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続*僕と彼女の関係

 僕たちは昼ご飯を食べるため部屋を出て、近くのショッピング街へ来ていた。

 もうお昼の1時を回っていることもあり、街は人で溢れ活気を満ちている。 

 しかし、なんだってこんなに注目を集めなきゃならないんだ。僕は背が高い方だが別段目立つ方ではなく、人々が振り返ってまで見てくるのが気になって仕方なかった。

 そう、原因は詩織にあった。

 土曜日だというのに制服を着ている彼女はかなり目立った存在なのだろう。まぁ制服だけの問題じゃないのだろうけど。

 ある程度人ごみから抜けた場所で僕たちは立ち止まる。


「さてと、どこに食べに行きたい?」


 一瞬驚いたような顔をした彼女はスカートのポケットを漁り始めた。


「私、財布持ってないんだけど」


 両手を広げて、ポケットの中に何もなかったことを見せる。

 不良少女の割にはしっかりとした感覚を持っているようで、好印象を受けた。


「一応昨日は助けてもらった形にもなったわけだし、お礼ってことで奢るよ」


 冷蔵庫にも何も入ってなかったしね。

 基本、自炊をしているが、何分一人暮らしをするまで料理をしている訳ではなかった。そんな未熟な僕の料理を食べさせて、またキレられたら堪ったもんじゃないと思っていることは秘密だ。


「気にしないで。どうせ今日は外で食べようと思ってたんだから」


 そう言ったのにまだ迷っている風な彼女。


「じゃあねー」


 少し首を傾げながら、斜め上を向いて考え始める。

 可愛いなぁ。


「あそこに行きたい」


 なぜだかモジモジしながら指を指す。

 視線と指の先には、オープンカフェテラスに全面ガラス張りのオシャレなカフェがあった。建物は南フランスの古い建物のようなレンガ造りをしていて、薔薇やカモミール等のハーブ類が置かれている。カラフルなパステルカラーの椅子に真っ白なテーブル。かすかにだけど聞こえてくる可愛らしい音楽。

 見ただけでピンときた。女の子専用の店だと。

 たまに男の人も見えるけど、向かい側には必ず女の人が座っている。彼女がいたことのない僕は、思わず後ずさりをしてしまう。


「私ね、あーゆー女の子のお店って感じのところに友達と行くの、憧れてたんだー」


 言うが早いか、彼女はカフェに駆け出す。

 --------それって女の子同士の友達と行く場合じゃないの?

 意外に少女趣味のところもあるんだと、感心しながら手招きする彼女の後をついていく。


「私は…生ハムとチーズのパニーニとシーザーサラダ。ドリンクはアイスコーヒーで」

「僕にも同じものを」

「あ!! 食後にアイスブリュレも」

「じゃあ僕も」


 かしこまりましたと、頭を下げて店員さんが下がって行った。

  --------あの店員さんも可愛い。

 僕は同じ制服を着た女の子達を目で追っていた。末長ほどではないにしろ、僕だって男だ。可愛い女の子に興味がある。


「…なんで全部一緒のもの頼むのよ?」

「なんでって、いけたなかったかな」

「別に悪いって訳じゃないけどさ、昨日から見てるとユーヤは自分ってものがなさすぎる」


 腕組みをしながら背もたれにもたれる詩織を見ながら、おしぼりを手に取った。


「あー、僕ずっとイジメられてたから。人に合わせるのが癖になったのかも」

「なんでイジメられてたの? 背も大きいし顔だって悪くないのに」


 そういえば、なんでだろ?

 考えたこともなかった。ただただイジメに耐えることだけを考えてきた僕にとって、彼らが虐める理由なんて考えたことなかった。イジメてくる相手も“タッパがあるから”“生意気そうな顔してるから”とか、訳の分からないイチャモンしかつけてこなかったし。確かによく考えれば、それってイジメるほどのものではないような。

 分からなくなって首を傾げる。


「僕が弱いからじゃないかな」


 適当に理由を取り繕う。彼女は納得いかないのか、不貞腐れたように頬杖をついて窓の外を見始めた。

 しばしの沈黙。そわそわと落ち着きなく水を飲んだり手を拭いたり、外を見てみたりしてみる。

 あーこういう時間って苦手だなー。


「ねぇキレた時ってどんな感じなの?」

「? どういうこと?」

「僕キレたことないし、ほら言っただろ? 君のキレる原因を探るって」

「そうだなー」


 首を傾け斜め上を見ている。どうやらこの仕草が彼女の思考する時の癖らしい。


「なんていうかカァっと頭の中が熱くなって、とりあえず目標物しか見えない…て感じかな」

「典型的なキレるパターンなんだね」

「あ!!」


 急に大声を上げたので、僕の体は縮こまって防御する格好になってしまった。

 -----今のでキレたとか…?


