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将来の夢はヒーローです。  作者: 死希
交差する夏
14/47

佐々木と千早

昼休みが終わるまでまだ時間はある。佐々木は千早を連れて外に出て校舎裏へと連れて行く。

 途中何人かから注目を浴びたけど、それは仕方のない事だ。一人は佐々木という女子の中で

も特に目立つわがまま姫で、もう一人はターゲットにされ、身体中をびしょ濡れにされた千早

なのだから。

 外に出るとグラウンドの方から男子たちの楽し気にはしゃいでいる声が鼓膜を揺らした。

 校舎裏は少し冷たい。校舎と校舎の間の道には太陽の光は一切当たらないし、人通りも少な

いから不気味な空気がより一層その場を冷たく仕上げている。


「とりあえずこれ」


 佐々木はパーカーのポケットからハンカチを取り出して千早に差し出した。


「これは」

「拭けよ」

「要りません」

「は? そんな恰好だと目立ってウザいんだけど。てか、午後の授業どうすんの? 教室をび

しょ濡れにして迷惑かけんの? それにあいつらに調子乗られんの嫌なんだけど」


 そう言った佐々木は千早の胸にハンカチを押し付けるように渡す。


「あなたもですか」


 千早はボソッと独り言のように小さな口を動かす。


「あ?」

「あの方もそうやって以前、私にハンカチを差し出してくれたので」

「あの方? あーどうせ富田だろ。はぁ」佐々木は頭を押さえて苛立ちを少しでも抑えるよう

に深いため息で誤魔化す。「どーせそん時も断ったんだろ。お前」

「はい」

「チッ。あんさ、そーゆ態度がムカつくんだよ、あんた。あの時もさ、何度話しかけても何一

つ変わらねー言葉言い続けて、何も自分を明かさないっつーか、何があるのか知らねーけど。

そう言うの失礼じゃね? こっちは仲良くしよーと思って話しかけてんのに、何一つ悟られな

いような話し方してさ」

「別に行為的にしている訳ではありません。私はこういった生き物なんです。それに仲良くし

よーとか、って結局そちらの自己満というか、考えですよね。一方的な。私は別に仲良くした

いとは思っていません。なので関わらなくていい――」

「いい加減にしろよッッ!!!!」


 バンっと重い音が壁を伝って周囲に響く。佐々木は鬼の形相で気付けば千早の胸倉を掴んで

壁に押し当てていた。

 ――ああ、またやってしまった。

 やってしまってからでは遅いけど、佐々木は少しの後悔を心の中で宿す。

 これは佐々木の悪い癖だ。カッとなったり調子に乗ったりしていると、暴力的な言葉という

か、相手を傷つけてしまう言葉がつい出てしまう。

 だからあの時もふいに出てしまった言葉に、今でも少し後悔が残っている。

 千早は顔を伏せているため表情は見えない。

 一度赤い感情が爆発してしまっては、理性でブレーキを掛ける事は出来ないものだ。佐々木

は溜めに溜めた内側の怒りを暴言という刃物で千早に畳みかける。


「そうやって人を拒絶すんのは、もういい。わたしもあんたが大っ嫌いだから。だからわたし

に対して舐めた態度取んのはいいよ。けど、あんたを好いてる奴にその態度を取るのはどうな

の!? 失礼過ぎじゃない? あんたがどうとか知らねーよ!! あんただけの事なら勝手にすれ

ばいい。けどさ、普通あんな態度を取る奴にしつこく声を掛けたり、心配してハンカチを渡し

たり有り得ないから! そう言う奴がいる事が幸せなことって気付かない訳? それをあんた

は今みたく、冷たくあしらって、余計なお世話で終わらすの? あんたが元々こういう奴だっ

たのか知らないけどさ、わたしから見たあんたはズルい奴にしか見えないわ。自分を隠して、

他人と関わる事に怯えている。それを守るために他人の善意とかそう言ったのを平気で蹴っ飛

ばして自分を守るのに徹する。あんたって『何も興味ない』みたいな顔してるけどさ、結局自

分のことしか考えてないのよ。それにさ、ヒーロー目指してんならもっと周りに気を使うとい

