラやドライブレコーダーによって

 撮られた映像、昼に撮られた映像、

 真夜中に撮られた映像。


 廃墟や心霊スポットで撮られたであろう映像は

 少なくなかった。けど、多くもなかった。


 そして、

 頑張れば撮影場所を特定できそうな映像もいくつかあった。


 でも、これに関しては警察が既に調べている。

 片っ端から候補を調べてくれているらしいけど、

 有力な手掛かりは未だ見付っていない。


「チラシ、補充してもらうか」


 最初はコピー用紙一束分あったのに、

 今はもう厚さ五ミリといった具合。

 店に来た人全員に配ったし、まぁ当然か。


 ということで、私は早速ルミさんに電話をかけた。

 一コール、二コール、三コール。


『アスカ? どしたの?』


「いや、実は……ルミさん、今どこですか?」


 電話口の向こうが何だか騒がしくて、

 ルミさんの声が聞き取りにくい。


『今? K駅だよ。丁度、アスカのところに向かってる途中』


「ああ、そうなんですか」


『ごめん、ちょっと場所移動するね。

 ──はい、いいよ。それで、どうしたの?』


「実は、チラシの補充をお願いしたくて」


『ああ、もうそんなに配ってくれたんだ。

 りょーかい、伝えとくね』


「はい、ありがとうございます」


『ううん、こちらこそ』


「……ルミさん、あの」


『ん?』


 トイレかホームの端かそれ以外か。

 どこでもいいけど、静かになってわかったことがあった。


 ルミさんの声に元気がないのだ。

 張りがないというか、取り繕っているように聞こえる。

 そう、空元気というやつだ。


「……K駅なら、あと三十分くらいで着きますよね。

 お昼まだなら、用意しておきますけど」


『ああ……そうだね、お願いしようかな』


「了解です。じゃあ待ってますね」


 ここに来てくれるなら、

 わざわざ電話口で足止めさせることもない。


 昼食を食べながらゆっくり話を聞くとしよう。

 何を作ろうかなと、

 すでに私の頭は献立を組み立て始めていた。

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