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八頭大蛇と生贄の少女

今から一年半前、西大陸を統治する巨大国家であるゼクサス帝国が世界を我が物にしようと乗りだした。軍事大国でり元々強力な軍事力を誇るゼクサス帝国は同大陸にあり支配国でもある2国と同盟を組み、さらに軍事力を高めた。


これに対し東大陸を領土とするアレンス聖国がゼクサス帝国の暴挙を止めるため立ち上がった。アレンス聖国は世界最強と呼ばれる騎士団ホーリークロスナイツを中心とし、同じく東大陸にある2国の騎士団と連合軍を形成しゼクサス帝国を迎え撃った。

これにより世界を揺るがす大戦が幕を上げることとなった。


序盤は軍事力や兵士数が圧倒的多いゼクサス帝国がアレンス聖国連合軍を押し込め優位に立った。世界最強と呼ばれる聖騎士団ホーリークロスナイツは少数精鋭であり今だかつてこれ程までの数を相手にしたことがなかったのだ。


大戦が始まり半年が経過しようとしていた時ゼクサス帝国についていたフィーナ炎国とダライア王国が帝国に反旗を翻した。帝国の残忍且つ冷酷なやり方に限界が来たのだった。それに相まって元々同盟国と言うより服従国に近い関係性であったことも重なりゼクサス帝国は打って変わり孤立する形となった。


アレンス聖国連合軍はこの好機を逃さなかった。全騎士が総力を上げ帝国の兵士を食い止め後の四英雄となる四人の戦士がゼクサス帝国の皇帝を追い詰めついに身柄を拘束した。皇帝が降伏したことで全ての兵士が戦うことを止め約一年続いた悲惨な戦争は幕を閉じたのであった。


世界中の人々が待ちに待った平和の訪れに歓喜した。もう戦争の驚異に怯えることはなく皆が安心して暮らせるのだ。

しかしその反面、多くの人々が戦争の犠牲になった。戦争に参加していた騎士や兵士だけでなく戦いに関係のない人々まで、その数の多さは悲しみの大きさに比例していた。ただ一概に戦争の終わって全てが元通りとはいかない、心に負った傷はそう簡単には治るものではなかったのだ。


とは言えいつまでも悲しみに浸っていては荒れ果てた世界は元通りにはならない。人々は少しずつではあるが着実に復興を進めていった。

そしてゼクサス帝国を除いた5つの国は5国平和条約を結びいかなる時も互いに協力し助け合うことを誓い、それと同時に各国の軍事力の縮小を決めた。

これにより騎士団は事実上解散、僅かな数の兵士を残すだけの形となった。


戦争を起こさないための軍事力縮小に関し完全に武力をなくすことが出来ない理由が1つある、魔物モンスターだ。

遥か昔から世界中に蔓延はびこり人々を襲う邪悪なる異形の存在である。

多種多様であり弱いものもいればとてつもなく強大な力をもつものもいる。その出生や生態は謎でありただ本能的に人々を襲い続けてきた。


魔物モンスターの討伐は基本的に騎士団の務めであったが5国平和条約によりその規模が縮小されたことによりある組織が急速に勢力を広げた。

ギルドと呼ばれるこの組織は依頼をこなし報酬を受け取る単純なシステムの下、着実に勢力を伸ばしていた。騎士団が魔物モンスター討伐を負えなくなってしまった今、魔物モンスター討伐依頼が完全にギルドに移行しその規模は爆発的に膨れ上がり世界中に支部を持つまでとなった。


ギルドはまだ世界が国制を取ってない1000年前頃から存在していたとされている。初期の頃は魔物モンスターから人々を護衛することがメインであった。その後アレンス聖国、ツヴァル光国、レンフ氷国、ゼクサス帝国、フィーナ炎国、ダライア王国の6国により統治が始まると同時に各国に騎士団が創設されギルドは魔物モンスターからの護衛と言う依頼を失った。当時ギルドの依頼を受けに来る戦士達は騎士団の騎士や兵士に比べると付け焼き刃や我流で戦う者が多くその実力は騎士団を大きく下回った。人々としては確実な訓練と実績を積んだ騎士団に頼む方が安心であり安全であったのだ。


こうしてギルドは衰退の道を辿った、とはならない。依頼を今までとは違う形にシフトし存続を図った。その1つが犯罪者の確保だ。世界中にいる凶悪犯を賞金首として賞金を懸け確保すると報酬が支払われると言うものである。賞金首にE~Sと言うランクを設定しSに近い程高い報酬を得ることが出来る。しかしSランクに近い賞金首程強く相当な危険を伴う。

もう一つが素材捜索である。魔物モンスターの体から取れる角や皮膚、爪などは強力な武器や防具を作るのに最適である。魔物モンスター討伐は騎士団により斡旋されている状況下であったため賞金首確保に比べるとこちらの依頼は若干受注が少なかったが、それでもギルドを支える強力な柱となった。


そして最後に今まではふらっと立ち寄り手軽に依頼を受けて終わるとすぐ離れると言うものであったが、ギルドから依頼を受けるにはパーソナルデータをギルドのデータベースに登録し認定されなければ依頼を受けることが出来ないというシステムを設定した。認定されれば探求者ハンターと呼ばれるようになりあらゆる依頼を受けることができる。さらに探求者ハンターにもランクを設定し多くの依頼や難易度の高い依頼をこなすことで上がっていき、ランクが高い程同じ依頼でも報酬が高く探求者ハンターのモチベーションを維持・上昇することに繋がった。


