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恋する暇などありません!  作者: 秋月 忍
一学期

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エリザベスと昼食

 翌日。また、二人の観察を始める。

 朝の挨拶は交わすも、それ以上の会話はなし。

 ちょっと席が遠いから、表情の微妙な変化まではよくわからないからなんともいえないけれど、パッと見、全くラブラブ要素はなし。

 学校では、そういう態度を避けている可能性もあるから、絶対にないとは言い切れないんだけれど、やっぱり絶賛、すれ違い中なのだろうか。

 それとも、原作と違って、お互い全く意識していない可能性もないわけではない。

 だって、そもそも、私は原作のアリサと違う道を歩いているのだから。いや、自分がそう思っているだけで、転落人生の一歩手前まで来ている可能性は捨てきれないけれど。

 やっぱり殿下に突撃しないといけないのだろうか。

 いや、殿下よりまず、エリザベスの気持ちを確かめた方がいいのかもしれない。

 エリザベスが皇太子のことを好きなら、その背中を押してあげたいけれど、そうじゃないなら、ルークの言うとおり、婚約破棄してもらえるならその方がいいと思う。

 どうやって、エリザベスに聞けばいいのだろう。いや、もうそれこそ、妹なんだから、ルークが直接聞けばいいんじゃないの? 二人がうまく行っている以前に、エリザベスの気持ちがどうなのか聞いてあげて欲しい。エリザベスが嫌ならやめるべきだし、好きって言うなら、現在あまりうまくいっていなくても、そのままでいいような気がする。

 数式を解きながら、だんだんイライラしてきた。

 遠くから観察して、わかることはもう何もないと思う。これ以上というならば、本人に確かめるしかない。

 特待生なら、貴族にアピールに行ってもそれほど嫌がられないって、ルークが言った言葉を信じよう。

 でも、あれ、嫡子ならって言ってたから、男性限定なのかな。

 ただ、これまでの感じからして、エリザベスは私にそれほど悪印象は持っていないように思う。

 それを信じてみるしかない。その後で嫌われたら絶対にルークのせいだ。

 そう思うと腹が立つのだけれど、ルークのためというより、やっぱりエリザベスには幸せになってもらいたい。

 昼休み。

 私は廊下に出るエリザベスの後を追った。完全にストーカー状態である。

 意外なことに、エリザベスは一人で食堂に入っていく。エリザベスなら取り巻きがいても全然おかしくないのに。それとも食堂で待ち合わせでもしているのかと思いながら、C定食を頼む。

 エリザベスは、定食のトレイをもって、外のテラスの方へと歩いていく。

 どうしようかと迷ったが、一人なら話しかけるチャンスだし、待ち合わせなら誰と待ち合わせなのか気になる。

 私は思い切って後についていく。怪しいなと、自分でも思うけれど、仕方ない。

 今日は日差しが強いので、テラスに出てくる令嬢は少ないようだ。女性の日焼けは下々の人間がすることだと嫌われている。この世界には高性能なUVカットの日焼け止めクリームなんかはないので、日差しに当たらないことこそが一番の日焼け防止なのである。

 エリザベスは、テラス席でも一番目立たない食堂から遠い位置のテーブルを選んだ。

 他に人はいない。ひょっとして、誰かとの逢瀬? いや、そんなはずはないと思う。

 エリザベスは真面目な人だから、婚約者がいるのに他の男性と情を交わすことはないはずだ。

「あの、ご一緒させていただいてもよろしいですか?」

 私は勇気を出して、エリザベスに声を掛ける。

「え? あら、トラウさん」

 エリザベスは驚いた顔をした。

「どうぞ。構わないわ」

「ありがとうございます」

 許可をもらえたので、お礼を言ってから席に着く。

 エリザベスはB定食にデザート。兄妹で甘いものが好きなのかな。

 そして、所作がとても美しい。ついうっとりと見惚れてしまう。

 B定食とC定食の今日の違いは、メイン料理。C定食が魚料理でB定食が肉料理になっている。

「あの、日光が当たりますけれど、大丈夫なのですか?」

「たまには日光に当たらないと、身体に悪いって主治医に言われているの」

 にこりとエリザベスは笑う。

 確かに、ある程度は日に当たらないと骨が弱くなるのは事実だけれど。

「私、小さい時は結構虚弱だったのね。だから健康には気を付けないと」

 そう言えば原作でも、幼少期は頻繁に熱を出していたってエピソードがあったような気がする。

「私はともかく、トラウさんは日焼けを気にしないの?」

 エリザベスが首をかしげる。

「私は昔から真っ黒になっていましたので、今さらな気がします」

 神殿にいたころは、外で薪割りもしたし、畑仕事の手伝いもしていた。ようするに下々の子供なのだから、日焼けは当然だ。

「トラウさんは、どちらの出身なの?」

「え、えっと。ヴァンの港町です」

 私は答える。実際に生まれたのは、そこからだいぶ離れた山里らしいんだけれど、育ててくれた神殿はヴァンという小さな港町にあった。風の神オーフェは漁師たちの神だ。

「まあ。ヴァンといえば、美味しい魚介よね」

「はい。よくご存じですね。小さな港町ですのに」

 ヴァンは帝都からかなり離れていて、漁業の他には何もないような港町だ。

 氷の魔術が発達しているからこそ、帝都に品物をおろせるけれど。

 ただ、ヴァンの港で上がる水産物は、他の地域にないものが上がるのだ。ここの人々はあまり理解していないけれど、近海の海が深いので深海魚がとれるのかなって思っている。

「あら。でも宮廷でもわざわざヴァンの魚を買うって聞いているわ。帝妃さまが、魚介が大好きらしいの」

「光栄です」

 地元を褒められるって、やっぱり嬉しい。

「お兄さまもお魚が好きなの。うちでもよく食べるわ」

「そうなのですか」

 そういえば、C定食は魚介料理が多い。ルークが見るたびにC定食を食べているのは、それが原因なのかもしれない。

「ヴァンは何もないところですが、魚介だけは自慢です。もっとも、私は神殿育ちで、港の仕事はしたことはないんですけれど」

「神殿?」

 エリザベスが首をかしげる。

「はい。風の神オーフェの神殿で育ててもらったんです」

「まあ。だから、風の加護があるのね」

 くすりとエリザベスが笑んだ。

「トラウさんは面白いのね。あなたみたいな人、はじめて」

 エリザベスは育ちがいいからはっきり言わないけれど、おそらく変わった人って感じているのかもしれない。

「私に寄ってくる人は、おべっかしか言わなくて、最近面倒になってきたの」

「それで、おひとりでこのようなところに?」

「そうなの。まさかあなたが話しかけてくれるとは思ってなかったわ」

 エリザベスは言いながら、美しい仕草で、パンを口に運ぶ。

「あの。私、マクゼガルド公子さまと同じ部活になりまして」

 ここまで来たら、全部きちんと話した方が話が早そうだ。

「公子さまは、あなたさまのことをご心配なさっておられて。その……ご婚約のことで」

「お兄さまが?」

「はい。公子さまは政略結婚とはいえ、マクゼガルドさまが本当に嫌なら、婚約を破棄させた方がいいのではないかとお考えで。それで教室の様子などを知らせてほしいとのご依頼を賜りました」

 一気に話して、エリザベスの顔を見る。その瞳は少しせつない光を帯びていた。

「……私は、嫌ではないわ」

 ぽつり、とエリザベスは口を開く。

「たぶん、嫌なのはグレイさま、皇太子殿下の方だと思うの」

 哀しそうに目を伏せる。

「殿下はこの私の吊り目が大嫌いみたい」

 エリザベスは大きくため息をついた。

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