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ショートショート6月~2回目

完全犯罪

作者: たかさば

「どうも、こんにちは。」

「……はあ。」


朝八時半、いつものように母親の暮らすマンションに顔を出すと、見慣れない人たちがいた。

……警察である。


「あの、何かあったんですか。」


何事かと思い、玄関ドアを開けたまま、中をのぞき込む……。


「きやがった!!人殺しが!!!早く、こいつを捕まえてくれ!!」


母親が興奮した様子で叫んでいる。

……これはいったいどうしたことだ。


「お母さまからね、通報があったんですよ。娘に殺される、今すぐ助けに来てくれとね。」

「……はあ。」


奥の部屋で別の警察官が母親をなだめているのが見える。

……大変そうだな。


「失礼ですが、いろいろとお話聞かせていただけませんか。」


住所氏名年齢誕生日、どこに住んでいて何をしているのか。

ここには何のために来ているのか。

……淡々と質問に答える私であったが。


「一人暮らしの母の様子を見るために毎日顔を出し…

「毎日部屋にこもって殺人計画を立てている!気が気じゃない、早く逮捕しろ!!」


「仕事をやめて、ここで日中はパソコンで趣味…

「私の金を奪うつもりで毎日毒を盛っている!!私はもうじき死ぬ!」


「すみません、外に出て話しましょうか。」


警察官に促されて、外に出る。


バタン。

扉を閉めて、警察官が口を開く。


「じゃあ、詳しいこと伺ってもいいですか。」


バタン!!


「こいつは、こいつは育ててやった恩も忘れて、私を殺そうとしている!!!」


ドアが勢いよく開いて、母親が飛び出してきた。


「……パトカーまで同行願えますかね?」

「はあ。」


派手なことになったなあ、どうしたもんかね。

……なるようにしか、ならないか。


マンション五階から一階に降りて、パトカー前で警察の人と話をする。


「あの、お母さんはいつもあんな感じなんですか。」

「まあ、そうですね。」


「失礼ですが、認知症の検査とかされてます?」

「全部完璧に答えて、要支援にすらなりません。」


「メンタルヘルス科の受診などは?」

「ああいうのは頭のおかしい人が行くところだからお前が行けと言われています。」


「お母さんから、こんなものを渡されましてね。……あなたの書いたものですか?」

「ええ、私の書いたものですね。」


手渡された紙には、ミミズののたくったような文字が連なっている。


―――完全犯罪にまつわるエトセトラ:母は知らないのだ、私の計画を。何も知らずに毎日食しているそのコメには……、人類が決して体内に取り入れてはいけない物質がふんだんに染み込んでいる。

―――玄関にシリコン剤をぶちまけ、つるつるに磨いたのちアンゴラ靴下をはかせて様子を見る。

―――長年にわたる虐待の恨みは、正常な精神をことごとく打ち砕いたのである。そうだ、殺してしまえばいい。

―――ご先祖様がお怒りだ、なぜ子孫を苦しめるのだ、同じ血脈を持つものに対しての怒りが怨念となって肩に乗っているのに気づいていないおろかな母親。

―――そうだ、今は使っていない井戸があったはずだ。あそこにぶつ切りにした破片を投げ込み、知らん顔をして埋めてしまえばいい。

―――決行は真昼間に限る、喧騒に紛れて、老いた者のため息などかき消されてしまう事だろう。いつやるか、まもなくだ。

―――証拠隠滅は喰らうにかぎる。人の肉など、調理してしまえばただの食材なのだ。


「なぜこのようなものを?」

「ああ、私小説書いてるんですよ。そのネタメモですね。」


「小説?すみません、証拠のようなものはありますか。」


私は自分が投稿している小説サイトのページを明示した。

600を超える、私の作品群が警察官の目に留まっている。


「これは……食人記録、計画殺人、宇宙人との交流、霊会の統治……すべて創造の賜物ですか?」

「そうですね。」


「失礼ですけど、お部屋の中を調べさせてもらってもよろしいですか。」

「いいですよ。」


エレベーターに乗り込んで、ドアを開けて自分の部屋に入ると……パソコンが散乱していた。


モニターの画面が割れ、キーボードがバラバラになっている。

三段プラケースの中身がすべてぶちまけられて、メモ用紙が散乱している。

お菓子はすべて中身がぶちまけられて、フローリングの上に転がっている。


「パソコン本体、押収します?」


……電源入らないかも?


