表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋する暇などありません!  作者: 秋月 忍
一学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/148

マクゼガルド家 2

 マクゼガルド家は公爵家の中でも格が高いと聞いてはいたけれど、門を入ってもお屋敷はなかなか見えなかった。庭園はとにかく広くて、美しく整備されている。帝都の一等地なのに、これだけの面積を有しているというだけで、その力を感じさせた。

 これだけの庭園を管理するのにかける労力を思う。神殿のそばの小さな畑を維持するのですら、かなり大変だった。

 やがて、白い石畳の向こうに、とてつもなく大きなお屋敷が見えてきた。白亜の石造りで、その美しさに圧倒されてしまう。

 思わずポカンと見惚れてしまった。

 やがて馬車は、屋敷のすぐそばで止まる。どうやら着いたということらしい。

 馬車の戸が開いたけれど、思ったより高さがあったので、うまく下りられずにデニスに抱き着いてしまった。すごく申し訳ない。

 デニスは平然とした顔で私を脇に置くと、エリザベスに手をのばした。

 エリザベスはさすがになれているらしく、優雅に下りる。

 ルークはデニスの手を借りずに下りる。さりげにすごいバランス感覚だ。

「ルークさま、エリザベスさま、お帰りなさいませ」

 玄関の前で待っていた初老の男性が深く頭を下げる。

「ただいま、ユアン。話していたアリサよ。アリサ、うちの全てを取り仕切っている家令のユアンね」

「お話はお伺いしております。トラウさま」

 ユアンは客人にするかのように、丁寧にあいさつをしてくれた。

「お世話になります。アリサ・トラウです。がんばって働きますのでよろしくお願いします」

 私が挨拶を返すと、ユアンの眉間に少しだけ皺が寄った。

「ルークさま」

 ユアンはルークに顔を向ける。怪訝そうな表情はもう消えていた。完璧なポーカーフェイスで何を考えているのかまったく読めない。

「だから、そう話しただろう?」

 ルークは肩をすくめた。

「詳しいことは後だ」

「……わかりました」

 ユアンは、しぶしぶ頷き、私たちを屋敷へと招き入れた。



 玄関を入ると、そこは大きな吹き抜けの空間があった。目の前には大きな階段がある。

 大きな花瓶に活けられた大輪の生花。けっして派手ではなく、落ち着いた趣味のよい調度品ばかりだ。

 玄関を入ってすぐのところに、大きなラウンジがあった。

 前世でいうところの高級ホテルみたいな感じ。床にはフカフカと絨毯が敷かれていて、高い位置にある窓から、外光が差し込んでいる。テーブルと椅子がいくつか置かれていて、ちょっとしたお客の場合は、ここで接待しているのかなと思った。

「まずは、お茶にしましょう」

 エリザベスにすすめられるままに、ゆったりとした椅子に腰かける。私とエリザベスが並んで座り、まえにルークが座る形だ。ユアンは、私たちが座ると奥の方に声をかけに行った。

 それにしてもとっても良い座り心地である。

 これは、人を駄目にするやつ。立ちたいという気持ちを消失してしまう、恐ろしい椅子だ。

「どうした?」

 椅子の感触を楽しんでいたら、ルークに不思議そうな顔をされた。

「すごく座り心地がいい椅子で、びっくりしてました」

 正直に答えると、「そうか」と、ルークは頷いた。

 やがてお仕着せを着た侍女さんが、こちらにやってきた。マクゼガルド家のお仕着せは、黒を基調としていて、白いフリルが入っているけれど、比較的年齢を選ばない落ち着いたデザインである。

