冬3
帰り道。鈴峰と千早と別れた勝喜と綾人。
夏と違って暗くなるのが早くて少し先の道は真っ暗だ。外灯で道が照らされている光景を見ているといつかの出来事が頭をよぎって不安な気持ちになる。
だけど夜歩けない何てこと言えないし、生活に色々と支障が出るから怖さを背負って少しずつ脳に植えつけられたトラウマを克服して行かないと行けない。
「なあ、お前これからどうするんだ?」
白い息を吐きながら、無表情の地面を眺めながら勝喜が呟く。
言葉の意図が理解出来なくて綾人は首を傾げる。「何を」
「何って。もう自分でも気付いているんだろ。千早のこと。別に俺はお前の恋事情に首をツッコむことはしないけど、このままでいいのか? まあお前の場合はお互いに合格したら高校の後も同じだから焦る必要はないんだろうけど、それでも今の生活がいつまで続くか判らないし、だからお前はどう考えているのかなって」
「恋事情!?」
勝喜の言葉に眼球が限界まで開眼する。あまりにも一気に眼球を開いたものだから、奥の血管が伸びて痛みが目の奥でジンジンする。
「ああ」
勝喜はそれ以上言わなかった。まるでもう気づいているんだろう。と綾人自身に考えさせて言わせるように少しの時間を作る。
勝喜の言葉をきっかけにモヤモヤしていた霧が晴れて行く。
そう、気付いていたんだ。ずっと前から。
頭の中が千早でいっぱいで、一つ一つ千早の一面が見えると心に花が咲くような快感が身体を駆けて、足取りが軽くなった。
勝喜の言葉と行動の謎が不安を煽って、今まで感じたことの無い怒りみたいな恐怖みたいなのが纏わりついて夜も眠れなかった。
今まで味わったことの無いことだらけだった。千早と出会ってから、全て。
苦しくなったり、嬉しくなったり。
心が満たされていくこの感じ。流石の綾人でも気付いていた。
――恋をしている。
「千早さんに伝えないと行けないよね」
「綾人次第だろそこは。伝えるも良いし、胸に留めとくのも良いと思う。そこは今決めなくていいんじゃないか。まだ卒業まで時間がある訳だし」
「うん。そうだね」
「まああれだ。振られた時は振られ連合でも作ってお互いに励まし合おうぜ」
綾人の背中を叩いて嬉しそうに失敗した世界線を話す勝喜に苦笑いの綾人。
「そうならないといいな」
冬休みと受験が近いということで、もう学校は午前で終わる期間に入っていた。
綾人は千早と一緒に公園に向かっている。
「じゃあ、ヒーロー学校の受験内容は不明なの?」
「はい。一応色々と言われている説はありますけど、それが真実なのか虚偽なのか。判断のしようはありません」
「千早はさんはどうしているの受験勉強」
「一応基本科目は勉強しております。後は実技があるか判りませんけど、一応公式で発売されているこれがあるので、実技は間違いなくあると思います」
そう言った千早はバッグからいつものバーチャル世界に行けるメガネと剣を取り出す。
「やっぱそうだよね……実技、やばい。絶対」
「これを」
淡々と千早は高額セット二つを綾人に渡す。
「え」
「ここ数年で一通りそれを私はやりましたので、もう必要ないです。それに実戦経験も積めましたし。私はもう合格範囲に到達していると思います。なので、これは富田さんに上げます」
千早の絶対的自信を感じるその言葉。ヒーローの事になると少しだけ雰囲気が変わるのを最近感じ取った綾人。それほど本気という事なんだろう。
そんな千早がカッコよくて、より一層吸い込まれる。
「で、でも流石に受け取れないよ。高いし、なによりもそれは千早さんの色々なモノが詰まっていると思うし」
「ならお貸しします。以前のテストで富田さんの学力が高い事は把握しております。なので後はそれを利用して実技の方の成績を上げればもっと合格に近くなると思いますので。なので受け取ってください」
そこまで言われて受け取らない人は居ない。一言礼を言ってから綾人はそれを受け取る。
しばらく千早と推測で出来た受験対策の話をしてから別れた。
家に帰ってから受け取ったメガネを装着して綾人は起動する。
ゲーム酔いに似た症状が出たのは起動してから三時間が経過してからだ。起動すると世界が変わったように景色が一変するので、時間を忘れて没頭してしまう。
ゲーム感覚のように出来るこれは、コントローラーの役割を果たす剣を持って、敵のレベルを指定するとスタートする。
普段公園で身体を動かして操作している千早だけど、どうやら脳に直接繋げる昨日もあるらしく、行ってしまえば精神世界につなげて寝たまま出来る機能もあったので、綾人はそれを使った。
最初こそボロボロに負けていたが、二時間が経過する時には十段階の内、三レベルまでは攻略が出来た。
最初にしては上々ではないだろうか。
受験まで残り二か月を切っている。綾人は残りの時間を精一杯使って受験に挑むのだ。




