表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風をよぶ君〜国を継ぎし双璧の皇子〜  作者: 栗木麻衣
陸 二人の皇子(4)医務官と少年
57/69

14:医務官任用試験《医務官科》

 初夏の終わりに行われる医務官科いむかんこうに向けて、文修は主に診療を行い、緋澄がいるうえでの投薬も行った。対して、珞は港町に行き、海人相手に傷の縫合を行ったり、緋澄について刺青の入れ方や除去方法を学んだりした。


 刺青のことについてはそれぞれの外科医学専門の医務官や民草医の秘匿とされており、行う場合も患者には眠ってもらった状態で実施された。刺青を入れるのは神の加護を与える行為である。そのため、刺青を入れるときは神力セヂを利用し、刺青を取るときは神力を抜く。神力の量は人によりけりである。神力をより高めるため、外科医学専門の医務官は他専門の医務官と比べ、早々に民草医に転向し、白澪国の各地にあるという七御嶽や十二守護地へ参拝しに行く。


 試験内容に刺青の処置が出ることはほとんどないとの話を緋澄から聞き、珞は安心した。実技もなく、筆記試験と口頭試験のみであるという。



「「緋澄師、香月師、いってきます!」」


 蒼穹に二人の声が響いた。香月も医務官科に向かう二人のために白継島から本土に渡ってきていた。

「いってらっしゃい。気をつけて」


 二人の師は笑って手を振った。

「いつも通り、冷静にな。気分が上がりすぎて知識が飛ぶなよ~」


 緋澄はいつも通りの調子である。二人は互いに顔を見合わせて、朗らかに笑った。

「午前に筆記試験。午後に口頭試験だったな」

 珞は確かめるために文修に聞いた。

「あぁ、そうだよ。口頭試験はそのまま帰されるみたいだから、終わったら、緋澄師の家にそれぞれ帰ろう」

「そうしよう」


 日の出前に家を出てきたが、グスクに着くころには丁度良い時間になっていた。珞たちと同じ衣服を着た、それぞれの医務官の弟子たちが門をくぐっていく。二人は驚いた。受験者の年齢が高いのである。後々知ったことだが、医務官科を受かる者の平均年齢は三十歳程だという。香月が十五歳で合格した時が当時最年少合格だったそうだ。


 周りの視線を感じながらも、二人は門をくぐった。試験会場は珞にも覚えのない殿であった。彼は幼かったため、離宮しか覚えがなかったのである。


 案内されるがまま、番号の振られている小部屋に入った。受験者はそこまで多くはなさそうだ。何せ、珞が一番最後の番号であったためである。名前で番号が振られているようだった。

荷物は回収され、番号と同じ札が付けられる。珞と文修は回収されることを見込んで何も持ってこなかった。不正行為を防ぐためだという。小部屋には筆と硯、水差し、墨が置かれていた。


 銅鑼が鳴り、分厚い巻物が配られた。


「現時分、八ノ時分なり。筆記試験終了は夕方四ノ時分なり。健闘を祈る」


 珞は気づいた。それは文修も一緒であった。否、その場にいた受験生すべてが思ったことだろう。昨年とは試験時間の変更があった。しかしながら、それが敢えて隠されていたのである。


 珞は巻物をほどき、最初の問題を見た。


 一、近年医務官の子が医務官にならず、別の仕事についており、医務官の数が減っているが、どのように対策することができるか、述べよ。


 珞は肩を鳴らすと筆を持ち、書き始めた。





「辞め」


 銅鑼が鳴り、試験官の声が聞こえた時、珞は息を吐いた。一応、全部埋めることができた。解答が合っているか合っていないかは別として。試験が終わるまでに巻物をまとめておき、名前を確認しなければならない。それが間に合わなかったのか、外から悲鳴が聞こえる。


 珞は答案を回収に来た試験官に巻物を渡した。これで、医務官科の筆記試験は終わりである。このまま、残った者で口頭試問を行うそうだ。


 落第者は先に帰される。珞の隣の小部屋にいた者も何かの要因で落第したのか、外へ出ていく音が聞こえた。落第者が全員帰り終わると、筆記試験通過者が外に出るように言われる。珞が外に出ると、五十人程いた受験者が三十人程に減っていた。遠くの方に文修の姿も見える。


 珞と文修は目を合わせると、どちらともなく頷いた。それから、すぐに食医学・産科医学・内科医学・外科医学と分野別に分かれさせられる。

 食医学が一番多く人数がおり、他の分野は特に人数の差はなく、外科医学の番は最後だった。それまでの間、頭の中に入っている外科医学の知識を思い出す。


 控えの部屋に集められ、段々と人数が減っていった。珞は外科医学の中でも最後の番号であったため、他の受験者が呼ばれていくのを見ては、時の流れを長く感じた。文修と珞以外は豆本にまとめた書物を持ってきて、復習している。


「三十番、珞」

 名を呼ばれ、珞は立ち上がった。そして、連れられるがまま、大広間にやってきた。珞は拝礼するように試験官に促される。


「三十番、白継島任官香月医務官推薦、珞を連れて参りました」

「入れ」

 その声に珞の心臓がどくりと波打った。この声を彼は知っている。障子が開けられる中、顔を上げたい衝動に駆られるも、それを落ち着かせる。


 珞は拝礼したまま入室した。

「面を上げよ」

 先程の声が再度、珞に話しかけた。珞はその言葉の通り、顔を上げた。


 そこには幾年月離れ離れになっていた父王と異母兄が座っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