大事になってすみません
若干短め。すみません。
エリザベスとグレイに相談した結果、一度ナーザント侯爵夫妻に会って話すべきだということになった。
ルークの誕生会で会ったとはいえ、それで親子になるというほどの語らいをしたわけではない。
ナーザントが私への罪の意識からご両親に無理を言っているのであれば、やっぱりそこは辞退すべきだと思うけれど。
だって既に償いはしてもらっている。私を見ていると罪を思い出してしまうほど深い傷なのであれば、義理の兄妹などになったら、一生背負い続けなければいけなくなる。
私はそんなことを望んでいない。
あの時、確かに嫌な思いをしたのは事実だけれど、今はもうナーザントに対して恨みとか憎しみはないのだから。
夕食時の食堂は、昼に比べて空いている。
私はいつもの通りC定食にして、ナーザントとルークの姿を探した。
一人だけでも煌びやかだが、二人並ぶと本当に目を引く。外見もそうだが、二人は次期公爵に次期侯爵。しかも皇太子の側近候補だ。
二人は食堂の隅に並んで座っている。
夕食時、上級貴族はあまり食堂にこないから、余計に二人は異質だ。
席がつまっていれば別だけれど周囲の人間も気後れして遠慮するから、ぽっかりと離れ小島のようになっている。
いつもなら、私も二人の側に行くのは少し躊躇してしまうけれど、今日はそうも言っていられない。
「アリサ、今日は遅かったな」
「トラウ嬢、どうかなさったのですか?」
いつもは圧倒的に私の方が早く来ていることが多いのだけれど、今日はエリザベスたちと会っていたから少しだけ来るのが遅くなってしまった。
いや、まあ、普通の食事時間に来ているのだから、心配されるほどのことは何もないのだけれど。
「こんばんは。ルークさま。ナーザントさま」
私はナーザントと向かい合わせの席に座った。
そして、落ち着くために深呼吸する。
「あの、ナーザントさま」
食事のついでに話すことではないけれど、ナーザントと確実に会えるのはこの時間だけなので仕方がない。
「この前のお話、お受けする前に、侯爵夫妻にお会いすることは可能でしょうか?」
姿勢を正して問いかけると、ナーザントはにこやかに頷いた。
「そうですね。それは当然だと思います」
もともとそのことは考えてくれていたみたいだ。まあ、普通に考えて、顔合わせもせずに養女にはしないだろう。なんと言っても、ナーザント家は侯爵家なのだし。猫の子をもらうみたいにはいかないだろう。ひょっとしたら、ひそかに身元調査くらいされているかもしれない。
「それでですね。その席に殿下とエリザベスさまが同席して下さるとの事なのですが、よろしいでしょうか?」
「え?」
それは想定外だったらしく、ナーザントが驚きの表情を浮かべた。
「すみません。ご相談したら何故かそういう流れになってしまって。大事にしてしまって申し訳ないのですけれど」
私は恐縮する。皇太子殿下が同席するとなれば、侯爵夫妻も『気軽に』とはいかないだろう。
日程のセッティングだって、調整が大変になる。でも、エリザベスはなぜか乗り気になってしまったから、グレイも今さらやめるとか言いにくいだろうなって思う。なんと言っても、彼はエリザベスのことが大好きだから。
「殿下も?」
ルークも驚いたようだった。エリザベスが同席というのはあると思っていたみたいだけれど。
「わかりました。その方がトラウ嬢としては安心できますでしょうから、構いませんよ。両親にはそのように言って日程を調整しましょう。当然ルークさまもおいでになりますよね?」
「ああ、もともとそのつもりだったしな」
ナーザントに問われて、ルークは頷く。
「ルークさまも?」
「なんだ? 殿下とエリザベスが同席するのに、俺はダメなのか?」
「いえ。ダメというわけではないですが、なんだか本当に申し訳なくて」
自分の養子縁組に同級生と部活の先輩を巻き込んでいいのだろうかって思う。
それもかなり『高貴』な人たちを。
「あなたが気にする必要はないですよ。トラウ嬢。ルークさまもエリザベスさまも、そして殿下も好きで勝手に首を突っ込んでいるだけなのですから」
くすりと、ナーザントが笑う。
「そしてね。私はその輪の中に積極的に入りたいのです。あなたを守る義兄としてね」
「それはとてもありがたいことですけれど、ひょっとしてナーザントさまは、未だに私に罪の意識をお持ちで、そのように思われているのでしょうか?」
これだけは聞いておかないといけないと思う。私はいつまでも過去を引きずってほしくないのだ。
「違いますよ」
ナーザントは苦笑した。
「もちろん、あの時の自分を殴りたい気持ちは今でもありますけれど。それはね、あなたの思われる悔恨の想いだけではないのですよ。それにね。たとえ過去が変わったとしても、未来が変わったとはとても思えないのです。勝てない勝負をしても仕方ありませんし」
ちらりとナーザントはルークの方を見た。
何かルークに言われたのかもしれない。でも、ルークは素知らぬ顔で食事を続けている。
「逆に言えば、あなたを義妹にすることで、私はたくさんのことを乗り越えられるのですよ。それは、罪の意識ではなくて、もっと別の問題なのです」
「……そうですか」
よくわからないけれど。
罪を償いたいという意味ではなくて、そうすることでナーザントは何かすっきりするのかもしれない。
「わかりました。侯爵夫妻にお会いできるように、お願いいたします」
私はナーザントに頭を下げた。




