コミュ力の暴力
太陽の光が窓を通して綾人の座っている席を照らす。太ももに当たる日差しによってそこだ
け体温が高くなる。カランっと目の前のコーラが入ったグラスの中で氷が溶けてそんな音を鳴
らした。
土曜日の昼時という事もあり、店の中は人が中々に多い。カップルから主婦。綾人たちのよ
うな学生がノートを広げて睨めっこしている。席の数が多くてまだ客が入る為、綾人たちが勉
強を始めても店員の冷たい視線を浴びなくて済むし、それを防止するために定期的にポテトと
か、ドリンクを頼んでいるから追い出されることは無いだろう。
「富田くん、バカね。夏海、超頭いいよ」
「え……そうなの?」
テーブルの真ん中にある山盛りポテトの一つを加えた鈴峰は美味しそうに食べている。
「当り前でしょ。中学の時は学年上位だったわよ。常に」
もう一つポテトを口に入れた鈴峰。
あの日以来の再会だが、妙に距離感が近いのは定期的に連絡を取っていたからだろうか。そ
れにしても距離感が近いと思うのは、鈴峰が勝喜に似た匂いがするのと、綾人自身がそう言っ
た明るい系とは別系統の人種だからだろうか。間違いないな。
勝喜に慣れているし、女子から親しくされて悪い気分はしないから別にいいが。
「そっか」
ため息が混ざった言葉が零れる。
「富田君は頭良いの?」
「うーん。普通かな」
「普通ってそれ絶対頭良いやつじゃん。だいたい頭いい奴は普通って言うんだよ!」
あれ、最近その言葉をどこかで聞いたような。
綾人はモヤモヤと霧のように一人の人物が薄っすらと脳に浮かぶ。
「なら鈴峰さんは」
「さんは要らない」
「いや、それは無理。で、鈴峰さんは?」
『さん呼び』を外す事が出来ないのは長年生きてきた綾人の脳にそう言った考えがすり込ま
れているからであり、そのような生き方をしなかったので、距離の縮め方も下手だ。
「うーん、頭いいよ」
ボールペンを顎に当てながら考えるのかと思いきや、率直に笑顔を込めて言い切る。
「自信ありげだね」
「まあね」えへへと笑う鈴峰。「だって変に謙虚だと逆に嫌味っぽいじゃん? 夏海ほどじゃな
いけど、結構上位だよ。今の高校も」
「へぇー」
「へぇー、じゃ無いでしょ。負けたら二度と関わらないでって言われてるんでしょ!? 頑張っ
てもらわないと困るよ。富田君」
「分かってるけど」
「でも、本当に夏海がそう言ったんだよね……私が知っている夏海はもう居ないのかな」
どこか遠くを眺めるように鈴峰は呟く。雲が空を覆っているのか、鈴峰の表情に陰が掛かっ
ていて、今にも雨が降りそうだ。
「だ、大丈夫だよ! 鈴峰さんが知ってる千早さんはきっと居るよ」
根拠のない言葉が自然と口から漏れた。笑顔だった時の千早はきっと居る。例え本人があの
時死んだと言ってもそれは言葉だけだ。きちんと千早は生きている。何かをきっかけに鈴峰と
仲が良かった千早に戻ってくれると綾人も願い、信じている。
「そうだね。わたしが信じなきゃいけないのに。しっかりしないと。ところでさ、さっき話し
ていた人はまだ来ないの?」
「うーん。そろそろだと思うけど」
「――あ、いたいた。おーい綾人!」
直後、ファミレスの入り口がカランという音と共に開くと、元気で明るい声が聴こえた。
渋谷とかに居そうなオシャレな服装で登場したのは言うまでもなく綾人の友人の仙田 勝喜
だ。
「遅いよ。勝喜」
「わりぃわりぃ。部活が押しちゃって」
どうやらサッカー部が長引いた様子だ。清潔感ある服装から一旦家に帰ってシャワーでも浴
びたのだろう。綾人の隣に座る時にうっすらとシャンプーの良い香りが綾人の鼻をくすぐった。
「初めまして、仙田 勝喜って言いまーす。こいつの唯一の友だちです!」
元気よく敬礼しながら明るい声音を使って正面の鈴峰に自己紹介をした勝喜は、最後にいた
ずら心が込められた笑みで綾人を肘で突く。
「うっさいなー」
「へぇー。富田君ってボッチなんだ」
「別にいいだろう!」
顔を引きつらせて嫌そうな顔をくっきりと浮かべた綾人。
鈴峰も勝喜も冗談交じりに笑って、初対面が二人居るとは思えないスタートが切れた。
「わたしは鈴峰 美空。気軽に美空とか鈴峰とかって呼んでください」
「おけおけ。俺も勝喜とか仙田とかまあ何でもいいぜ」
まるでサラリーマンの名刺交換のように、けれど全く堅苦しくの無い自己紹介は、隣の綾人
からしたら到底理解出来ず、つい無意識に顔が歪んでしまう。
別次元の世界が一つの線を越えて時が流れている。そんな和気あいあいリア充キラキラオー
ラを遠目で見ていると少しだけ胃がキュルってなってもたれる。
「なんだよ。綾人。ムンクの叫びみたいな顔して」
「してないよ。てか知ってるんだ。勝喜、ムンクの叫び」
「俺をバカにすんな!」
冗談が含まれた怒りで綾人に怒る勝喜。
「にしても二人、馴染むの早くない?」と綾人。
「そうかな」ストローを通してジンジャーエールを一口喉に通した鈴峰は、「わたしと富田君も
結構馴染むの早かったと思うけど。最初に会った時はもっとこー、よそよそしかったというか、
そんな感じだったけど、二回目にしてこんな感じじゃん?」
自称頭が良いと言った鈴峰の今の言葉は言っちゃ悪いがバカっぽい。ゆるふわ系の言葉たち
に首を傾げたくなったけれど、綾人は何とか我慢する。
「まあ」
何とか言いたいことは伝わるので一言返事を。
「でもさ、富田君はすぐに視線を逸らすし、顔染めるし。仙田君と違って言葉のキャッチボー
ル下手だよね。本当はわたしももっと自分を出したかったんだよ、最初」