「こんなもん全部持ってけ!!警察はこういうときに働かなくてどうするんだ!!早く逮捕、逮捕しろおおおおおおおお!!!」

「あの、今調べてますから、落ち着いてください。」


ああ、やばいなあ……。


「落ち着く?!こんな一大事に落ち着く?!馬鹿かあんたは!!人のいう事聞かないで勝手なことばかりしやがって!!!今すぐこいつを連れてけ!!早くしないと私の命が早くしろって言ってんだろうが聞こえないのかあホンダラアアアアアア!!!」

「こういう場合は、双方からのお話を伺って……。」


……もう、収まらないかな?


「人の話を、遮っていいと思ってんのかあああああああああ!!!こっちにはこれがあるんだ、お前なんか、お前なんか一刺しでイチコロなんだ、わかってんのかああああ!!!どいつもこいつも年寄りだと思ってバカにしやがってえええええ!」

「ちょっ、あ、危ない!!!」


母親は、連行されてしまった。


そのまま、とんとん拍子で、措置入院となった。


曰く、殺人鬼と顔を合わせたくない、二度と見たくない、もう関わり合いたくない。


私の介護生活は、3年で終了することになりそうだ。


たった3年、もう3年、長い、長い3年だった。


……良かった、母親が、昔から全く変わってなくて。

改心してたら、こんなにうまくいかなかったかも?


母親の、盗み見する癖には、ホント泣かされてたんだけどね。

それがこんなに役にたつとはね。


子供の時は、机の中、いつも漁られてたんだよね。


……内緒の手紙も、全部読まれたっけなあ。

……交換日記も、全部読まれたっけなあ。

……宝物のバースデーカードも、ぜんぶ見られたし。

……記念の写真も、ぜんぶ破かれたし。


絶対に、私のプラケースの中、見ると思ってたんだよね。

色々仕込んでおいて大正解ってね。


……もうさ、私も限界だったんだよね。


毎日毎日、この世を呪う言葉ばかり聞かされていて、気が狂いそうだったんだ。

毎日毎日、生まれてきた意味のなさを懇々と語られて、気が狂いそうだったんだ。


毎日毎日、否定されるのが、本当に辛かったんだ。

毎日毎日、バカにされるのが、本当に辛かったんだ。

毎日毎日、未来がないと断言されるのが、本当に辛かったんだ。


大好きだった仕事も辞めさせられて、家族と団らんする時間も貰えずに、朝から晩まで母親の元にいることを強要されて。

朝昼晩の食事の世話に掃除洗濯全てをこなし、空いた時間にぼんやりしようものなら罵詈雑言が飛んできて。


どうしたら、現状打破できるのかって、頭が悪いなりに考えてみたんだよね。


古いパソコンを持ち込んで、小説家のまねごとをしながら、ただひたすらにキーボードを叩き続けて、計画を練った。

物語を書くふりをしながら、いくつものパターンを想定して逃げ道を探った。


昔から、勝手に追い込まれて、勝手に爆発してたの、よく知ってるからさ。


触れない、確認できない、何をしているのかわからないパソコン作業に没頭している私をみて、気が気じゃなかったんだろうね。


ちょっと、細工したら、うまくいくんじゃないのかなって、思ったんだ。


……勝手にカン違いしてくれて、よかった。


……私は、小説のネタを書いていただけなのにね。


……書いてみたい物語が、溢れて良かった。


……次から次へと、陥れたいシチュエーションが浮かんできたんだよね。


……私の想像力が豊かなのが、幸いしたみたい。


……追い込むのがうまいのは、血筋なのかもしれないな。


私を追い込むものはいなくなった。


……もう、自分の書きたい物語を書いても良いかな?


私はニコニコしながら……、今回の事の顛末を物語にするべく、愛用のノートパソコンを立ち上げた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「ひょっとして」なんて思わせるメタなところがイイ!
[気になる点] ……実話ですか? [一言] ガチで完全犯罪しちゃったじゃないかあ…… だよね。殺すだけが犯罪じゃないもんね。社会的に追い詰めたり、自殺に追い込んだり。 ちょっとした工夫と想像力があれ…
[一言] 怖かったです〜。
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