夏祭り5
花火が出発の合図だった。勝喜は空を仰ぐこともせず、手を伸ばす。
周りと同じように空を仰いだ千早に申し訳ないと思ったけど、勝喜は千早の手を取って走り出した。
戸惑う千早が何かを言っていたけど、勝喜は「ごめん」とだけ言って真っ直ぐ目的地に走る。
花火を眺めて止まる人混みをかき分けて、サッカーで学んだドリブルスキルを使って、勝喜は千早でもついて来れる速度で走り抜ける。
神社を抜けて少しの丘を登る。人がどんどん少なくなって行き、祭りの光が視線の先に移動していた。虫が集まる外灯の下を走り抜けて丘の上にある公園に辿り着く。
沈黙しか住み着いていない公園に響く二つの足音。花火の音が空を駆けて、祭りの笛の音とか人の声とかが遠くから聴こえる。
どこかでコオロギが鳴いて、生温い風が勝喜の背中を押して、千早の髪をなびかせる。
「あの、何ですか。仙田さん」
ヒーローを目指しているだけあって、全然息を切らしていない千早は疑問の瞳で勝喜を見つめる。
勝喜は大きく深呼吸をして、遠くで温かい光を放つ祭り会場を眺め、
「あのさ、今日楽しかったか?」
勝喜の言葉が風に乗って千早に届く。
「はい。色々とありましたが、楽しめたのではないでしょうか」
自分の事なのにどこか他人事のように言った千早の言葉は昨日までとはどこか違う気がした。
「そっか。なら良かったわ」ニシシっと勝喜は笑う。
「それとこの状況。どのような関係が?」
「あーえっと。ああああああ!! くっそ」勝喜は自分の頭を掻きむしって、「頑張れ、勝喜」自分の頬を叩いてもう一度深呼吸をする。
「あのさ、千早。俺、お前が好きだ」
「え?」
「前にも言ったけど、改めて言わせてくれ。俺はお前のこと大好きだ。ミステリアスな所も、無表情な所も。夢を持ってそれに真っ直ぐな所も。誰にも屈せずに自分を持っている所も。そんな千早が全部、俺は大好きだ。そういった色々な面を傍で見たい。もっと千早の事を知りたい。だから、だから――俺と付き合ってください!」
真夏の公園で花火とぬるい風に押されて、勝喜は自分の想いを胸に千早に手を伸ばす――




