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風をよぶ君〜国を継ぎし双璧の皇子〜  作者: 栗木麻衣
漆 兄弟の絆と神々の誓約
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7:霊幸十二神の反対

『ならぬ。そもそも、子珞が生きているのにアカバナーの儀を行う意味が分からぬ』


 白香神はくこうしんの不機嫌な声が聞こえた。それに呼応するように、聞き覚えのある声が聞こえる。


『ぼくも白香神に賛成だね。子珞は白香神はくこうしん神力セヂにも負けていない精神力を持っているし、民のことも考えている。わざわざ、危険を冒してまで、アカバナーの儀を行うのは賛成しかねるな』


 生や土の神 樽毘神たるびしんがまるで白香神はくこうしんと同じ意見なのが嫌であるかのように、そっけなく言った。


『まぁまぁ、当事者の言葉も聞くべきじゃありませんこと? ねぇ、峯媛神ほうえんしん?』

 最初に聞いた声の神が他の神の意見も聞く。すると、子穂の後ろに立っていた少女神は呆れたように答えた。


『運命の神 丹生凛神にゅうりんしんのお言葉にこの豊穣の神 峯媛ほうえんが逆らえないわ。子孝、子珞、あんたたちだけ顔を上げなさい。あんたたちの父親の憑き神のこの峯媛神ほうえんしんが命ずるわ』


 子穂の憑き神である豊穣の神 峯媛神ほうえんしんの言葉に、二人は最高礼を解き、顔を上げた。


『なんでアカバナーの儀をしたいと思ったのか聞かせてもらえるかしら?』

 頭が青蛇の知恵の女神 慶蛍照神けいけいしょうしんが子孝と珞に問う。


「恐れながら申し上げます。私は内政から、この国を支えていきたいと思いました」

『それもあるけど、本音は違うだろう? 好いた娘が異母弟に取られるのが嫌なんだろう?』


 花の神で見た目も華やかな華美神かびしんが言った。それを炎を身にまとった炎の神 斗悉炎神としつえんじんが遮る。


『そんなことはどうでもよい。この儀式において負担が最も重いのは兄のほうなのだからな。知らずとも、生半可な覚悟ではあるまい』

『弟くんにも聞いておきましょうか。なぜ、自分にしか与えられない資格である“国継ぎの皇子”の立場を捨てたいと思ったのか』


 白澪では見られない珍妙な着物や頭に被り物をし、手には棒を持っている初老の神が言った。空の神 燕穹神えんきゅうしんである。


 珞は生唾を飲み込んだ。自分の想いを詰め込んで、許しを請いたい。これは自分の我儘がほとんどであるのだから、と胸に刻み込む。


「俺は翠と共に、国を民と共に守っていきたいと思いました。俺は内政からじゃない。内政は兄上の方が圧倒的に向いていると思います。そして、俺はグスクに縛り付けられず、自由に海の波のように生きていきたいのです。俺は剣奴にも、医務官にもなったけれど、民と共に生きるほうが良いのです」


『わたしはこの子の言っていることに嘘はないと考えています。幼い頃は“国継ぎの皇子”に執着していたけれど、色々な人と関わっていく間に考えが変わったようです。短い間だけれど共に過ごした冥蓬神は同じように思っているんじゃない?』


 風の神 翼羅衣神よくらいしんは自身の獅子シーサーの前足で翼を撫でつけながら、子珞の言葉に賛成を示した。そして、翼羅衣神から声をかけられたのは、黒緑色の髪を持つ女神であった。その姿はついこの前まで、珞や文修と共にいた彼女に似ていた。


「緋澄師?」


 珞のその質問には答えずに、冥蓬神はただ淡々と答えた。


『ワシは子孝にも“国継ぎの皇子”の資格はあると考える。この子らは父親が受けた呪いの痕を残した皇子たちだ。子珞はもちろん正式な“国継ぎの皇子”であることには変わりない。しかしながら、このままグスクで内政をさせるというのは、子珞の良さを殺してしまうように思う』


『ならば、従来のアカバナーの儀を半分にすればよいのでは?』

 冥蓬神の言葉を聞いていた芸術の神 吹芽神ほうがしんは言った。


『別に全部を兄の方に移譲する必要はないのですよ。二人の利害関係が一致しており、兄弟の絆が無二のものであれば、できない話ではないと思いませんか?――澪蕭神れいしょうしん?』


 吹芽神ほうがしんの言葉に、子孝と珞は勢いよく澪蕭神れいしょうしんの方を向いた。白澪国の国神、澪蕭神れいしょうしんはじっと二人の様子を見ていた。


『君たちはなぜ、“国継ぎの皇子”が国王になるのか知っているのかな?』

「いいえ……」

「私も知りません」

『そうか』


 澪蕭神れいしょうしんは一度黙ると、しばし考え込んだ。


『白澪国の前にあった統一王朝の琉城王国の時代には我々は造られていなかった。それまでは祖神弁財天様のみが祀られていたんだ。だけれど、琉城王国が滅び、十五年の三山時代という混沌の時代が生まれた。神にとっての十五年は短いが、民にとっての十五年は国が荒廃するのには十分だった。そこで祖神弁財天様が国を保護するために我々、霊幸りょうこう十二神を生み出した。人が神となり、国を保護するためにね。本当は最初の国王だけのつもりだったんだ。


 最初の国王、澪子凌れいしりょうは私が憑き神となった。異母兄の澪子柳れいしりゅうは彼の影として、異母弟の王に一生を捧げた。彼らは三山の一山、南山の按司だった。本来であれば、兄の子柳が跡目を継ぐはずだった。しかし、子凌が成人になる際に祖神弁財天様が彼らの父親に、子凌が国を統一することを夢見で予言した。そして、澪子凌は死ぬ間際、我々と命を代償とした誓約を結んだ。今後白澪国が続く限り十二神の誰かが憑き神として、国を護るに値する者に憑くことを。これが“国継ぎの皇子”の始まりだ。だけどね……』


 澪蕭神れいしょうしんはそこで一旦言葉を切ると、白香神はくこうしんの方を見た。白香神はくこうしんはちらりと澪蕭神れいしょうしんを見ると、嘆息した。そして、澪蕭神れいしょうしんの言葉の先を紡ぐ。


『神々にはその順列に対して膨大な神力セヂが与えられている。だが、その中でも闇の力の強い我が神力セヂは、私を憑き神にした者の体を蝕んだ。そして、死していくこととなった。そこで、同じ御代に二人の“国継ぎの皇子”を生み出すことを考えたのが禁術“アカバナーの儀”だ。


 私と兄弟神である澪蕭神れいしょうしんを入れ替え、もう一人の皇子に澪蕭神れいしょうしんを強制的に憑かせる。その際、死人の皇子の両目玉をくり抜き、新たな“国継ぎの皇子”の目玉と入れ替える。それだけではない。元々憑き神でなかった体に神を憑かせるというのは、体にそれ相応の負担を与える。命が縮まるかもしれない。国が危険に曝されるかもしれない。そのような危険な儀式なのだ。それでもそなたたちはやるというのか?』

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