 もちろん仕事服なので、動きやすさにも配慮しているのだろうけれど、おしゃれだ。やっぱり公爵家だけあって、お仕着せもセンスをかんじさせる。

「お待たせいたしました」

 優雅な仕草で、侍女さんがテーブルにお茶の入ったカップと、お菓子のお皿を置いてくれた。

 侍女さんは、すらりとして姿勢の良いひとで、年齢は二十代後半くらいだろうか。出来るメイドさんって感じだ。

「ありがとうございます」

 侍女さんに頭を下げると、侍女さんは不思議そうな顔をした。

 私、なにかやらかしたのだろうか。

「アリサ、いただきましょう?」

「はい。頂きます」

 エリザベスに促され、私は頷く。

 お皿にのっているのは、どうやら焼き立てのマフィン。カップに入っているのはハーブティだ。

「甘い香りがします」

 カップを手にすると濃厚な甘い香りがした。

「うちのオリジナルブレンドのハーブティよ。お砂糖は入ってないけれど、とても甘いの」

 エリザベスがにこやかに説明してくれた。

 ゆっくりと口にすると、ほんのりと甘い液体がのどを潤す。

「美味しいです!」

 思わず声が大きくなってしまって、私は急に恥ずかしくなって俯いた。

 誰も咎めるような顔はしなかったけれど、さすがにマナー違反だと思う。淑女は、大声を出したりしてはいけないのだ。

「こっちのマフィンも、シェフの自慢だぞ」

 ルークにすすめられ、マフィンもいただく。ふわふわの生地で、ほんのりオレンジのかおり。甘すぎず、品のある味だった。

「美味しいです。こんな美味しいもの、初めて食べました」

 誇張ではなく、本当のことだ。前世はともかく、学院に入るまでは『おやつ』なんてものは、せいぜいふかした芋とか、干した果物くらいだった。学院に入っても、スイーツは高くて、ほぼ食べていない。

「この後だが」

 ルークはコホンと咳払いをした。

「まず、部屋に荷物を置いたら、父に会わせる」

「こ、公爵さまにですか?」

 さすがに想定してなくて、顔がこわばってきた。

 お世話になるのだ。挨拶は当然である。それに、戦力にならない可能性はあるけれど、働かせていただくのだ。家主さまはいわば雇用主である。

「大丈夫よ。アリサ。お父さまも、アリサが来るのを楽しみにしていらっしゃったから」

 エリザベスは私を安心させようとしてくれている。

「私、お友達をこうして招待するのって初めてだから。うちの両親も私に友達が出来た事、とても喜んでくれたの」

「光栄です」

 本当に歓迎していただいているならいいのだけれど、ルークやエリザベスが言い出してしまったから、仕方なく了承したってパターンもある。

 二人の好意に甘えず、しっかり働き、迷惑をかけないようにしたい。

「心配するな。俺も一緒に行くから」

 ルークの目に優しい光が宿っている。

「とりあえず、そこはお兄さまにお譲りしますね」

 エリザベスはカップの湯気を顎に当てながら微笑む。

 つまり、エリザベスは行かないということなのだろう。

 そういえば、今回の話は私とルークとの話なのだ。エリザベスに招待されたとき、私は断っている。

「でも今日は私の誕生日ですから、アリサはすぐに返してくださいね」

 エリザベスはぷくっとほおを膨らませる。そんな顔も可愛い。

「エリザベスさま、あの、これ」

 私はカバンに入れてあった布の包みを机に置いた。

「たいしたものではないのですけれど、その、お守りに」

「まあ、何かしら」

 エリザベスは包みを丁寧に開いた。中には丸くて紫色のガラス玉のようなものが入っている。

「あら、魔玉ね」

「はい。学院の購買に売っている材料で私が魔力を込めたものです。お守りくらいにはなると思います」

 魔玉というのは、魔力を付与させた玉である。無色透明なガラス玉のような玉に、魔力を付与して作る。結界のための護り石を作る技術の簡略版だ。ちょっと森を歩いたりするときの魔物避け程度にはなる。込めるエレメントの種類によっては、攻撃系の魔術を一回だけ使えるというようなこともできるらしい。私たち一年生ではまだそこまで習っていなくて、せいぜいお守り程度のものしか作れない。

「ありがとう。すごく風の力を感じるわ。それにアメジストみたいに綺麗」

 エリザベスは嬉しそうに、玉を手に取って眺める。

「本当はもっと素敵なものをと思ったのですけれど、今年はこれでお許しくださいませ」

 学院の購買で買える玉なので粒も小さいし、質もよくない。しかも安物だ。

 もちろん魔力付与をすれば、それなりに価値はあがるとはいえ、所詮はただのお守りでしかない。

 公女であるエリザベスにとっては、ただの石ころと変わらないだろう。

「ううん。アリサ、これすごいわよ。ねえ、お兄さまもそう思うでしょ?」

 エリザベスは持っていた玉をルークに渡す。

 ルークはその玉を手に取ると、目が険しいほど鋭くなった。

「これはアリサ一人で、学院で売っている玉で作ったのか?」

「そうですが」

「エリザベス、ちょっとこの玉を借りる」

 ルークは玉を持って、立ち上がって走って行ってしまった。

 どうしたのだろう。

 私とエリザベスはどういう意味か分からず、お互い顔を見合わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