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将来の夢はヒーローです。  作者: 死希
交差する夏
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孤独の影

「今日はここまで」


 バーチャル世界を終わらせて空を眺めると既に夕日は眠ったようで空の舞台での主役は綺麗

な月へと変わっていた。

 千早はメガネをケースにしまい、コンパクトサイズに畳める剣を片づけてバッグを背負う。

 人気の少ない裏道は何だか落ちつく。

 引っ越して来てから息抜きに散歩をしていた所、この静かな裏道を発見し、人気のない公園

を見つけて、何となく惹かれるように千早は公園でヒーローを目指す練習を始めた。

 そして今日から学校が始まったのだ。

 少しだけ注目を浴びた気がしたけど、別に構わない。

 自分の目標は『ヒーローになること』であってそれ以外は必要ないと千早は考えている。

 ヒーローは存在する。

 世間がバカにしても、批判しても、都市伝説と言われても、ヒーローは必ず居る。

 ――ヒーローになって私は世界を救う。

 貯金を崩してヒーローになるための装備を整えた。後は一年後の受験の時に謎に包まれた『ヒ

ーロー学校』に入学を果たせば夢の第一歩が歩める。


「あの悲劇を繰り返さないために」


 千早は冷たい声音でボソッと呟く。

 やがて家に到着する千早。明かりは一切点いて無くて外から見たら少し不気味だ。

 冷たくて暗くてまるで闇の世界のように人の気配はしない。

 千早が帰って来ても誰も声を掛ける者はいない。

 ――千早はもう、永遠と一人なのだ。



 ※

 学校に行くのが嫌になっている。

 特に嫌な事をされた訳では無いけど、何故か足取りが重いのはクラスの雰囲気のせいだろう。

 千早が転校して来て三日が経過した。

 初日に起きた佐々木事件をきっかけに千早の扱いは最悪にまで陥っていた。

 無視から始まり、見えない場所で嫌がらせ、そしてその嫌な空気はクラスの女子に伝染し、

『居心地の悪い空気の発信源は千早』という雰囲気になってしまい、全体的に女子たちはピリ

ピリしている。

 そんな空気がクラスで充満しているから綾人はあまり学校に行く気が出ないでいた。それで

も行かないと行けないので今日も綾人は学校に向かう。


「よっ、綾人。今日はいつもよりつまらなそうだな」登校中に勝喜と偶然会う。

「おはよう、勝喜。いや、だってさ」

「まあ、気持ちは解る。よくねーよな。あの空気。佐々木も陰湿だからガツンと言ってやりた

いけど、行動に移したら移したでもっと空気悪くなる気もするし」


 勝喜もやはり現状のクラスを良くは思っていない様子だ。それはほとんどのクラスメイトが

思っていると言っても良い。


「まあ、ね」

「千早も悪いと思うけどな」


 勝喜は空を一度仰いで息を吐くように呟いた。


「え?」


 一応千早を隣で見ている綾人が思うに、千早が非難される理由は見つからない。だから勝喜

の言葉には疑問が浮かんでしまう。


「だって理不尽に嫌がらせされているだろ? でも全然顔にも行動にも出さないし。先生に言

うとか、何か行動に移せば状況も打破出来ると思うけどな。まあ悪化するリスクもあるけど」

 勝喜に言われて何だか少しだけ納得した。

 確かに千早は一切嫌そうな表情をしないし、行動もしていない。魂がどこか遠くにあるみた

く全ての出来事を受け入れているイメージだ。そんな薄い反応なのがより一層佐々木の怒りを

煽っている風にも見えるが。


「まあ言われて見ればそうかも知れないね」

「とりあえず様子見というか、しばらく佐々木の怒りが収まるの待った方が良さそうだな。ク

ラスの雰囲気は最悪だけど」


 ニシシと少しだけ笑った勝喜。太陽みたいな勝喜が居るおかげで希望の光を薄っすらと感じ

ているので綾人なりに勝喜には感謝している。


「じゃあ俺、部室寄らないと行けねーから」

「また後で」


 綾人は勝喜と別れて独りで教室に向かう。

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