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将来の夢はヒーローです。  作者: 死希
交差する夏
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存在意義

 慣れてしまった真っ暗な自室。

 光を嫌う吸血鬼が好むような部屋にただ一人、千早は暮らしている。

 綺麗に整頓された部屋。と言いたいが、その言葉が合うほど千早の部屋に家具はない。ある

のは最低限必要なベッドや鏡、クローゼットであり、女の子らしい物は一切置いていない。

 別に欲しいとかそう言った欲も持ち合わせていないのだ、千早は。

 いつも休みの日はヒーローについて調べるため図書館に行ったり、学校の宿題をやったりと、

何かしら行動しているのだが、今日は違った。

 何かが憑いたみたく、普段と自分が違う事を悟った千早は、顔を洗った後、鏡の奥にいる自

分と目が合っていた。

 何故だが逸らす事は出来なかった。

 光の宿っていない瞳。いつからこんな顔になったのか、既に千早の記憶には無かった。

 目の奥は見えない闇が住み着いて、何も感じさせない虚無の瞳。

 ――自分の中でヒーロー像があるなら目指すのはそこなんじゃないの!?

 その言葉が何度も何度も何度も、千早の頭で再生されていた。

 分かっている。分かっていたつもりだった。

 ヒーローをやっていた父を知ったのは、父を失ってからだ。

 父の葬儀の日に見たこともない人たちが、父の為にたくさん集まった。

 父の同僚と言う人たちが、父がヒーローである事を教え、そして自分たちもヒーローである

事を千早に告げた。

 信じるとか、信じないとか。当時の自分にはどうでも良かった。ただ、無慈悲にも過ぎる時

間の流れを憎み、そして壊れて行く自分を見守る事しか当時の千早には出来なかった。

 父はとても偉大な人だ。常に笑っていて、家庭を一番に考え、どんな時も千早を励まし、味

方で居てくれた。そんな父だった。

 ヒーローの父を知らないけれど、きっとそれは今まで見てきた父の姿だったのだろうと容易

に想像がつく。

 ベッドの隣に飾ってある太陽を連想させる大きな真っ赤なマントを視界に捉える。

 父の葬儀の日、父に育ててもらったという弟子の一人が、既に涙を枯らしてしまった千早の

代わりに大粒の涙を流しながら渡した遺品だ。

 唯一ヒーローの父を示すモノであり、そして唯一の思い出の品である。

 空っぽで粉々に壊れてしまった心がそれを見ていると少しだけ癒えた気がする。

 もう一度醜い自分を鏡越しに見据える。同時にクラスメイトの言葉が脳に響いた。


「私はなにを目指しているの?」


 千早がヒーローを目指したきっかけは、全てを失ったあの日の出来事だ。

 一言で言ってしまえば復讐だ。

 以前、違うクラスメイトには『私と同じ想いをさせない為』と答えた。

 あれは嘘だ。込められても無い空っぽの言葉である。

 ポロっと出た言葉に千早の意志があったのか、本人でも解らないが、嘘であることは間違い

ない。

 あの日、千早は復讐を誓ったはずだ。

 例え、家族を殺した巨悪が消えたとしてもその恨みが晴れる事はない。だからこそ千早はヒ

ーローを目指し、晴らす事の出来ない恨みや憎しみをぶつける為に目指したのだと、心のどこ

かでは気づいていた。

 気づいていた事を知っていたから、クラスメイトの言葉が深く胸に突き刺さり、思わずその

場を逃げ出してしまった。

 久しぶりに自分の中で感情というモノを感じた瞬間でもあった。


「私は何のヒーローを目指しているのかな、お父さん」


 答えの返って来ない質問は虚しくも沈黙に食い殺されてしまう。

 ただ、少しだけ悲しみで染めた瞳をした自分だけが自分を憐れむように見ていた。

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