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何でも屋と季節外れの夢  作者: 水之音 霊季
三章 お守りと大学生①
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三 アスカとショーゴ ─二〇一九年 五月五日─ 三

 買い出しに出掛けたルミと入れ替わりで

 店にやって来た二人の大学生。


 黒縁の眼鏡が印象的な堀井(ほりい)淳季(じゅんき)さんと

 明るい金髪が印象的な小早川(こばやかわ)(れん)さん。


 彼らからの依頼は、落としてしまったお守りの捜索。


 新しいのを買えばいいのでは?


 そう思ったけど、話を聞くに、

 そのお守りは大切な人からの贈り物であるらしかった。


 そのお守りは、四年間ずっと淳季さんの側にあって、

 この先の人生も共に歩むはずだったんだ。


 どうにかお守りを見付けてあげたくて、

 私は早速行動を開始した。


『──じゃあ、アスカより早く帰ったら店番して待ってるね』


「うん、お願いね」


 まだ買い出し中のルミに連絡し、

 私は淳季さんと蓮さんを連れてお守りを探しに出た。


 二人の話では、お守りを無くしてしまったのは

 三日前──五月二日であるらしい。


 そこから導き出されるのは、三つの捜索箇所。


 一つ目は中央公園。


 二つ目はカミコ神社。


 三つ目は二人が歩いた道のり。


 私達は三つ目を見なかったことにしつつ、

 一つ目の中央公園に車を走らせた。


 すでに一度探したと二人は言うけれど、

 案外そういうところに探し物が転がっていたりするものだ。


「では、分担しましょう」


 ゴールデンウィークの日曜日。


 公園は大勢の家族連れで賑わっていた。


 駐車場に空きがあったのは正しく奇跡。


 二人と別れた私は、

 私達が使った入り口の真向かいに向かった。


 そこには涼しげな木陰と木のベンチが設置されており、

 公園に来た人の休息の場となっている。


 例えば、あの二人もここで休憩していて、

 立ち上がる時に引っ掛けて千切れ落ちてしまった

 なんてことも考えられる。


「そうだとしたら、ベンチの下かな……」


 自販機の下を覗くみたいにしてベンチの下を隈無く探す。


 でも、それらしきものは見当たらない。


「コンタクトでも落としました?」


 もう一つのベンチの下を探していると、

 誰かが私に声をかけてきた。


 顔を上げると、そこにいたのは見知った顔のおじさん。


「ショーゴさん?」


「あれ? なんだ、アスカちゃんか。

 てことは、なんかしらの依頼か?」


「ご察しの通りです。ショーゴさんは、こっちにはいつ?」


「一昨日の夜だよ」


 淳季さんと蓮さんに続き、三人目の帰省者だ。


 やっぱり、連休中に故郷に帰る人は多いんだな。


 私なんかは帰省ラッシュが嫌だから

 ゴールデンウィーク明けに帰省している。


 もっとも、

 飲食店だから連休中こそ営業しないとなんだけど。


「懐かしいな、この公園。昔と全然変わらない」


 私が探していない方のベンチに腰かけて、

 ショーゴさんは子供達を優しく眺める。


「子供の頃、よくここに来てたんですか?」


「いや。俺が来てたのは十七の時だ」


「十七って、高校生ですか?」


「ああ。隣の家の五歳になる女の子が

 俺にめちゃめちゃ懐いててな。

 その子とよく遊びに来てたんだよ」


「へぇー」と頷きながら、私は思った。


 懐いていたとショーゴさんは言うけれど、

 その子は本気で恋をしていたのだろうと。


 私にも似たような経験があるからよくわかる。


 私の場合は、

 実家の近所のケーキ屋で働いていたお兄さんだ。


 お母さん曰く、一目惚れだったらしい。


「じゃあ、今日はその思い出に浸りに来たんですか?」


「そうなるかな。ついこの間、

 久し振りにその子のことを思い出したから」


「久し振りに?」


「うん。俺が十九の時に、その子は引っ越しちゃったから。

 それっきり、十八年間会ってない。

 顔も名前も、存在すら忘れてたくらいだ」


 過去の記憶に向けられたショーゴさんの目は、

 どことなく悲しそうに見えた。


あれ(・・)がなければ、

 この先もずっと思い出すことはなかったんだろうな」


「“あれ”って……?」


 十八年もの間忘れていた女の子の存在を思い出させたもの。


 彼の言葉にあった“あれ”とは何なのか。


 問い掛けた私の声は、

 側で鬼ごっこをする小さな兄弟の声に負け、

 答えはとうとう返ってこなかった。

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