護衛
目を覚ましたアリサにほっとしたものの、結局何も話せないまま、俺は仕事に忙殺された。
パズスを召喚した犯人探しや、後始末のほかに、日常に戻るための文化祭の準備などに追われ、二人で話す機会がなかった。それに、悪意はないにせよ、ナーザント家の徹底したガードもあって、完全に面会謝絶だ。
ついこの前まで毎日のように会っていたのに。
ただ、このまま学院の結界を破り、パズスを呼び寄せた輩を放置しておけば、またアリサが狙われる可能性が高い。
幸いというべきか、皇太子であるグレイが積極的に動いているおかげで、学院内に軍や魔術省の捜査官の調査が早期に行われている。
学院としても、皇族をはじめとする貴族の子供を預かっているのだから、早く事件を解明したいのだろう。
文化祭当日はアリサに護衛をつけるとグレイが言い出した。
エリザベスには護衛がいつもついているが、アリサはそうじゃない。
「だったら、俺が」
「生徒会長のルークは仕事がたくさんあるだろう?」
そう言われるとその通りだ。
「だったら私が」
「レイノルドも仕事があるからダメ。シリウス・ペンターをつけようと思う」
「シリウスですか?」
確かにペンター将軍の息子である彼の剣の腕はかなりなものだ。
レイノルドより強いとは思わないが、将来的には軍で出世すると思われる。
「まあ、腕は問題ないかと思います。それに彼なら、アリサと一緒にいてもそれほど目立たないでしょう」
「本当に目立たないと思うか?」
レイノルドの言葉に、俺は疑念を抱く。
シリウスは、かなり高身長で俺やレイノルドより、背が高い。
体格もがっちりしていて、どこにいても頭が一つ上の状態だ。
「ルークと一緒に歩くよりは、よほど目立たないさ」
グレイが苦笑する。
「それに、ペンターの体格は抑止力になる」
「それは……そうかもしれないが」
正直言って、面白くない。
今年の文化祭は、俺にとって最後になる。俺だって、アリサと一緒に文化祭を回ってみたい。
ただ、現実問題として、それはかなわないだろう。
今回は単純な文化祭運営ではない。厳重な警備のもと、それこそもう二度と結界を破られることなどないように気を配らなければいけない。
もちろん、学院の警備は学院の仕事ではあるが、正直に言えば、学院よりもグレイの方がよほど実行力を持っている。
俺もレイノルドも、将来はグレイの側近と目されていて、事実そうなるべく研鑽を積んできた。
「悪いが、他に代案はない。聞き分けろ、ルーク」
少しだけ意地の悪い笑みをグレイは浮かべる。
「別にごねてはいません」
俺は思わず言い返す。
「物は愛を語らない。愛を伝えるかもしれないが、それはあくまでも言葉が先に伝わってこそだと、トラウ嬢は言っていた」
「どういう意味ですか?」
「伝えたい気持ちは、言葉にしなければいけないと言うことだよ、ルーク」
「……殿下」
それは、たぶんグレイ自身がエリザベスとの関係性の中で感じたことなのだろう。
グレイに言われたくないとは思うものの、肝心な一言が言えない時点で、俺も言葉が足りない。
アリサの許可もないうちに、囲い込もうとしたりする自分は、卑怯だ。
「近いうちに、時間は作る。それまでにきちんと覚悟を決めておけ。そうでないなら、私もトラウ嬢の友人として、考えがあるから」
グレイはまるで俺を脅すようにそう言った。




