夏祭り
夏祭りの会場は綾人の家から十分程歩き、電車で三つぐらい離れた場所で開催されている。
お祭りは大きな神社の中で無数の屋台を作って行われ、祭りの時間に合わせて大きな花を咲かす花火をお供に楽しむ。というのが定番だ。
過去に何度か、綾人と勝喜とそれから中学時代の友だちとかと一緒に来たことがあり、良い想い出しかない。
今日はどうかな。
ガタンと車両が揺れる振動に合わせて綾人の身体が揺れる。吊革を持っていなければバランスを崩していた所だ。
中学時代は隣に勝喜や友達が居て、色々と話したりもしたものだが、今日は独りだ。
勝喜とは――連絡を取らなかった。
顔を合わせたくない気持ちが綾人の中で勝ってしまった。どうせ祭りで会うけど。
今は独りで居たい。
電車を降りると駅前には浴衣姿の人が多く居た。カップルや友だち同士の学生に家族など。七割ぐらいが浴衣姿で三割は綾人のように私服だ。
人混みの波に乗っかって綾人は会場の待ち合わせ場所に辿り着く。
温かい色のちょう灯がいくつも空を飾って、猛暑が続く現在だけど、優しい光の演出でなんだかホッとする気持ちが心を満たす。
人混みの中、綾人よりも最初に到着した人物が居る。勝喜だ。
「あ、勝喜」
子供が走りながら綿あめを食べて、カップルたちがタコ焼きを持って座る場所を探して、小さな子はお父さんに肩車してもらって頭にはお面を付けている。どこを見ても楽しくて平和な景色が続くけれど、綾人と勝喜が目を合わせると同時に二人の空間だけピリッとした稲妻が落ちたように冷めた空気と変化する。
「お、ってお前か」
勝喜はどうやら千早を待っていたようで、綾人を見るなりあからさまに肩を落とす。
そんな態度を今まで見た事も無かったから、勝喜が本当に別人に思えた。
口を開けば何か文句が出そうだったから、綾人は口を結んでスマホをいじる。
気まずい空間が二人の時を進める。周りの和気あいあいとした世界とはまるで別世界のようであった。
「今日来るのか。鈴峰」
「来るよ」
「そ。まあどうなるかな。再会して。言っとくけど、これで祭りの空気壊れたら責任取れよ」
「分かってるよ。大丈夫だから」
勝喜の尖った言葉に同じように尖った言葉で返す綾人。相変わらず二人はピりついている。
「おっ! 千早!」
今までの声が嘘だったかのように勝喜の声音が明るくなって祭りの雰囲気に溶け込んでいく。綾人もそちらに視線を移すと、髪を結んだ千早がゆっくりと歩いていた。
「千早さん――」
「って、私服なんだ。千早」綾人の言葉に重なる勝喜。
「浴衣は持っていませんし、必要ありません」
「またまた、そう言う事言っちゃって」
「いえ、本当ですので」
勝喜はあっという間に自分のペースに持っていき、千早との二人っきりの空間を作り上げる。
綾人は疎外感と嫌な気持ちと怒りと。負の感情でムスッとした顔になっていた。
「仙田さんも富田さんも私服じゃないですか」
「男たちは良いんだよ」
「そう言うものなんですか。ん、富田さん、何かあったのですか」
「へ?」
まさか千早から話しかけて来るとは。情けない裏返った声が漏れる。相変わらず言葉に感情はなく、氷のように冷たい言葉ではあったが、それでも嬉しかった。
「大丈夫だよ」
綾人は気持ちを切り替えるため、無理して口角を上げて笑って見せた。
「では行きますか」
綾人がそう言うと一気に興味を無くしたように、少しの寂しさを感じたけれど綾人は手を出して歩き出そうとする千早を止めた。「待って」
「何でですか」
「もう一人。もう一人来るんだってさ」
勝喜が頭の後ろで腕を組んで上に掛かっているちょう灯を眺めながら言う。
「そうなんです――!!!!!」
千早の言葉に感情の波を感じた瞬間、千早の正面。綾人から見て左方向から声が聴こえた。
「お、お待たせ」
普段よりも可愛いと思ったのは彼女が浴衣でばっちりと決めているからだろうか。髪型も普段とは違う結び方でアレンジしてまるで別人だ。いつもヒマワリのように明るい声でも今日は少し遠慮がちというか、緊張気味というかかなり控えめの声である。




