三人目の登録者
バタン。
家に帰るなり、真っ暗な部屋のベッドに倒れ込んだ千早はしばらく顔を埋めて無を味わう。
一度ため息をつくと、ドッと溜まりに溜まった疲労が決壊したダムのように一気に身体の内
側から溢れ出る。
「疲れた」
ボソッと独りごとが漏れてしまい、同時に今日の自分が何か変だったことに気付く。
一つは、苗字で呼んだ事。
約束とか、呼ばないと行けない理由なんて無かったのだけど、人に興味を持たない自分が人
の名前を呼ぶ日が来るなんて。一体いつ以来なのか、記憶にない。
あの時のクラスメイトに言われた言葉が未だに心に刺さっているのだろう。
――自分が目指すヒーローとは? 自分のなろうとしたヒーローと、ヒーローだった大好き
な父の背中。
色々な想いに気付かされて、今まで自分が歩んで来た道が一気に霧で包まれたように、前が
見えなくて不安だけど、けれど進むしか無くて。正直自分でも何が何だか解らなくなっていた。
その結果、今日の自分は色々とおかしな行動を取っていたのだろうと納得する。
そしてもう一つ。
千早が視線を動かすと目元にあったスマホに明かりが宿って着信音が一度鳴る。
この音を聴くのも久しぶりだ。本当に誰以来だったか、覚えて――
スマホを覗くといつも千早を気に掛けていた隣の席の富田からのチャットだ。
『お疲れ』という素っ気ない文字の後に一枚の写真が。
回転寿司の店内で真顔の千早と、何故だか表情の硬い富田のぎこちないピースサイン。そし
て写真の七割ぐらいに映っている仙田のスリーショット写真。
半ば無理やり撮られたに近いが、これも思い出ということで、と言いくるめられた。
千早はその写真を保存することなく、静かにスマホを消す。
『あのさ』
消すと同時にまたスマホが自己主張する。もう一度スマホに視線を向けると、次は仙田から
のチャットである。
『今日の事、俺マジだから。だから一週間後、待ってるわ。おやすみ』
最後にグッとサインの絵文字が添えられた文章。
――お前の事が好きだから。
そのことに対してマジという事を言っているのだろう。
千早の短くも長くも無い人生の中で告白をされたのは初めてであり、壊れてしまった少女で
もどこかに隠れている少女の千早がそれに反応して少しだけ、心臓の鼓動が早い。
普段味わったことの無い身体の変化に千早は気付いていたが、正体を明確には知らなかった。
仙田のチャットを見ると少しだけため息を零す回数が増える。
重大な決断を迫られている気がしてならない。
千早は一度考える事を辞めて、自分の状況に今更ながら驚く。
関わるつもりのない二人とチャットをしている事に。
ショッピングモールを出る時に仙田がその案を提示してきて、何度か千早は断ったが二人の
圧というか勢いに負けた結果、連絡先を交換してしまった。
といっても返信をするつもりはないので、一方的な連絡にはなるが。
千早の電話帳にはこれで三人目の登録者となる――




