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恋する暇などありません!  作者: 秋月 忍
一学期 他視点SS

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私の友達

sideエリザベス (活動報告にのせていたSS)

他視点が苦手な方は、新章『夏休み』まで、読み飛ばしてください。


 アリサは不思議な子だ。

 アメジストのような大きな瞳で、端整な顔立ち。細いけれど貧相な感じはしない女性らしい体つき。

 誰もが振り返る美少女だけど、本人はそのことに気づいていない。

 彼女には風の加護があって、膨大な魔力を持っている。

 この国の周りには魔物が多く生息していて、それらから人々を守る結界を作ることこそ、貴族の役割だ。

 私たち貴族の多くは、強大な魔力を持っている。もちろん魔力だけが貴族の条件ではないけれど、魔力の強さは統治の安定につながるので、無視できるものではない。

 魔力を持つ多くは貴族に生まれるけれど、まれに、アリサのように平民の中でも大きな魔力を持つものがいる。魔力保持者は、訓練しないとその力ゆえに事故を起こすことがあるため、そういった者を拾い上げ、学院で教育するというのが、実はこの学院の当初の目的だったという話だ。そういった者を教育するための資金稼ぎとして貴族の子を入れるようにしたらしい。

 最も現実には、そういった平民を拾い上げることはマレで、平民にも門戸を開いているとはいえ、爵位がないだけの金持ちでないと入れないシステムになっている。

 アリサの場合、魔力だけでなく他の学力も優秀な特待生だ。本当は、もっとそのことを誇っていいと思う。

 彼女と友達になってから、特にそのことは思う。

 媚びたりへつらったりしないし、私と友達だからと誇ったりもしない。今までこんなに自然にいろんなことを話せる友達はいなかった。

 不思議な子だなあと思う。



 アリサに誘われて、図書館に行った日。突然殿下が現れた。

「ここ、一緒にいいかな、トラウ嬢?」

 突然の殿下の誘いに、アリサは戸惑った顔をした。それはそうだろうなあと思う。相手は皇太子なのだから。

「えっと、よろしいですか? エリザベスさま」

 アリサは私に確認する。

「ええ、どうぞ」

 私が頷くと、殿下はほっとしたような顔で私の前に座った。

 しばらく三人で勉強をしていたけれど、アリサは、部活を忘れていたと言って帰ってしまった。

 アリサが部活を忘れることなんて、あるとは思えない。

 そう言えば、アリサはお兄さまに私と殿下のことを頼まれていたって言っていた。

 ひょっとしたら、アリサは殿下と私をつなげようとしているのかもしれない。

 突然帰ってしまったアリサに、殿下も戸惑った様子を見せているから、三人で勉強しようって誘ったのかもしれない。

 その時は確信を持てなかったけれど、食事を三人で食べるようになってから、それは間違いないと思うようになった。

 アリサがいると、殿下と普通に話せることに気づく。今まではいろいろ気負い過ぎて、言葉が出てこなかったのだ。

 そして殿下が多弁な方だとは、今まで知らなかった。

 アリサが言うには、殿下はシャイなのだそうだ。

 その昔私が、殿下に反発していたせいもあるのかもしれない。

 三人で話すようになってから、私は今まで殿下を知ろうと思っていなかったことが分かった。私が知らないのだから、殿下が私のことを知らないのは当たり前だと思う。

 そして、一つずつ殿下のことを知るたび、私は殿下といることが楽しいと感じるようになった。

 殿下が優しく微笑むたび、胸がドキリと音を立てる。その微笑みが私に向いているのか、アリサに向いているのかはわからない。

 アリサ自身はいつも変わらず、自分からあまり殿下には話さない。殿下に対しての態度も、私への態度と変わらないように見える。

 殿下と少し話しただけで、舞い上がってしまう令嬢も多いのに。

 アリサって、心に秘めた人でもいるのかもしれない。

 そんなある日、お兄さまに呼び出されて、談話室に行くと、アリサとナーザント侯爵子息が一緒だった。

「あら。アリサも来ていたの?」

「こんばんは。エリザベスさま。お忙しいのにすみません」

 アリサはすまなそうに頭を下げる。

「それにしても珍しい取り合わせね。お兄さまとアリサと、ナーザントさんがいっしょなんて」

「まあな」

 お兄さまは頷いて、私に座るように言った。

「エリザベス。お前、最近皇太子と一緒に食事をしているって本当か?」

「ええ。そうなの。でもアリサと一緒よ」

 お兄さまは殿下と私の仲を心配していたから、そのことだろうか?

「殿下と何を話したらいいかいままでわからなかったのだけれど、アリサがいると話が弾むの」

「もともとお二人は気が合うのですよ」

 アリサが慌てたように口をはさむ。

 そうだと嬉しいけれど、アリサがいないと何を話したらいいのか本当にわからない時がある。

「アリサと話していると楽しいわ。お兄さまもそう思うでしょ?」

「ああ、まあ、そうだな」

 お兄さまは表情を隠すように頷いた。

 そのあと。

 ナーザントが私とアリサが友人だと信じられなかったという話をきかされた。そして、アリサと殿下の噂の話も聞いた。

「どんな噂かは想像はつくわ。でも仮に殿下がアリサと結婚したいというなら、私、それでもいいと思うの。アリサをマクゼガルド家の養女に迎えて、私の妹になってもらえば、形式的には問題ないし」

 半分は本音。半分は嘘。殿下がアリサを望んだら、とてもつらいけれど私はたぶん、祝福するだろう。

 その時、お兄さまの眉間にしわが寄った。アリサは気が付かなかったみたいだけれど。

「エリザベスさま、それはお許し下さい。殿下は勘弁……じゃなくて、えっと、そんな恐れ多いお話は冗談でもやめてください」

 アリサは、とんでもないと首を振る。

 その様子にホッとしたようにお兄さまの顔が笑顔に変わった。

 ああ、そうか。

 お兄さまは、きっとアリサのことが好きに違いない。

 だから、噂を一生懸命否定しようとしているのだ。

 ナーザントにチーズケーキをおごってもらうことにしたアリサに、お兄さまは不満げな目を向ける。

「ケーキが食べたいなら、一言言えばいいのに」

 不機嫌な声で呟くお兄さま。いつも令嬢に追いかけられているところしか見ていなかったからそういうイメージはなかったけれど。お兄さまって案外アリサにふりまわされっぱなしなのかもしれないと思ったら、少し笑えてしまった。

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