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恋する暇などありません!  作者: 秋月 忍
一学期

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真実の愛 3

 ルークの食事が終わると、ナーザントと共に私も、グレイとエリザベスに話を聞きに行くことになった。

 私が行く必要はない気がするのだけれど、ナーザント的には私を逃がしたくないみたいだ。

 つまり、彼は私がルークを味方につけている事実に、口では言い負けているけれど、私への疑いの念を捨てきれていないのだろう。

 考えてみれば、もし変な噂になるなら、グレイとではなく、ルークの方だ。部活ではつねに構ってくれるし、買い物にも一緒に行ったし。私からちょっかいをかけたことはないけれど、油断するとときめいてしまう。恋に落ちないように自制していても、ドキリとすることはしょっちゅうである。

 もっとも、それは私の方が勝手に思っているだけで、ルークにその気はないのだろうけれど。

 だから、妬まれることはあっても、噂にはならない。

 とはいえ、グレイと私に至っては、どちらの気持ちもないわけで、しかも必ずエリザベスが一緒なのになぜとは思う。これは原作の強制力ってやつなのだろうか。強制力で噂って生まれるものなのか分からないけれど。

 ファーストエリアに来たのはこれで二度目だけれど、寮に来たのは初めてだ。

 寮の区画は、男性と女性に分かれているのは、どのエリアも一緒だけれど、ファーストエリアは一階に談話室なるものが用意されている。

 ファーストエリアの住人はみな重要人物ばかりなので、来客も多い。さらに、住人同士の交流をかねたお茶会も頻繁に行われているそうだ。世界が違う。

 一階にはコンシェルジュがいて、住人たちの要望を聞いたり、客人の応対などもする。

 ルークはコンシェルジュにグレイとエリザベスとの面談ができるように頼んだ。

 夕食の後だから、かなり遅い時間である。グレイは入浴中でしばらくかかるという話だった。

 エリザベスは、ちょうど食事を終えたあとだったらしく、すぐに一階に降りてきた。

 仲の良い兄妹だから、たまにこうして話をすることがあるらしい。

 談話室は、フカフカのソファーとテーブルが置かれていて、私としてはすごく場違いな気持ちだ。

「あら。アリサも来ていたの?」

 入ってきたエリザベスは、私の顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。

「こんばんは。エリザベスさま。お忙しいのにすみません」

「それにしても珍しい取り合わせね。お兄さまとアリサと、ナーザントさんがいっしょなんて」

「まあな」

 ルークは頷いて、エリザベスにソファに座るように促した。

 ルークとナーザントが並んで座り、私とエリザベスが並ぶという並び方。

 本当なら、男女の組み合わせで座った方が、男性側はゆったりと座れたのだろうけれど、婚約者のいるエリザベスの隣にナーザントが座るわけにはいかない。

 ナーザントは私を悪女だと思っているから、当然私と座りたくはないだろうから、これは仕方のないことなのだ。

 それにしてもナーザントはエリザベスが入って来てから、会釈はしたけれど、ほぼ言葉を発していない。そして、徐々に顔が青ざめていっている。

「エリザベス。お前、最近皇太子と一緒に食事をしているって本当か?」

 さりげなく、ルークが話を切り出す。

「ええ。そうなの。でもアリサと一緒よ」

 くすり、とエリザベスは笑う。

「殿下と何を話したらいいかいままでわからなかったのだけれど、アリサがいると話が弾むの」

「もともとお二人は気が合うのですよ」

 私は首を振る。私が何かしているというより、私を呼び水に二人が会話している印象がある。

「アリサと話していると楽しいわ。お兄さまもそう思うでしょ?」

「ああ、まあ、そうだな」

 ルークが曖昧に頷く。

「それで、今日は何のご用ですか、お兄さま?」

「いやレイノルドが、アリサとお前が友人かどうか確認したいというのでな」

