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//第3話 Hello World

意識が戻った時には、周りの景色は変わっていた。

辺りを見渡すと、石造りの広い神殿の中のような場所だった。

神殿の中には人が数十人はいるみたい。


どこ、ここ?

まさか何の説明もなく、いきなり始まるとは。


不安になりながら、辺りをきょろきょろと見ていると、綾城が居たので声をかけた。


「綾城、よかった。会えた」

「おお、風宮じゃん。このゲーム、アバター設定とかないんだね」

「確かに現実の見た目のままだね」

「服装はお互いベージュのワンピースか。たぶん、これが初期装備なんだろうね」


辺りを見回すと同じようなベージュの服を着た人が多い。

みんな初期装備だからか。


「ねえ、綾城」

「なに?」

「これからどうすればいいの?」

「さあ?」

「…」


綾城がごまかすように笑う。


「だって、このゲームリリースしてから1時間経ってないよ。情報なんてあるわけないじゃん」


まあ、そんなものか。

ちなみに周りの人も同じように戸惑っているようだった。


そんな風にしていると、一人の修道服を着た女性が神殿の奥のほうからやってきた。



「みなさん、ようこそ。私はこの町ベートのシステム管理者リエルです」


リエルと名乗る女性は説明を始めた。


「この世界について説明いたします、まずログアウトについてです」

「ログアウトを行うには各地に存在する神殿の石碑に手をついたうえで、ログアウトと発声するか、ログアウトの意思を念じることによってログアウト可能です。石碑の一つは私の後ろにあります。神殿の石碑以外からのログアウトはできません」

「次に蘇生について。この世界で死亡した場合は、神殿にて蘇生されます。蘇生する神殿は最後に訪れた町の神殿になります」

「次に時間経過について。ご存じの方は多いと思いますが、この世界は現実の100倍の速度で時間が経過します。つまり、現実での1日は、この世界では100日に相当します」

「次に感覚について。この世界は現実と遜色ない感覚を体験することができます。そのため、痛覚なども現実相当なので、ケガにはお気を付けください」

「次に身体的フィードバックについて。ノアズアークタワーからログインされている方に限り、この世界で獲得された筋力や体力などが現実の肉体に反映されます」

「次に倫理および緊急事態について。この世界には国ごとに法律が存在します。違反した場合は罰則が存在します。倫理上のシステム制約は一切存在しません。ノアズアーク運営への通報機能なども存在しません。犯罪行為があった場合は、各国の治安当局に通報をお願いします。ご自身の安全は、自分で確保していただくことになります」

