佐々木
何もかもウザったい。
今にでもこんな腐った環境をぶっ壊してやりたい。もしくは退学したい。けど、そんな事両
親が許すわけないし、一人で何でもかんでも出来るような力はない。人望も今は無い。違う、
元々無かった。ただ、知らないうちに恐怖で好かれていただけだ。
佐々木 志穂梨は自分の手で美しく輝くネイルを見ながら真反対の席に視線を送る。そこに
はクラスで地味な名前はえーっと、富田。そう、富田と、常にクラスの中心人物である仙田 勝
喜とそして転校して来たあの女が居る。
何かを二人は楽しそうに話しているけど、あの女はいつものようにつまらなさそうに何の感
情も無い顔で聞いている。そもそもちゃんと話を聞いているのさえ怪しい。
やがてチャイムが鳴って、仙田が席に戻って二人で会話が進む。地味な富田が何かを必死に
訴えかけているようだ。
富田をあまり知らないけど、最近佐々木の中では存在感ある一人だ。
言うまでもないが佐々木は千早が嫌いだ。
故に千早の性格を除いても完全に孤立している。
孤立した千早にただ一人、声を掛けていたのが富田だ。学校以外でも会っているのか、一方
的だが、日に日に会話するシーンを見る事が多い。それに、
佐々木は横目で一つの女子グループを視界に捉える。そのグループは気色の悪い笑みで千早
の方を見て笑っている。
「くだらな」
佐々木は小声で冷たく突き放すように言葉を吐く。
それに、今のクラス環境は最悪だ。きっかけは言うまでもなく佐々木。自覚はある。
クラス環境最悪の中でもあーやって声を掛けられるのはある意味度胸が据わっていると言っ
てもいい。だから少しだけ富田という人間を見る目が佐々木は変わっていた。
一方。あの女はなんだ。いつも何を考えているか判らない転校初日のあの顔で、感謝とか、
自分の周りにいる人たちの有難みとか。何一つ気付いていない。そんな姿を見ていると無性に
お腹辺りが熱くなって、気付くと貧乏ゆすりが止まらなくなっていた。
やっぱあいつ嫌いだわ。
千早から目を逸らした佐々木は小さなため息を零して、体内に溜まる今日の天気のようなモ
ヤモヤを解消する為に舌打ちをした。
昼休みは四十五分あり、その間なら外食も許されているうちの学校。
高校三年にもなれば一緒に食べる連中や、場所も決まって来るだろう。
けど、佐々木は一人だ。昼になったら人数が減る教室で黙々と一人で食べている。
「トイレ行こ」
お弁当箱をしまい、席を立った佐々木はパーカーに手を入れてトイレに向かう。
「いたっ!」
佐々木がトイレに入るため曲がると肩に何かの衝撃が走って一歩後ろに後ずさる。平均より
も少し身長の高い佐々木は見下ろすようにそれを見た。
女子が四人。みんな知っている顔。佐々木は顔が広い為、ある程度の地位に就いている女子
の顔は知っている。なのでトイレから不敵な笑みを零して出てきた四人の女子の名前はすぐに
頭に出てきた。
「志穂梨」
四人のうち二人が佐々木の名前を呼ぶ。その顔は困り顔というか、しまったと言わんばかり
の表情だ。
「なに?」
威圧するような低い声で佐々木は答える。佐々木の瞳は肉食獣のような鋭さがあって、目が
合った二人の女子はビクンっと氷のように固まってしまう。
「ほら行くよ」
違う女子がそう言って二人の肩を掴み、佐々木の後ろを駆けて行く。
「まだ、んなことやってんのかよ。くだらな」
ボソッと聞こえるか聞こえないかの狭間の声で本音を零した佐々木の背後で舌打ちが聴こえ
る。どうやら佐々木の言葉が聞こえたようだ。
まあ、あんな奴らどうでも良いか。
そう思った佐々木は再び視線をトイレの方向に戻して歩き出す。
中は桃色を基本とした色合いで清潔感のある小さな空間だ、普段は。けど今日は違う。とい
うよりも綺麗な時を見かける方がここ最近では珍しい。
三学年で圧倒的にいじめが多いのは三年生なのだから。
佐々木は視線を地面に落とす。一つの個室から大量の水が床を濡らしている。
こういった光景を最近よく見る。
個室が開いた。
佐々木は険しい顔で眉を顰める。考えなくても誰が出て来るか容易に想像出来てしまう。
何事も無かったように顔を向けて出てきたのは佐々木のクラスの転校生。千早 何とかだ。
表情も変わらず、決められたデータ通りに動く機械のような淡々とした姿を見ているとつい
数分前に起きたであろう出来事がなかったように思える。
千早は一瞬鏡を横目で確認して佐々木の横を通り過ぎようとするが。
佐々木はそれを許さなかった。長く綺麗な足を反対側の壁に着けて千早の進行方向を阻止す
る。
「何ですか」
千早の口調は転校初日のように冷たく、人を寄せつけない声音であった。
「ちょっと、面貸しなさいよ。話があるの」
佐々木も千早に負けない程の冷たい声音で言う。一つ違いを挙げるなら佐々木の言葉には紛
れもない攻撃的で尖った感情が込められているという事だ。




