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恋する暇などありません!  作者: 秋月 忍
夏休み

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レイシアの祭り 2

 お店を出て、街を歩く。

 よく見ると着飾った若者ばかりだ。

 お祭りっていうと、老若男女ってイメージなんだけど、レイシアの祭りはちょっと違うのかもしれない。

 街全体がお祭りムードだから、子供たちも走り回ってはいる。ただ、なんだか目的地が違うような気がする。

「屋台は、河原の方に出るからな」

 私の視線に気づいたのか、ルークが教えてくれた。

 そうか。神殿の近くに屋台がないのか。

「祭りのメインイベントの灯火流しは、神殿近くの河原からなんだ。つまり、神殿そのものに行くのは、神像を見に行く人間だけってことだな」

「でも、水の神像が見られるって」

「別にこの祭りだけってわけではない」

 レイシアの水の神像は、節目節目に公開されるらしい。

「初めて見るなら、驚くかもしれないがな」

 それにしても、神殿に向かう人間はほとんど若者だ。

 客層がこんなに偏るのは、何か意味があるのだろうか。

 神殿の敷地に入ると、いくつもの屋台の屋根が見えた

 あれ? 屋台は河原の方に出るって聞いていたけれど。

 私の視線に気が付いたルークは、ちょっとだけ苦い顔をした。

 でも、よく見ると食べ物屋ではないみたいだ。列に並んでいるのは、ほとんどが男性。女性もいるにはいるけれど、少ない。

 どうやら、アクセサリー屋のようだ。

「ここで待っていろ。絶対に動くな。間違ってもあの噴水には近づくなよ」

 ルークの視線の先に、大きな噴水が見えた。たくさんのひとがいる。

 待ち合わせのメッカか何かなのかもしれない。人待ち顔の人たちがいっぱいだ。

「はい」

 私が頷くと、ルークはアクセサリー屋の方へ歩いて行った。

 アクセサリーを買うのだろうか。お祭りのお守りか何かなのかな。列に男性が多いところを見ると、男性専用のものなのかもしれない。

 それにしても、やっぱりルークは目立つ。もちろん服装がさりげに高級品というのもあるけれど、容姿が際立っている。そこだけ空気が違っているかのような、キラキラしさ。

 アイスブルーの髪はこの世界では珍しいものではないけれど、どうしたって目を引く。

 女性はもちろん、男性の注目を浴びているのは、遠目で見ていてもよくわかった。

「君、これ、受け取ってくれない?」

 不意に声をかけられた。

 年齢は同じくらいか少し上。着ているものは、庶民としてはかなり上等な部類だろう。少し気障な顔。それなりに整った顔だから、たぶんモテるのかもしれない。

 いや、さっきまで見ていたのがルークじゃなかったら、かっこいいと思えたかもとは思う。

 男の手には、青い玉のついた簪のような髪飾りが握られている。

 青い玉は、ガラス玉だろうか。

「いえ、あの、いただけません」

 それほど高価ではないにせよ、知らない人にいきなり装飾品を渡されても困る。

「でも、君、一人だろう?」

「一人ではありません」

 私は首を振った。

 なんか厄介な臭いのする人だ。女性に断られたことがないのかもしれない。

「人を待っています」

「そう? でも、僕の方がいい男だよ?」

 いや、そんなことはない。私の待ち人は、ここにいる男性の中でも飛び切りの美形だ。

 私の恋人でもなんでもないけれど。

「僕はリックというんだ」

「はあ」

 名前なんて聞いてない。

 ルックスは悪くないし、たぶんそこそこお金持ちに見える。何も私に構わなくてもいいのに。

「ねえ、だからさ、受け取りなよ」

 髪飾りを受け取らせようとグイグイとせまられ、私は思わず後ずさりする。

「俺の連れに、何をしている?」

 冷ややかな声とともに、私は肩を抱かれた。

 ルークだ。

 男はルークの顔を見て、青ざめた。

「も、申し訳ございません」

 ぶるぶると震えて頭を下げると逃げるように去って行った。

 この光景、前にも見た。ルークはこの街の男性にかなり顔を知られているみたいだ。

 いや、ルークはその存在が目立つから、覚えられていても不思議はないのだけれど。

「大丈夫か?」

「はい。なんともないです」

 私は首を振る。

 そもそも、髪飾りを押し付けられていただけだし。

「これをつけろ」

 ルークに渡されたのは、先ほどの男性が持っていたのと同じような髪飾りだった。

「つけとかないと、さっきみたいな男が何人も寄ってくるぞ」

「え?」

 私はルークから髪飾りを渡された。

「レイシアの祭りは、髪飾りを男性が女性に贈るというしきたりがある。何もつけていないと、ゆっくり見て回れないぞ」 

 よくわからないけれど。

 それって、ひょっとして髪飾りをしていない女性はナンパしてオッケーなお祭りってことなのだろうか。

「つけてやる」

 事態が呑み込めないでいる私の後ろに回って、ルークは私の髪をまとめ始めた。

 後ろなので、よく見えないけれど、まとめた髪をくるくるとねじって頭の上へとあげている。

「よし」

 あっという間に、ルークは私の髪を結い上げてしまった。

 結い上げることなんて、めったにしたことないから、うなじがスース―する。

「えっと。器用ですね?」

「小さいころ、エリザベスの髪を結ってやったことがある」

「……なるほど」

 ルークとエリザベスは今でも仲がいい。幼いころは、もっと仲が良かったのだろう。

 原作では、ルークはエリザベスを溺愛してた。現実には、思っていたより標準的な兄妹の距離のような気がしている。もっとも、孤児の私が標準的な兄妹の距離を知っているわけではないのだけれど。

 それにしても。男性が女性に贈るということは、求愛の印ってことになるのだろう。

 それくらい、私でもなんとなくわかる。

 でも、私とルークはそういう仲ではないし、そもそもそういうものにしては、ルークの態度はそっけない。きっと祭りの見学をするためにナンパ避けが必要だってことなのだろう。

 私ですらナンパされるくらいだ。ちょっとみんな、普通じゃない。

 つまり。髪飾りをつけた私がいると、ルークも落ち着いてお祭りが見られるってことなのかな。私がいなかったら、逆ナンパしたい女性が列を作りそうだ。

「早くいくぞ。水の神像が見たいのだろう?」

「はい」

 私が頷くと、ルークは私の手を取って歩き始めた。





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