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将来の夢はヒーローです。  作者: 死希
交差する夏
21/47

動き始めた夏

「では。私は寄る所があるので」


 ショッピングモールを出たのは気付くと夕方に近かった。何だかんだ最後まで付き合ってく

れた千早に、昔の千早はきちんと存在する。と少しだけ確信を持った綾人。

 またしても勝喜の活躍とはいえ、苗字で呼ばれたのは今日一日で一番の成果と言ってもいい。

 回転寿司での千早が言った「富田君」それが脳の中で何度もループされてはにやけ顔と鼻歌

を止めるのが中々に大変だった。


「じゃあ俺たち先に帰るね」

「はい。では、また学校で――仙田さん、富田さん」


 少しの間の後に少しだけ大きく息を吸って言ってくれた千早の耳が僅かに赤かったのは、そ

の背景で空を焼いている夕日のせいだろうか。

 勝喜と二人の帰り道。嬉しさが爆発しそうで隣の勝喜を肘で突く。

 笑みが零れて綾人は勝喜の顔を伺うように視線を送る。


「勝喜?」


 きっと勝喜も嬉しいだろうと思っていたけど、勝喜は難しい顔で無表情の地面を眺めていた。


「ごめん。綾人。先帰っててくれ」


 その言葉だけ。その言葉だけを残して勝喜は来た道を振り返り、走り去ってしまう。

 夕日によって茜色に染まる地面とその光に消えて行く勝喜の背中。

 綾人は言葉が出なかった。

 ただ、背中姿に胸がざわついた。


 ※


 勝喜は走った。息を切らしながら先程千早と別れた所まで戻る。

 何で走ったのか。何で綾人に何も言わなかったのか。

 解らない。ただ、気付くと走っていた。

 今日一日を過ごして勝喜の胸は千早でいっぱいになった。

 動じない態度。少し冷めた言動。何か陰があるようなミステリアスな所も、夢にまっすぐな

所も、蟹みそが好きなギャップとか、感情の無い機械のようだけど最後に名前を呼ぶ時に少し

だけ照れた仕草も。

 気付くと千早が胸でいっぱいでこの想いを内側だけで押さえる事が出来ないでいた。


「千早!」


 近くのコンビニで何かを買い終わった千早が、少しキョトンとした顔で立ち止まっている。


「どうしたんですか」


 流石に不意を突かれたようで、僅かに千早の言葉に感情が込められていた事が判った。


「いや、気づいたら向かってた。ははは!」


 自分でも気持ち悪いと思ったし、何でこんな事してんだろう。という戸惑いとか、疑問が頭

によぎったけど、それでもここに来たことに後悔はないしむしろ間違ってないと確信している。


「そうですか」

「それ持とうか?」

「いえ、大丈夫です」


 そう言われて勝喜は追及を辞める。千早は少し頑固な所があって自分が断ったら基本絶対曲

げない。先程の回転寿司で痛いほど理解したので、三人で仲良く割り勘になったのだ。


「そっか。なら少しだけ送るよ。てか送らせて」


 そう言って勝喜は道路側を歩き、千早に合わせて歩く。

 会話の無い茜色の空の下。昔なら豆腐屋のラッパ音とか聞こえてきそうだけど、今ではそん

な事はなく、車のエンジン音が周りに響いている。

 カラスの鳴き声が次第に遠くなって、街中を抜けて裏道を進む。綾人が言っていた公園辺り

で千早が足を止めた。立派な桜の木はもう散っており、寂しさだけが咲いている。


「ここまでで大丈夫です」

「分かった」

「では」


 千早がボソッと呟いて背を向けようとしたので、


「あのさ」勝喜がゴクリと唾を飲み込んで、一度茜色の空を仰いだ。生ぬるい風が勝喜の背中

を押す。「次の日曜日って暇かな」

「次の日曜日ですか。何かあるんですか」

「実はさ、俺が入っているサッカー部の大会があるんだよね。それを見に来て欲しいんだ」

「私がですか?」

「そう」

「何故です。他の方じゃダメなんですか?」

「千早じゃないとダメかな」

「意味がよく判りません」

「俺の活躍する姿を見て欲しい。俺、お前の事好きだから――」

「――え」

「あ、え、ええっと。じゃあそう言う事だから。日時と場所は学校の掲示板に貼ってあると思

うから。えっと、待ってます!」


 勝喜は今にも蒸発しそうな顔を隠すように、言い逃げでその場を後にした。

 いつもキツイ練習で鍛えられた身体だけど、今日はやけに息が上がって心臓が痛かった。

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