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将来の夢はヒーローです。  作者: 死希
交差する夏
32/47

夏休みが終わりを迎えた。

 気付くと猛暑はどこか遠くの世界に旅立ってしまったようで、涼しい風が残暑の後処理をするように吹いている。

 セミは新たな命を残して永遠の眠りに就き、木々たちも新たな命に紡ぐべく、最後の生命力を絞って生きている。

 綾人は今日もいつもと同じように退屈そうな顔で学校に向かっていた。

 ただ退屈そうな顔をしているだけじゃない。どこかボーっとしたような、少し危うい足取りで学校に向かっていた。

 あの日、夏祭りの日。花火が終わる頃に勝喜と千早は綾人の前に姿を現した。

 特に変わった様子はなく、その後も祭りを楽しんで解散した。

 勝喜とは相変わらず微妙な距離で話すことは無く、千早に尋ねるのも何か違うと思ったから追及はしなかったけど、あの時二人はどこに行っていたんだろう。

 結局その答えは出なかったし、別に知ったところで何が出来る訳でもない。むしろ何も無かったかもしれないけど、綾人は何故か気になって仕方が無かった。

 モヤモヤしたまま残りの夏休みを過ごして現在に至る。

 連絡先を知ってても結局夏祭りの後に集まることは無かったし、綾人から千早に連絡する事も無かった。公園に何度か顔を出したけど、時間が合わなかったのか、千早と会うことはなかった。

 学校の席に着くと既に千早が座っている。

「おはよう、千早さん」

「おはようございます」

 夏休み前と変化は無い。

「あれからどう、鈴峰さんとは」

「特に」

 一つ変化があるとするならば鈴峰との再会だろう。

鈴峰とのその後の行方を知りたかった綾人は尋ねたけど、冷めた言葉一言で終わらせられてしまう。

「そっか」

 少し残念な気持ちが芽生えた時だった。

「先週、買い物に行きました」

 ボソッと照れ隠しなのか、たまたまなのか、判らなかったけど少しだけ視線を逸らして小声で呟いた千早に「そっか!」と笑みを零した綾人。

 席に着いて一つ、気付いた事があった。それは千早に対する周りの反応だ。

 以前は千早が口を開けばクラスに嫌な雰囲気がじわじわと膨らんで行ったり、放課後とか昼休みに千早がびしょ濡れになったり、教科書を破られたり、という嫌がらせが不定期で行われていたが、考えてみると夏頃からそれらは完全に無くなっていた。

 千早も隠している素振りは無いし、誰かが行動に移したような話も聞かない。

 佐々木たちが純粋に千早に飽きたのか、他の標的が見つかったのかは判らない。けれど『わがまま姫』と佐々木は陰で呼ばれている為――好き嫌いが激しいので――可能性は大だ。

 前者なら誰も他に被害が出ていないからいいけど、もし他に標的が出来たならそれはそれで良い気分にはなれない。どうか被害が出てませんように。綾人は心の中で祈りを捧げる。

 一度対角線上に座る佐々木を目で捉える。大きな欠伸をして相変わらず眠そうだ。最近はよく独りで居るのもわがまま姫のご意見によるモノなのか。佐々木は欠伸の後にボロボロの教科書を一ページめくってこちらを見た――!?

 綾人と目があって、狼のような鋭い目で睨み殺すものだから綾人はクゥンと鼻で弱弱しい子犬のような鳴き声を出してから静かに前を向く。こわっ。

 背後でクスクスとした嫌な笑いを綾人は聞き逃してしまう。

 千早は耳を澄ませて、静かに瞳を閉じていた。


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