「聞こうと思ってたんだけど、ユーヤって何者?」

「山田裕也、17歳。君と同じ大正高校に通う高校2年生だけど」

「ちーがーう。そんなんじゃなくって、こうさぁ」


 外国の大統領のように、何やら大降りのジェスチャーで僕に伝えようと必死だ。でも「こう」とか「あれ」とか抽象的な言葉しか出てこず、全く理解できそうにない。

 手招きをされ、顔だけ彼女に近づける。すると彼女が手を口元にかざしたので、顔を横に向けてコソコソ話を聞く体勢を整えた。


「ユーヤって超能力とか不思議な力が使える人?」

「んぇえ!?」


 可愛い店内に似合わない声を上げて、他のお客達から注目を浴びてしまった。僕は今以上に姿勢を低く、体を小さくまとめ「そんなことあるわけない」と応えた。

 なんなんだこの子は。不良少女で不思議ちゃんなんて扱いきれないよ。


「おっかしぃなー。勘違いかなー?」


 ブツブツ呟きながら、頭上にクエスチョンマークを散りばめる。僕の方がまき散らしたいくらいだよ。


「ユーヤ、ねぇ私をキレさせてよ」

「ええ??」

「お願い、絶対に痛いことしないように頑張るから」


 そんなこと言っても、僕のこめかみには詩織がつけた爪痕がうっすら付いている。

 なんでわざわざプッツンさせて危険な目に合わなきゃいけないんだ。


「やだよ」


 丁重にお断りを入れる。

 僕は殴られるのは懲り懲りなんだ。


「じゃー賭けようじゃない。もし私が殴ったら私の負け。殴らなかったら私の勝ち」

「もし殴ったら?」

「そうね。イジメてた奴も、これからユーヤをイジメる奴も私が制裁を加えてあげる。一生イジメなんてされないよう護ってあげる」


 女の子に護ってもらうなんて、それはそれで惨めな話だが。あの時の苦痛を思えば情けなさなんて屁のつっぱりにもならない。本当に護ってもらえるかは定かではないが、一人でイジメられるよりはずっといい…かも。


「で、殴らなかったら…。あとで言うわ」

「それは殴らない自信がないと?」

「まさか。でも、そうね。半々ってとこかしら」

「……」


 殴られるのは僕なのに、納得がいかない。しかし押し切られる形で同意してしまった。


「お待たせ致しました」


 料理名をスラスラ言いながら、テーブルに料理が並べられていく。

 そうだ、話を変えよう。話が盛り上がれば、殴る殴らないの話も忘れるんじゃないのか?


「ねぇクラスはどんななの?」


 A組だからきっと荒れてるんだろうな。

 黒板は落書きだらけで、タバコの吸い殻や空き缶はポイ捨て状態。もしかしたら掃除用具入れには竹刀や木刀が入っているのかもしれない。で、大半の生徒は髪の毛が金だったり赤だったり、そうだE××LEのオシャレ坊主みたいにしてる人も多いかも。

 僕の中の不良像で勝手に教室が作られていく。


「わかんない。最近行ってないもん」

「なんで?」

「なんでって避けられちゃうし。友達いないし」


 不良少女にはそれなりの苦労がある…らしい。

 アイスコーヒーを飲みながら考える。


「出席日数とか勉強の方は大丈夫なの?」

「…どうかなー。そろそろヤバいかも、うん。でも高校中退でもやっていけるだろーし。友達は1人出来たしね、ユーヤが」


 うんうん、意外にいい子だ。っておい!!

 その言い方だと、友達は僕1人なんですけど。つまり…僕一人でこの子を面倒見ていかなければならないってこと!?

 無理!! 僕の体がもたいない!! ミッション イン ポッシボー!!


「だ、ダメだよ高校中退なんて!! 絶対ダメだ!!」


 目を大きく開けて驚いている詩織が見えた。


「と、友達は高校で見つけるもんなんだよ。学校行ってなきゃそりゃ友達だって出来ないよ。普通学生ってのは学校で友達作るもんなんだよ。…そ、それに今時、高校中退なんて不況なんだから働き口もないだろうしさ」


 友達を見つけさせるため、思いつく限りの“友達ができますよ感”を挙げてみる。

 保身だとか逃げと思われてもいい。僕は平穏な日々をゆっくり生きていきたいんだ。

 一瞬驚いたような顔をして、彼女は笑った。


「そうだね、友達は多い方がいい。普通の女の子を目指すなら女の子の友達もいるよね」


 素直…意外に素直な子だ。

 ちょっと罪悪感を感じたが、詩織も納得しているようだし。僕は、悪くないよね?


「じゃあ、月曜から学校行くね」

「そうだね、もし授業でわからないところがあったら言ってよ。教えるからさ」

「えーユーヤって成績いいの?」

「失礼な。僕は有名な進学校の生徒だったんだよ」


 「大丈夫かな?」と笑う詩織。その表情は少し不安そうで、僕の心はざわめかずにはいられなかった。

 それは先ほどの罪悪感のせいか、それとも芽生え始めた友情のせいか。

 僕にはまだわからない、けど…


「友達も出来るように協力するよ」


 少しでも力になれればと、思う。

 僕たちは仲良く、同じ料理を和気あいあいと話しながら食べていった。



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