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何でも屋と季節外れの夢  作者: 水之音 霊季
三章 お守りと大学生①
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二 ジュンと神主 ─二〇一九年 五月四日─ 二

「どうするよ、ジュン。ここにもなかったら」


「……したら、もう片っ端から通った道を探すしかねぇな」


「あってくれ! 頼むから!」


 パンッと勢いよく手を合わせ、

 レンは目の前の小さな山に祈った。


 厳密には、山の頂上にある神社に。


 昨日の朝、俺を襲ったお守りの紛失という一大事。


 レンが撮った写真を確認した結果、

 一昨日──五月二日の時点では

 お守りはまだリュックサックにあった。


 四月三十日にT市に帰省し、

 五月一日は大人しく大学に行き、問題の二日。


 大学をサボり、

 世の学生達よりも一足早く連休を迎えた俺達は、

 思い出の場所を巡る一日を過ごしていた。


 二日の朝までは確かにあったお守りが、

 三日の朝には消えていた。


 ならば、俺達が巡った思い出の場所のどこかに、

 俺のお守りが落ちている。


 もしくは、家の中のどこか。


 昨日は一日かけて家中を探した。


 だが、家が綺麗に片付いただけで、

 お守りは見付からなかった。


 だから、今日はいよいよ思い出の場所を再び巡る。


 二日に俺達が巡った思い出の場所は二つ。


 一つ目は、

 子供の頃にレンとよく遊びに行った中央公園。


 結果は外れ。


 そして、二つ目がここ──カミコ神社。


 俺とみゆ先生が合格祈願に訪れ、

 あのお守りを買った場所だ。


 懐かしい。


 合格祈願に行こうとカミコ神社に

 連れていかれた時は、何かのドッキリかと思ったものだ。


 参拝客が来ず、整備や補修もされず、

 何の曰くもないのに心霊スポットに

 なってしまう程のボロ神社。


 T市に住む人なら口を揃えてこう話す。


 カミコ神社で参拝すると、

 ご利益どころか不幸が降りかかると。


 だが、先生は真逆の考えを持っていた。


 曰く『神様が寂しそうにしているから、放っておけない』


 その台詞に秘められた優しさに、俺は改めて先生に惚れた。


 また、先生はこうも言った。


『人がいない神社なら、

 たまに来る参拝客のお願い事を張り切って聞いてくれる』


『逆に、有名な所だと、

 人が多すぎていちいち聞いてられない。

 もしくは、全員合格させようとして、定員オーバーになる』


 先生の優しさと持論を受けて、

 俺はカミコ神社に対する見方を変えざるを得なかった。


「なぁ、レン。今日は先生来るかな?」


「どうだろうな」


 先生は、

 二週に一度くらいのペースでカミコ神社に足を運んでいた。

 俺達……というか、俺は先生程ではないが、

 月一くらいのペースで参拝していた。


 タイミングが合えば先生に会えるが、

 合わなければ全く会えない。


 最近は、タイミングが合わないのと、

 俺達が地元を離れたことが重なって、

 三ヶ月くらい会えていない。


 さぁ、今日はどうだろうか。


 先生が来ることを期待しつつ、俺達はお守りを探した。


 小さい神社だ。


 全てを探し終えるのに、そう時間はかからなかった。


 そして、お守りは見付からなかった。


「……よし。じゃあ、一昨日歩いた道、片っ端から探すぞ」


「すまん……」


「謝んなよ。あれはお前の大切なもんだろ。

 絶対見付けようぜ」


「ありがとな」


「いいっていいって。あーでも、一回神主待ってみるか。

 もしかしたら拾ってるかもしんねぇし」


 確かにその可能性も有り得るなと、

 俺達は賽銭箱の横に腰を下ろし、

 ひたすら神主の到着を待つ。


 神主が現れたのは、

 俺が暇潰しで流していた脳内ミュージックが

 五曲目に突入した時だった。


「おお? お前ら、久し振りだな」


 神主はすぐに俺達に気付き、

 懐かしの同級生に会ったかのように

 嬉しそうに近付いてきた。


「一ヶ月振りくらいか?」


「引っ越し前に会ったのが最後だから、多分そうですね」


「お久し振りっす。相変わらずでかいっすね」


 一八〇ある俺とレンでも、

 少し上を向かなければ神主と目を合わせることはできない。


 その身長、何と一九〇。


 そこまで来ると、羨ましさは感じなかった。


「でかいでかいって、お前らも似たようなもんだろ。

 今は十九だろ? あと一年は伸びるからな」


「マジすか。一九〇はちょっとなぁ」


 悩ましげにレンが呻くが、俺も同じ気持ちだった。


 身長が高いことはステータスだと思われがちだが、

 実際は違う。


 服や靴は、合うサイズが無い。


 よく頭をぶつける。


 作業や片付けの際に都合よく駆り出される。


 贅沢な悩みだって? 俺もそう思う。


 少しだけ世間話をした後、俺は神主に本題を切り出した。


 先生と顔見知りである神主は、

 俺のお守りの紛失に本気で耳を傾けてくれた。


「なるほどな。それで探しに来たってわけか。

 けど、お守りは見てねぇな」


「そうですか……」


 項垂れる俺達。


 すると、

 神主は「ちょっと待ってろ」と本殿の中に入っていった。


 何をするのかと思ったが、

 一分も経たない内に本殿から出てきて、首を横に振った。


「まぁ、俺も掃除しに毎日来てるからよ。

 もし見付けたら、ちゃんと連絡するよ」


「ありがとうございます」


「あとは、そうだな。どうしても見付けたいなら、

 何でも屋にも頼んでみたらどうだ?」


「何でも屋?」


「T駅の東口にある赤い店だよ。見たことないか?

 あそこ、日火木が何でも屋だからよ、

 明日行ってみたらいい」


 T駅の東口の赤い店。


 そんな建物があったような気はするが、

 今一つピンとは来ない。


 聞けば、金曜日が定休日であり、

 土月水が喫茶店となっているらしかった。


「あそこなら、誰よりも力になってくれると思うぞ」


 何でも屋に頼むとなれば、その費用が財布から飛んでいく。


 痛い出費だが、お守りを見付けるためだ。


 俺の決意が固まるのに、そう時間はかからなかった。

改稿に伴い、ルミさんと大学生二人が知り合うシーンが無くなりました。この章では、ルミさんと大学生はまだ他人となります。

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