冬2
喉に刺さった魚の骨がやっと取れたようにスッキリとした気持ちで綾人は校門に向かう。
「あ、おせーぞ綾人」
門に寄りかかっていた勝喜が、やっと来たと顔を晴らして綾人に手を振る。隣には千早も静かに待っていた。
「あれ、二人どうしたの」
「どうしたのじゃねーよ!」
「見ていないのですか」
勝喜と千早に言われて綾人はスマホの画面を点ける。ホーム画面にはチャット歴がずらーッと流れており、確認すると鈴峰をきっかけに今日ファミレスに集合するという話になっていた。
ちなみに、綾人は進路相談で見ていなかったのだが、まるで綾人のスケジュールを管理しているように、勝喜が、「あいつ今日暇だから千早と連れて行くよ」と何故か綾人の分まで返事していた。確かに暇だけど、なんか悔しい。
「千早さんが参加するの何か新鮮だね」
「そうですね。確かに」
最近千早が遊びを断ることが少なくなったと嬉しそうに鈴峰が言っていた。
「じゃあ行くか。いつものファミレス」
「もうあそこの店員さんの名前覚えちゃったんだけど」
「あーわかる。店長の名前と顔もばっちり一致するし。あそこで働こうかな、俺」
「そう言えば富田さんは先生と何の話をしていたのですか」
「進路の事だろ。多分」
「俺さ――ヒーロー目指す事にしたよ」
「は!!!??」
勝喜がお笑い芸人顔負けのリアクションを身体で示して、隣で千早が静かに笑みを零す。
「って、まあ薄々気づいていたけど。マジか!」
「それで先生と話して。止められたけど最後は背中を押してくれたよ。ほら、これ。千早さんも貰ったでしょ?」
「はい」
「正直、右も左も判らないんだけど。もしよければ色々と教えてください。千早先生!」
行くべき道は決まった。けれどこの時期だ。先は険しく厳しいだろう。進むからにはその先を見たい綾人は全力で取り組もうと決めている。
「はい。分かってます」
「でもそっか! うちのクラスから二人も未来を守る英雄が出るなんて。これはあれか! あれなのか!? 歴史的瞬間を俺は目撃しているのか!?」
バババッとキレッキレのダンサーのようなポーズで大げさすぎるリアクションをする勝喜。
「そうなれるように頑張るよ」
「おう。応援してるぞ。ヒーローたち!」
ファミレスに到着すると頬を膨らせていた鈴峰が座っている。窓側のよく日差しが刺さる席が毎回綾人たちの座る席であり、もはや特等席と言っても良い。
鈴峰の隣に千早。反対に綾人と勝喜が座って一通りのメニューを注文する。
「あのさ、一つ提案なんだけど、このメンバーでどっか行かね?」
「唐突だね。仙田君」
「ほら、なんつーかもう卒業も近いわけだしさ。受験とかで忙しいと思うけど、最後の最後にバァーって盛り上がろうぜ!」
ニシシっと笑ってコーラを飲み干した勝喜に綾人たちは賛成の声を上げる。
確かに受験真っ只中の時に遊びに行くのはどうかと思うけど、それでもここにいる人たちは失う怖さを知っており、そして日常が突然終わってしまう残酷さを経験している。決して受験に対して余裕がある訳では無いけれど、様々な障害を越えて来た四人が、最後に精一杯楽しむ為に行動に移すのは別段変な話ではない。
「じゃあ決まりだな!」
勝喜と鈴峰を筆頭にそれぞれの空いている日が決まっていく。悲しくも皆が24日、25日が開いており、流石に25は悲しいからとクリスマスイブに決まる。
「で、場所だけど。どこか行きたい場所あるか?」
「俺はどこでもいいかな。絶叫系じゃなければ」
綾人は絶叫マシンが苦手でそれ以外なら何でもよかった。
「夏海はどこがいい?」
鈴峰は千早の意見を優先するようだ。綾人も興味を持つ。綾人同様にこう言った時あまり自分の意見を言わない千早。以前と違って友だちと言い切れる仲になったと思うからきっと何かしら意見を言ってくれるだろうし、千早の新しい一面を知りたいという興味があった。
「蟹」
「え?」
「蟹がみたいです」
「蟹? そう言えば好きだもんね。蟹みそ」
アハハと鈴峰が笑う。それに頭を悩ます勝喜。
「水族館とか?」
勝喜に助言するように綾人が言うと、勝喜が指をピンっと鳴らして、
「それあり! 俺もイルカ見たいし」
「可愛いな、仙田君は。わたし、ペンギンみたいかも」
「いるっけ、ペンギン」と綾人。
「いるっしょ。多分」と鈴峰。
「じゃあ決まりだな。最後の遊び、楽しもうぜ!!」