「以上でこの世界のシステムの説明を終わります。それでは、この世界での体験がより良いものとなることを祈っております」


リエルと名乗る女性は、すぐに奥の部屋に戻って行ってしまった。



説明を聞いて思ったけど、つまり現実と同じだと思って行動しろってことか。

ゲームというより、本当に別の世界に来たみたいだ。

周りを見ると、神殿を出ていく人や、ログアウトする人、相談している人などいろいろのようだ。


「綾城、どうする?」

「情報が少なすぎ。あと、下手に行動するとやばい気がする」

「なんで?」

「運営への通報機能なし、フィールドでのログアウト不可、システム制約なし、って犯罪者には理想の環境じゃん」

「まあ、確かに」

「というわけで、まずはリエルさんに色々聞いてみよう」

「もういないよ」

「奥に行っただけじゃん。多分会えるよ」


リエルさんが入っていった通路に綾城が行くというので、ついていく。

突き当りに「リエル」と書かれたドアがあった。


綾城がドアをノックする。


「リエルさん、いらっしゃいますか。お聞きしたいことがあります」

「どうぞ。鍵は開いています」


綾城と一緒に中に入り、挨拶をする。


「はじめまして、綾城と申します」「風宮です」

「はじめまして、リエルです。どなたかはいらっしゃると思っていました」


綾城が尋ねる。


「先ほどの説明はあえて最低限の説明だったのでしょうか」

「ええ、その通りです。この世界は現実と同じです。ゲーム感覚でいるとすぐに痛い目に遭いますよ」

「お話させていただきたのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ。ただ、場所を移しましょうか」


リエルさんの後を追って、部屋の外に出て、廊下を進み、中庭に出た。

ここまで来る途中、リエルさんは通りがかりのシスターに何かを伝えているようだった。


中央のテーブルを囲んで、3人で向き合って座る。

少しするとシスターが紅茶とケーキを運んできてくれた。


「話だけではなんですから、ケーキとお茶をどうぞ。味の感想を聞かせて」

「「いただきます」」


イチゴのショートケーキを食べてみる。

おいしい。クリームの甘さやイチゴの酸味が本物にしか思えない。

紅茶についても、味も香りも現実のものとしか思えない。


感想を率直に話す。


「すごくおいしいです。本物のケーキと紅茶としか思えません」


綾城も続ける。


「私も本物としか思えません。おいしい」


リエルは嬉しそうにほほ笑む。


「ありがとう。そう言っていただけると嬉しい。味覚や嗅覚の再現はかなり開発が難航した部分だから」

「そんなに難しいんですか」

「最初なんて薬品の味にしか感じなかったんだから。ちなみに私は食品データ開発部門のトップだから、ユーザーからそう言ってもらえると嬉しいの」


そんなリエルに綾城が突っ込む。


「あの、メタ発言満載ですけど、大丈夫なんですか」

「別にいいんじゃない。規約にも特に制約はなかったはずだし。そういえば、質問ってなんでしたっけ?」

「まず、この世界危険すぎませんか。フィールドでのログアウト不可、運営通報不可って、犯罪者とか出たら、ユーザーが被害者になりますよ」

「それはノーコメント。この世界の根幹に関わるから」


この世界の根幹って何なんだろ。

気になったので聞いてみる。


「この世界の目的はなんですか?この世界はただのゲームですか?」

「それもノーコメント。けど、いい質問するね」


綾城が質問する。


「この世界に危険性はないんですか?」

「危険性はあるよ。犯罪者に襲われたり、大けがをしたら、心に傷を負う可能性がある。けど、肉体的な危険性はゼロ。君たち2人はノアズアーク第1タワーからログインしてるみたいだね。それなら、1年以上連続ダイブしていても肉体的な安全は保障するよ。身体はナノマシンによって清潔が保たれるし、栄養は血管から注入されるから」

「どこからログインしてるのかはわかるんですね」

「分かるよ。管理者は管理メニューにアクセスできるから」


続けて綾城が質問する。


「ユーザーはメニューを出せないんでしょうか?」

「出せない。リアリティーの問題らしいよ。現実でメニューなんて出せないでしょ」

「現実にはスマートグラスがあります」

「あるね。けど、あれはスマートグラスという道具を使って実現してる。この世界でも似たような道具は作り出せるよ」


少し気になったので質問する。


「この世界と現実世界との差異はなんですか?」

「ノーコメント。それにしても、ほんと君はいい質問をするね」


綾城が話す。


「つまりこの世界に成り立ちに関わることは答えられないということですね」

「そういうこと」


つまり、この世界にはゲーム以外の目的があるってことなんだろうけど。

さっぱりわからない。


綾城もお手上げのようだ。


「さっぱりわかんない」

「ごめんなさい。私にも答えられないの。けど、時が経てばわかるから」

「わかりました。メタい質問はこのくらいにしておきます」

「ありがとう」


リエルが頭を下げる。


さて、ゲーム的な質問をしてみることにする。


「この世界の仕事はどんなものがあるんですか?」

「色々あるよ。というより色々ありすぎて私も把握できていないの。安全に過ごしたいのならお店で給仕の仕事をするとか、なんだったらこの神殿でお手伝いをしてくれてもいいし。この世界を見て回りたいのなら、冒険者や行商人かな」

「お金については?」

「まず、初期装備で一人1000G支給されてるはず。ポケットの中に袋が入ってると思う。普通の宿なら1泊100Gぐらいだったかな。安宿なら1泊20Gぐらいのところもあるけど、女の子にはおすすめできない。最悪、ここに来てくれれば泊めてあげる。1食は5Gぐらいだったような気がする」

「つまり1G=100円ぐらいの感覚ですね」

「そういうこと」


なるほど。


綾城が何かを思ったのか、リエルに尋ねる。


「つまり、初期装備の女の子2人が合計20万持って歩くことになるということですね」

「そういうこと。まあ、大通りを歩いてる限り大丈夫」

「裏を返せば、大通り以外や町を出たら危険と」

「そういうこと」


綾城が私に話しかけてくる。


「まず、装備を最優先で整えよう」

「そうだね。見た目だけでも早く変えたほうがよさそう」


そんな私たちの様子を見ていたリエルが私たちに提案してくる。


「それなら、私と一緒に装備整えにいく?」

「いいんですか?」

「このままお別れして、襲われても寝覚めが悪いし」

「「お願いします」」



ということで、リエルさんと装備を整えにいくことになった。

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