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恋する暇などありません!  作者: 秋月 忍
夏休み 他視点ss

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レイシアの髪飾り  マリア視点

本日二話更新2/2

「ただいま、アリサ」

「お帰りなさい、マリア」

 アリサは部屋に一つだけある鏡台の前に座っていた。一生懸命、髪をアップにする練習をしていた。

「どうしたの?」

 アリサの髪はとても長いけれど、結んだりアップにしたりとかしていない。

 ちらりと見ると、彼女の手元には青いリボンがあった。

「なんか上手に使えなくって」

 アリサは私がリボンを見ていることに気づいて、苦笑いを浮かべている。

 彼女の髪はさらさらしていて、さらりとした生地のリボンだと滑ってすぐほどけてしまうようだ。

「貸して」

 私はアリサの髪を梳り、高めの位置で結びあげる。

「アリサの髪はさらりとしすぎているから、リボンの材質を選んだ方がいいかも」

 アリサのピンクのストレートヘアは、癖がなさ過ぎて扱いがそれなりに難しい。

「よし、できた」

「ありがとう、マリア」

 アリサは恥ずかしそうに微笑む。

 ポニーテール姿のアリサは、かなり可愛い。いつも可愛いけれど、破壊力抜群だ。

 うなじのラインがとても綺麗で、ちょっと色っぽい。

 こんな髪型で外に出たら、男性の視線を集めてしまいそうだ。本人はきっと気が付かないだろうけれど。

 アリサは決して、人の心の機微というものがわからない人間ではない。むしろ周囲の人の心の動きには敏感で、細やかな気遣いの出来る子だ。

 だけど、なぜか自分に向けられる好意に対しては鈍感で、たまにわざとなのではないかと思うほどである。

 クラスが違うからクラスメイトが彼女とどう接しているかわからないけれど、私の知る限り彼女を気にしている男性は多い。アリサは、言わば高嶺の花なのだ。

 自分が遠巻きにされている理由を彼女は、自分が『平民』の『孤児』だからだ、などと思っているようだけれど、私は違うと思う。

 彼女は夕食をルーク・マクゼガルド公子と、レイノルド・ナーザント侯爵子息とともにとっている。

 例の『真実の愛』騒ぎの『対策』らしいけれど、学院でも一、二を争う二人に守られているアリサに声をかけにいける勇敢いや、無謀な男子はいない。

 その分、女子には反感を買ってしまう面は否めないけれど、エリザベス・マクゼガルド公女の親友でもあるし、面と向かって罵詈雑言を吐く令嬢は、命知らずだと思う。

「リボン、買ったの?」

 アリサが鏡台のそばに置いていた箱には、いくつかのリボンと髪飾りが入っていた。

「うん。マリアにも買ったの。ニーハのお土産」

「ありがとう」

 箱に入っていたリボンの一つをアリサは私にくれた。

 白いきれいなリボンだ。

 アリサは特待生としてもらえるお金と、働いた仕事で得たお金で生活している。

 だから、家から仕送りをしてもらっている私と違って、私服の数もとても少ないし、オシャレにもお金をかけられない。

 今まで働いたお金で、やっと少しだけアクセサリーも買うことが出来るようになったということなのだろう。

 アリサはオシャレをしなくても、十分綺麗だけれど、青いリボンをした彼女は本当に愛らしかった。

「これから毎朝、結んであげるね」

「でも」

「いいの。アリサの髪の毛、さらさらしていて、触ると楽しいもの」

「ありがとう。私、不器用でちょっと諦めかけていたの」

 アリサが苦笑する。

 紐でくくるくらいは神殿時代にしていたらしいけれど、リボンをつけるようなことはやってなかったらしい。

 こんなに可愛いのに、もったいない!

「ねえ、他のも見せて」

 私はリボンの入った箱を覗き込んだ。

 その中に青い玉のついた髪飾りがひとつ、一緒に入っていた。

「あら」 

 それは決して高いものではないけれど。『レイシアの髪飾り』だった。

「アリサ、レイシアの祭りに行ったの?」

「うん。水の神殿が見たくて」

 アリサは観光してきたの、というような口調で言う。

「誰と?」

「えっと。部活の先輩」

 アリサは少しだけ迷うようなそぶりをして答えた。

「ふうん」

 私はとりあえず頷く。

 部活の先輩ということは、つまりマクゼガルド公子のことだろう。アリサはそんな風に言わないけれど、マクゼガルド公子はアリサをとても気に入っている。公子以外の男性と行ったなら、ちょっとした問題が起こりそうだ。

「私はオーフェの神殿育ちだから、他の神殿に行ったことがなかったからとても興味深かったの」

「興味深いって、アリサ。レイシアの祭りの意味とか知らないの?」

「あまり。だって私はオーフェの神殿出身だから」

 アリサは答える。

「この髪飾り、貰った時、何か言われなかった?」

「これがないとゆっくり見て回れないって」

「それはそうだけれど」

 私は迷う。アリサも完全に気づいていないわけではないと思う

 レイシアの祭りは恋人たちの祝祭だ。永久の愛を誓いあう祭りで、その日の神殿はカップルばかりだし、何も知らなくても雰囲気でわかるはず。

 だけど、あくまで知らないことにしておきたいのかもしれない。

 知らないことにしておけば、この髪飾りをつけることに意味はなくなる。

 この髪飾りの意味は、『恋人がいる』って意味だ。この髪飾りを渡すのは『告白』の意味。でも、知らないなら、ただの髪飾りでしかない。

「マリア、深い意味はないのよ。私が水の神殿を見たいって言ったから、付き合ってもらっただけ。それ以上の意味とかはないの」

 アリサはまるで自分に言い聞かせているように言いながら、そっと箱を閉じる。

 この話はおしまい、ということなのだろう。

 たぶん。アリサは何も知らずにレイシアの祭りに行き、薄々意味を感じ取ったものの、一緒に行ったマクゼガルド公子たぶんに何も言われずに奥まで行ってしまったのかもしれない。

 意味が分かっていなくても、レイシアは恋人たちに祝福を与えてくれるのだろうか。

「案外、ヘタレなのかしら?」

 私は思わず呟く。

 あんなにパーフェクトなのに。

 ルーク・マクゼガルドは意外と最後の一歩が踏み出せないタイプなのかもと思うと、ちょっと面白かった。 

本年もお世話になりました。


来年もよろしくお願いいたします。良いお年をお迎えください。

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