うか、変わった方がいいんじゃないの。マジであるのか知らないけどさ、ヒーローやっている

奴ってあんたみたいなやつばかりなの? んなんじゃ世界は――」


「違います!」


 佐々木の言葉をただ黙って聞いていた千早は終始地面に顔を沈めていたけれど、最後に言っ

た佐々木の言葉で歯を食いしばってグイッと顔を上げた。

 表情は慣れていない険しい顔。震えていて瞳に少し人間味を感じる。小さな口から吐き出さ

れた言葉は力強く、初めて、初めて感情の色が込められていた。


「ヒーローは、お父さんはカッコよくて優しくて。だから――」


 初めて見た千早の姿。その姿に圧倒され、動揺がわさわさと心を揺らして意識がどこか遠く

にあった佐々木は、やっと我に返る――同時に佐々木も下唇を噛んで、アクセルを踏み込んだ。


「ならさ、そういう風にならないと行けないんじゃないの!? あんたの父親とか知らないけど

さ、自分の中で確立したヒーロー像があるなら目指すのはそこなんじゃないの!?」


 佐々木はそう言って千早の胸倉を雑に払う。

 佐々木の言葉を最後に千早は、また顔を沈めてしまう。


「おい佐々木! と千早!? なにやって」


 驚きと動揺が混ざった声が突如耳に侵入する。佐々木はそちらをチラッと狼のような鋭い目

つきで睨む。

 そこに立っていたのは仙田 勝喜だ。

 多分、目撃されたのとか大声でのやり取りとかで、グラウンドにでも居た仙田が駆けつけて

来たのだろう。

 仙田は怒りの陰を感じさせる顔でこちらに走って来る。


「あ、ちょ!」


 仙田が近づいて来ると千早は逆方向に駆けて行く「っ!」そんな千早の最後の顔には涙があ

ったのを佐々木は見逃さなかった。


「千早!?」先程まで千早が居た場所で足を止めた仙田は千早を追う事はせず、ただその場で立

ち尽くしていた。けど、数秒経った辺りで攻撃的な視線を佐々木にぶつける。「お前、何した?」

「何も」


 仙田は復讐者みたいなとても怖い顔で佐々木に問う。けど佐々木は怯みとか恐れとか一切な

く適当に答えるように口にした。


「んなわけねーだろ!! これはなんだよ!」


 仙田は真下を睨んで訴えかける。

 千早が立っていた場所はびしょ濡れであり、それは千早の状態を示す証明となるモノだった。

 仙田が言いたいのは、『なんで千早が濡れているんだ』という事だろう。

 普通の人なら、この状況とその相手を見て辿り着く答えは一つしかない。


「は? わたしがあいつにやったって言うの?」

「そうだよ。前もびしょ濡れだったぞ。そんなに楽しいかよ。弱い者いじめは!」

「っふ」佐々木はバカにするように鼻で笑った。「んなくだらないこと私がする訳無いでしょ」

「だったら誰がやったんだよ!」

「普通に分かるでしょ。少し考えれば。夏樹に彩に志保。まあそこら辺」

「お前のグループじゃねーか!」

「元、ね」

「元?」

「あー、もうめんどいわ。別にわたしがやったって思うならそれでいいわ。じゃあ昼休みも終

わるし、じゃ」

「おい、待てよ。お前さ、このままだと痛い目見んぞ?」


 佐々木の背中に語り掛けるように仙田は言葉を飛ばす。佐々木はビクッと足を止めて、横目

で仙田を睨む。


「は?」

「女子たちを引き連れて、嫌いな奴には酷い事やって。お前裏で何て呼ばれているか知ってる

か? 『わがまま姫』って呼ばれてんだぞ。このまま好き勝手に嫌いな奴を虐めてるといつか

自分に返ってくんぞ」

「っふ。なに、心配してくれてるの?」


 からかうように少し口角を上げた佐々木に仙田は、


「そんなんじゃねーよ。ただ――」

「勝手に決めつけとけばいいよ。わがまま姫っか。まあ傍から見たらそういう風に見えると思

うし、ううん。そうだと決めつけるわよね」

「何言ってるんだ」

「別に」


 その一言だけを残して佐々木は校舎裏を去って行く。

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