 ナーザントがぶるぶると震えはじめる。

 顔は真っ青になっていて、今にも逃げ出しそうだ。

 エリザベスの表情が急に険しくなった。

「ナーザントさん」

 冷ややかなエリザベスの声に、ナーザントの方がびくりと動く。

「アリサは私の大切な友人ですわ。私が友人になりたいと願ったのです」

「……申し訳ございません」

 ナーザントは深く頭を下げた。声が震えている。

「その、悪い噂を真に受けてしまいまして」

 顔を上げられないらしく、ナーザントは下を向いたまま答える。

「トラウ嬢が、殿下に取り入っているという話がありまして」

「あら、取り入っているのは、私と殿下のほうよ」

 くすりとエリザベスは笑う。笑うけれど目が笑ってない。見ていて怖い。怒ってくれるのはとても嬉しいけれど、ちょっとナーザントが気の毒に思えた。

「どんな噂かは想像はつくわ。でも仮に殿下がアリサと結婚したいというなら、私、それでもいいと思うの。アリサをマクゼガルド家の養女に迎えて、私の妹になってもらえば、形式的には問題ないし」

「エリザベスさま、それはお許し下さい。殿下は勘弁……じゃなくて、えっと、そんな恐れ多いお話は冗談でもやめてください」

 思わず私はぶんぶん頭を振る。

 ルークとエリザベスが同時に笑い始めた。

 ナーザントは何とか顔を上げたけれど相変わらず顔色は悪い。

「ナーザントさん、おわかりになりまして? アリサは権力に擦り寄る子ではありません。何といっても、アリサは、私が兄にダンスを教えてもらったら? と提案した時、断ったのですよ? そんな女性は今まで初めてでしたわ」

「ダンス?」

 ルークの片眉が器用に上がった。いや、今、そこに反応しなくていいと思う。

「ナーザントさま、とりあえず、私がエリザベスさまの友人というのは信じていただけましたか?」

 ナーザントは青ざめた顔のままこくりと頷く。

「レイノルド、エリザベスとアリサが友人だということを知らなかったこと、信じられなかったことは理解できる。それから、一番身分の低いアリサの言い分が皆の話と矛盾しているから、それを全否定したことも、心情的には理解できる。そのほうが『楽』だからな」

 ルークが畳みかける。ちょっと容赦がなさすぎる気がして、ナーザントが気の毒になった。

「すまない。本当にすまない」

 ナーザントは私に向かって頭を下げた。

「もういいです。信じてくださったならそれで」

「アリサはそれでいいの?」

 エリザベスが心配そうに私を見る。

「エリザベスさまに友人だと言っていただけただけで、私は幸せです」

 それに。私はそっとルークの方を見る。ルークが助けに来てくれなかったら、自分はこの学院にいることに絶望してしまったかもしれない。何を言っても信じてもらえないことが、どれほど辛い事か知らなかった。

「アリサは本当に欲のない子ね。そういう時は、慰謝料として宝石の一つもねだるべきなのよ?」

「宝石?! い、いただけません」

 さすがに驚く。いや、たかがそれくらいで、そんなもの貰えない。

「いや、もしそれで許していただけるなら、なにか贈らせてください」

 ナーザントは真面目なのだろう。たぶん何かおねだりした方が、彼の罪の意識は軽くなるのかもしれない。こういう時は、消えものをもらうに限る。あとに残るものだと、いろいろ問題があるだろう。誤解のお詫びで、誤解されたらシャレにならない。

「えっと。じゃあ、ファーストエリアのカフェで、チーズケーキをおごってください」

「チーズケーキ?」

 ナーザントが首をかしげる。

「はい。私はサードエリアなので、実費を払わないといけないんです。さすがにB定食と同じ値段のものなので、ちょっと手が出ないのです」

「それくらいなら、明日にでも」

 ナーザントがホッとしたように頷く。うん良かった。手頃なものがあって。

 嫌な思いはしたけれど、これ以上ナーザントを責めてもしかたがない。

 ルークが不機嫌に何か呟いたけれど、何を言ったのかわからなかった。



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