この三本柱でギルドは飛躍的にその勢力を広げた。そして現在、魔物モンスター討伐の依頼を取り戻しギルドは確固たる地位と共に唯一無二の組織となったのだ。今日も各地のギルド支部には多く人々が集い依頼を受け報酬を得るのだ。



ここはダライア王国。ダライア王国はゼクサス帝国が君臨していた西大陸の南部にある国であり西側は砂漠、東側が森林地帯と言う珍しい地形と環境をもつ国でありその間に首都ダラーイがある。武器を使わず自らの拳のみで戦う拳法と呼ばれる流派が受け継がれており大戦により軍事力が縮小される前は武真隊ぶしんたいと言われる強力な拳法を使う騎士団を所持していた。

また男は硬派で女は淡白な国民が多くとても住みやすい国である。


このダライア王国には四英雄の1人であるゴルダ・ゴッツがいる。

ゴルダは自分が四英雄の1人であることを全く鼻にかけず男気に溢れ、明るく快活な性格であり国民からの人気が高く現在は縮小された武真隊ぶしんたいの隊長に就任し国民を守っている。


首都ダラーイを少し南下した所に大きな湖がある。その畔にあるのがギルドダライア支部である。砂漠地帯と森林地帯共に魔物モンスターが数多く生息しているため、探求者ハンターにとってはかなり好都合な場所にある。


「パーソナルデータをご提示ください」


センター分けの男は礼儀正しくカウンターにやって来た銀髪の少年にそう言った。少年は面倒臭そうに漆黒の服の内ポケットから小さな端末を取り出し男の手元にあるモニターにそれをかざした。

モニターには読み取り中と表示されその数秒後に軽快音と共に認証完了と出た。


「認証が完了致しました。ギルドランクS。探求者ハンター犯罪者ギルターユート・エスペラント様ですね」


男がその名前を発した瞬間先程まで騒がしかった支部内の空気が一気に凍り付いた。しかし少年は全く歯牙に掛けずタッチパネル式のモニターを手際よく 操作し依頼の検索を始める。後ろで他の探求者ハンター達は彼の噂を口々に話始めていた。


一番奥にいた大柄の男が突然立ち上がった。片手には酒の入った大きなグラスを手に少年に近付く。あまりの巨体に木造の支部内が揺れる。


「おいガキ、ギルドランクSの犯罪者ギルターってことは相当な金額が懸かってんだろうな?」


犯罪者ギルターとは探求者ハンターと対をなす存在でありギルド認定の賞金首である。犯罪者と表記されてはいるが実際罪を犯したわけではなく世間的に指名手配となっている犯罪者とは一線を画しギルドが高ランクの探求者ハンターに強制的に付加する。


犯罪者ギルターはここ数十年の間に施行された新たな試みであり探求者ハンターを追う者、犯罪者ギルターを追われる者としギルド内の活性化を図った。ちなみに犯罪者ギルターになった者は通常の依頼を達成した際の報酬が探求者ハンターよりもかなり高く、逆に犯罪者ギルターの捕縛・確保した探求者ハンターの報酬はさらに高くギルドランクもはね上がる。


ギルドに探求者ハンターとして登録されてから約半年で銀髪の少年ユート・エスペラントは破竹の勢いでギルドランクSまで上がり、犯罪者ギルターにも認定された。その賞金額は推定10億G、一般人が手にすれば一生遊んで暮らせる程の額である。そして彼が犯罪者ギルターと共に受けた2つ名が[銀色の死風]なのである。犯罪者ギルターと共に与えられる2つ名は言わば強者の証でありかなり名誉なことである。


「ギルド支部内での争いは厳禁です」


ギルド支部内での争いは固く禁じられている。支部で探求者ハンター犯罪者ギルターが顔を会わせることは珍しくない、つまりその都度犯罪者(ギルター)を捕らえようと争われては支部が持たない。そのため原則支部で顔を会わせた探求者ハンター犯罪者ギルターは当日は戦ってはならないことになっている。


カウンターの男は丁寧な口調で巨漢の男を抑制した。しかし巨漢の男は相当酒に寄っているのかカウンターの男の制止を振り切りユートへ詰め寄り彼の細い腕を掴んだ。

だがその刹那、振り返ったユートはもう片方の手で自分の腕を掴む巨漢の男の手首を掴む。そして力を入れた。


「い、痛てぇ! は、離してくれ腕が千切れる!」


ユートが手を離すと巨漢の男は持っていた酒のグラスを投げ捨て自分の手首を押さえた。女性とも取れる端正な顔の中でも一際存在感を放つ碧い瞳で男を睨み背中の大剣の持ち手に手をやった。


「支部内での争いは禁止だろ? 次は容赦しない、さっさと消えろ」


赤ら顔がみるみる内に蒼白となった男は巨体を揺らしながら一目散に支部を出ていった。すると入れ違いに別の男が拍手と共に入ってきた。やけに鍔の広い赤色のハットを被りタイトかつ鮮やかな緑色の服には本物か造花か、至る所に薔薇があしらわれている。腰にある2本のフェンシングソードの鞘はまるで蕀が巻き付いたようである。


「ブラボー! ブラボーだよ少年! 」


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