文化祭
休日が終わり、私もようやく床上げを許された。
とはいえ、まだ本調子ではなく、体を動かしてはいけないとか、いろいろ制限をつけられている。
いや、まあ、確かに、まだいろいろ痛いし、体力も完全に戻って来たって感じではないから仕方ないのだけれど。
それから、私が狙われている可能性が高いということで、絶対に一人になっては駄目って言われている。
今まで、エリザベスと一緒の時以外は、単独行動が多かった私としては、行動制限されている感が強い。
「オーダー入りました。クッキー三つ、ハーブティ三つ、お願いします」
私は声を上げる。
うちのクラスは喫茶店だけれど、いわゆるセミセルフ方式。
入口でオーダーを取ってしまい、番号札を渡す。
お茶を入れたら、それを席まで担当の生徒が運ぶ。
本当は私は裏方で、走り回る予定だったのだけれど、もろもろの事情のため、受付の席に座って作業をすることになった。
体力的な問題もあるけれど、一番は、どこにいるかわからなくなっていはいけないというグレイの配慮だ。
私が特別扱いされては、皆が不満に思うのではないかと危惧をしたけれど、私はエリザベスをかばい、大怪我をしたということで、『皇室』が配慮しているということになっているらしい。
しかもそのせいで、必要以上に注目を浴びてしまったらしく、すごく視線を感じる。
もっとも、グレイとエリザベスがすごく気を回してくれるので、人に絡まれることはないけれど。
「トラウ嬢、そろそろ休憩してくれてかまわないよ」
声をかけてくれたのは、ケルトン。
「はい」
私は頷いたけれど、とにかく一人で出かけるなと言われている。
そういえば、そろそろ部活の方に顔を出さないといけない時間だ。
怪我をしたことはみんな知っているけれど、特に時間調整とか打ち合わせていない。
私がいないと困るというほどではないけれど、できれば部活に顔を出したいとは思う。
「あ、トラウ嬢、ちょっと」
グレイに呼ばれて、そちらに行くと、そこにいたのは、シリウス・ペンターだった。
「ずっとここにいても窮屈だろう? ペンターと一緒に回ってくるといいよ」
「え?」
「ルークもレイノルドも生徒会で忙しいから、君につけてあげられない。露骨に部外者の護衛がつくよりは、気楽だと思うから」
グレイがにこやかに笑う。
シリウス・ペンターはペンター将軍の息子で、騎士として期待されている。学院の学生だから目立たないし、腕も良いのだから護衛としてはうってつけってことなのかも。
「でも、ペンターさまにご迷惑では?」
もちろん、グレイが命じるなら、ペンターに拒否権はないのだろうけれど、せっかくの文化祭にお仕事をさせるなんて申し訳ない。
「いえ。オレは全然かまいません」
ぶんぶんとペンターが首を振る。
「あの、でしたら、歴史研究部の方へ送っていただけますか?」
「送るも何も、今日は一日、ご一緒しますよ」
ペンターが微笑する。
私たちはクラスを出て、部活棟の方へと向かう。
人通りが多いので、ペンターの目が油断なく周囲に向けられているのを感じる。
「本当に申し訳ございません」
「いえ。オレのほうこそ、マクゼガルド公子でなくて、申し訳ないです」
ペンターが頭をかいた。そういえば、この人、私とルークのことをものすごく誤解していたように思う。
「あの、ルークさまと私、なんでもありませんよ?」
「わかっております。そういうことにしておくってことですよね?」
ほんの少しだけ、ペンターは口の端を上げる。いや、それ、勘違いしているって。
「でも、あなたみたいな美しい女性と歩けるなんて、プチデートみたいで、得した気分です」
「プチデート?」
おそらく、貴族特有のサービストークだと思うけれど、さすがに恥ずかしくなる。
「私、そういう貴族の挨拶みたいな言葉、慣れていないので……」
「え? オレ、別にお世辞を言っているわけではないですよ?」
ペンターは首を振る。
「ああ、でも、そういう反応されると、可愛すぎるかも。なるほどなー。それで、公子さまもころっと」
「──いってないですよ?」
ペンターは自説を曲げる気は毛頭ないらしい。
困ったな。ルークに申し訳ないから、誤解は解いておきたいのに。
「そうかなあ。でもさ、あの使役精霊、君のだよね? 隠したって無駄だよ? オレ、目が良いんだ。ということは、そういうことだよね」
ペンターはにこりと微笑む。
どういうことがそういうことなのか、私にわかるように説明してほしかった。




