ナーザント侯爵家 3
ナーザントの言ったとおり、エリザベスとルークだけでなく、マクゼガルド公爵もやってきた。
侯爵家の使用人の人たちもてんやわんやだ。学院のお友達が来るって範囲だったのに、一気に国家レベルの訪問になってしまった感じ。いや、皇太子が来るってところで、既に国家レベルなのだけれど。
「やあ、アリサ君」
「公爵さま」
私は慌てて立ち上がって頭を下げる。
「わざわざ公爵さまにまで、立ち会っていただけるなんて、恐縮です」
「いや、仕事の手がちょうど空いてね」
にこりとルークにそっくりな笑みを浮かべる公爵。
その後ろでエリザベスとルークが呆れたような顔をしている。
ひょっとしたら、かなり無理をしてきてくれたのかもしれない。
「ほら、やっぱりこういうことの立ち合いに子供だけっていうのはおかしいだろう? アリサ君はうちの」
「父上」
ルークがコホンと咳払いをする。
「うちの大事な娘の親友だ。それに、我が家の護り石との相性も良かった」
なぜかルークを見ながらエリザベスがくすくすと笑っている。
ルークの部活の後輩ってのを省いたからだろうか。いや、まあ、部活の後輩だからなんだという話はあるけれど。
「護り石に相性ってあるのですか?」
今聞くことではないかもしれないけれど、ちょっとわからなくて、私はナーザントに尋ねる。
「ありますよ。同じ属性の場合はあまり問題にしませんけれど、そうでない場合は特にね」
「……そうなのですか」
それにしては、わりと簡単に護り石に力を注いでみてって言われた気がする。
「既にテスト済みとはねえ。さすがルークさまはやることに隙がないというか」
ナーザントはわずかに苦笑をうかべている。
「アリサは優秀な魔術師ですもの。我が家に囲い込もうと思うのは当然の流れです」
エリザベスが勝ち誇ったように微笑む。
「私、まだ魔術師になれると決まったわけでは」
もちろんなりたいと思っているけれど、正式に魔術師となるには、学院を卒業し試験を受ける必要があるのだ。
「つまりマクゼガルド公爵家がそこまで入れ込んでいるということです。あなたに『価値』があるということはわかっていただけましたか?」
「ええと。つまり、ひょっとしたらマクゼガルド公爵家が雇ってくださるということでしょうか?」
「雇うかどうかは、わからないよ?」
公爵はほんの少しだけ口の端をあげる。
「それはそうですよね」
つい勇み足をしてしまったようで、私は思わず恥じ入った。
それはそうだ。特待生であり続けられる保証はないし、天下のマクゼガルド公爵家の専属魔術師ともなれば、そう簡単になれるものではないだろう。
エリザベスは友達の私を買いかぶっているから、当然それだけの実力がつくだろうと思ってくれているけれど、公爵から見れば、そんな将来もあるから頑張ってね、くらいの意味だ。そうでなくても私はマクゼガルド家に随分と便宜をはかってもらっているのだ。これ以上求めるのは、図々しいだろう。
「とにかく君がナーザント家の人間になることは、いろいろプラスになると思う」
それはそうだと思う。私にはプラスになることばかりだ。ナーザント家にとってのプラスがどこにあるのかとつい考えてしまう。
もちろんマクゼガルド家に雇ってもらうだけの力がつくのなら、ナーザント家に返すことも可能なのかもしれない。おそらくそれを期待しての青田買いというやつなのだ。
「これはこれは、マクゼガルド公爵さま」
慌てたように奥からナーザント夫妻が現れた。マクゼガルド公爵が来たら出迎えないわけにはいかないということだろう。
「わざわざおいでいただきまして、ありがとうございます」
ナーザント侯爵が丁寧に挨拶をする。
「それはそうだ。我が家としても特待生であるアリサ君には注目していたからね」
コホンと公爵は咳払いをする。
「エリザベスにとって、心置きなく話せる親友であるアリサ君は、近い将来政治的な価値があるとみての養子縁組だろう?」
「そうですね」
ナーザント侯爵は、否定しない。
「もちろんそれだけではありません。彼女の才能、美しさ、何より人柄が気に入っての事です」
「確かにアリサ君の風の加護は、ナーザント家には魅力的だろう。その辺はどう考えているのかね?」
マクゼガルド公爵は何故か挑戦的だ。
「無論、魅力的ですわ」
ナーザント夫人がそっと私の手をとって笑んだ。
「ただ、夫もレイノルドもマクゼガルド家とは親しくありたいようですから」
「それは良かった。なあ、ルーク」
「俺に振らないで頂けますか?」
ルークがムッとしたような顔をする。
「どうかしたのですか?」
会話の意味が全くわからなくて、私は首を傾げた。
「どうもしないわ、アリサ。最終的に磨いた宝石をどうするかって相談だから」
エリザベスが肩をすくめる。
「宝石?」
いったい、いつ宝石の話に変わったのだろうか?
貴族の話って難しいなあって思った。
次週更新はお休みします。すみません。




