終章
三月に高校の卒業式を迎えた。
全ての生徒がこの先高校というカゴから羽ばたいてもっと大きい世界に羽ばたいていく。
卒業式はいっぱい泣いた。自分でも驚くぐらいいっぱい。
綾人と勝喜と千早で何枚か写真を撮った。
卒業式の後にいつものメンバーでファミレスに集合して、これから歩む自分の道を、目を輝かせてたくさん話した。
卒業してすぐ、千早は引っ越した。どうやら寮に入ったらしい。
それから千早と会うことは無かった。連絡も綾人は取らなかった。
テレビを点けると時折、未解決の事件が放送されていたけど、きっと悪の力が働いているんだろう。今日も綾人の知らない所でヒーローは活躍している。
早く自分もその舞台に上がりたい。
この一年それを胸に毎日頑張った。
千早が居なくなったこの一年はどこか寂しい時間だった。
学生でもない綾人を刺激するモノはなく、毎日毎日図書館で勉強して、帰りにコンビニの端っこでヨレヨレになったヒーローについて書かれている本を読むのが唯一の楽しみだった。
時折思うのだ。
千早と過ごした一年は夢だったんじゃないかって。けど、それは間違っていて、紛れもない現実であるのは知っている。その証拠に何も無かった綾人は今、一つの夢という星にまっすぐ歩んでいるのだから。
学生を辞めた後、時間の流れは早くて気付けば冬の終わりを迎えてまたあの絶壁を上る時が来ていた――
※
桜が舞う季節。別れと出会いの春はどんな人の胸にも響くワクワクする季節だろう。
綾人はこの道が好きだった。
人気のない裏道はどこか別世界に繋がっているような真っ直ぐな道で、たまに通りかかるのは猫だけだ。その裏道をしばらく歩くと公園がある。
大きな桜の木が一本、そびえ立つ偉大な木。
桜色の世界が風と共に世界を広げて気付くと足を止めて見惚れてしまう。
不思議とこの公園にはいつも人が居ない。こんなにも人を魅了してしまう大きな桜の木があるのに人が居るのをほとんど見た事が無かった。
おかげさまで公園に設置されている遊具は錆びていて、そんな静かで少し神秘的なこの公園が綾人は好きだった。
「あ――」
綾人は足を止める。
桜の木に見惚れたのではない。
桜の木の下で一人の少女が居た。長い髪に氷のような瞳。剣を振る姿はとても凛々しくて桜の世界を切り裂いてしまうほど、力強く、気付くと見惚れていた。
けど、その少女を綾人は知っている。
「千早さん」
妙に落ち着いていた。心の中で再会という喜びが弾んで今にも身体に出てしまいそうだったけど、何故か妙に落ち着いていた。
「待ってましたよ。富田さん」
「お待たせしました。千早さん」
綾人は右手に握りしめる『合格』と書かれた合格表を握りしめて笑った。
一年という長いようで短い時を得てようやく綾人は自分が見つけた夢の舞台に立つ事が出来たのだ。
ヒーローは遅れてやって来る。
少し遅れてしまったけれど、ようやく綾人は立つ事が出来た。
――スタートラインに。




