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恋する暇などありません!  作者: 秋月 忍
ルーク編

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伝えたいこと

 体育祭の日。

 剣術トーナメントの三位決定戦が始まる直前、大地がぐらり揺れた。

 いやな感じだ。

 レイノルドと一緒に控室から出ると、教師に会場から出ないようにと指示される。

 どうやら、学院の結界が破られたらしい。

 とりあえず観客席の皇妃たちのもとへ行こうとしたその時だった。

 上空に魔物の姿が見えた。

 そいつは、貴賓席にむかって降りてきた。

 熱風が吹く。

 その時、俺の頭の中に、使役精霊のリゲルからのビジョンが映し出された。

「アリサ!」

 アリサを連れ去ろうとする魔物に、リゲルが食らいつく。

 リゲルの攻撃で、アリサの体が魔物と一緒に地面に転がり落ちた。

 観客席の入り口までいくと、魔物のもたらす風のせいか、チリチリと肌が焼けるように痛む。目が熱すぎて開けられない。

「氷雪!」

 アリサの様子が気になったが、それよりもまずこの状況を何とかしなければいけない。

 氷の魔術に冷やされ、視野がクリアになると、肩から血を流しているアリサが目に入った。

 エリザベスが泣きながら、アリサを抱えている。

「エリザベス、アリサを!」

「わかりました」

 エリザベスはアリサを抱えながら、俺の後ろに隠れる。

 魔物は腹にかみついているリゲルをふりほどいて舞い上がる。

 そして、俺を無視して、俺の後方へ向かって、熱風を吹かせた。

 あまりの熱さに、エリザベスたちの警護にまわった兵士たちから、悲鳴が上がる。

 この状況で、狙われているのは、アリサなのかエリザベスなのかは判別できないけれど、この魔物は明らかに使役されている。

 魔物というのは、本来なら、目の前の俺を無視したりはしない。

「氷結!」

 目の前の俺を無視して後方へと向かおうとする魔物の羽にむかって、一か八か、氷の呪文をぶつけた。

 熱を操る魔物のため、効くかどうかは賭けだったが、魔物の羽は凍り、大地にたたき落とすことができた。

「氷の剣だ! 奴は明らかに氷に弱い」

 剣を手にしたレイノルドに、俺は告げる。

 レイノルドと、衛兵隊が剣に魔術を乗せて、魔物に立ち向かう。

 ここにいる中で、おそらく氷の魔術に一番適性があるのは、俺だ。

 俺のすべきことは、剣で持って戦うことではない。

 熱風に対抗し、さらに奴に氷の魔術で攻撃することだ。

 俺は氷系の攻撃魔術のなかで、最強の魔術を唱える。詠唱に時間がかかるが、それくらいの時なら、レイノルドたちが稼いでくれるはずだ。

「氷の嵐!」

 あたりにブリザードが吹き荒れ、荒れ狂う氷のつぶてを魔物に向ける。

 魔物の動きが鈍くなった隙をついて、レイノルドたちが魔物をしとめた。

 全てが終わると、切り裂かれた魔物の躯に、氷が降り積もっていた。



 アリサの傷はそこまで深かったわけではないが、魔物──パズスにやられただけに、闇の毒が体内に入った。

 エリザベスがすぐに浄化の術を使わなかったら、命も危うかっただろう。

 ただ、毒は浄化できたものの、傷そのものは癒えておらず、パズスの熱風のためか、高熱が出た。

 エリザベスの命の恩人で、ナーザント侯爵家の養女ということもあり、治療は誰よりも最優先に行われた。

 もっとも、今回のことでの負傷者の中で、アリサが一番重症だったと言うのもある。

「本当は私がついていたいけれど、仕事がありますから、お兄さまに譲ってあげます。ただし、あとでゆっくりお話をきかせてもらいますからね」

 エリザベスは、パズスの毒の浄化しなければいけない。医師もアリサの傷を縫い終わると、他の負傷者の手当てにいった。結果として、アリサの看病は、俺とレイノルドがすることになった。

 おそらく、エリザベスの聞きたいお話というのは、使役精霊のことだろう。

 あれだけ目立つ場面で、しかもエリザベスの見ているところで必要になるのは、完全に予定外だった。

 使役精霊をアリサにつけた意味はあったけれど、見る人間が見れば、あれは俺が作ったことはまるわかりだ。

 アリサが使役精霊についてよく知らないことをいいことに、何も言わずに渡したこと、そしてエリザベスに相談もしなかったことについて怒っているのだろう。

 その気になれば、エリザベスの相談役だと皇室に提出すれば、慣習とは違ったと言うことを堂々と説明できる。プロポーズの意味を分かって受け取ったわけでないアリサなのだから、当然、手続きを取っておくべきだった。

 だけど。

 俺はしたくなかった。

 父上は、あの段階で、アリサを養女にすることも考えていたらしい。義兄であれば、使役精霊で義理の妹を守っても問題ない。エリザベスが皇室に嫁いだあとも、マクゼガルド家の名があれば、アリサが宮廷に行くこともできる。

 ただ、アリサは、ナーザント侯爵家の養女になった。

 アリサが平民のままだったなら、かえって、言い訳もできたかもしれない。

 なんにせよ、エリザベスが怒って当然だ。

 熱に浮かされるアリサを見つめる。

 顔は赤く、息が苦しそうだ。氷の魔術で冷やし続けているのに、一向に熱が下がらない。

「きちんと話したいことがあるから」

 額に浮かぶ汗を拭きながら、俺は呟く。

 すべてを話したら、アリサは俺を軽蔑するかもしれない──でも。それでもいいから、目を開けてほしいと、俺は神に祈り続けた。

 


 

 

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