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将来の夢はヒーローです。  作者: 死希
交差する夏
12/47

強引な約束


 耳を澄ませば小鳥のさえずりが――という季節はとっくに終わりを迎えて、耳を澄ませばセ

ミさんのうるさくうるさすぎる、ミンミン地獄で毎朝起こされる日々。

 今日も暑さによる度重なる起床と、セミという最悪のアラームによって最高に機嫌が悪く起

きた綾人は、暑さでやられた重い身体を引きずるように学校に向かった。

 席に着くとナメクジのように机にくっつく。


「暑い、暑すぎる」


 窓側の席ということもあり、太陽の洗礼を直に受けて今にも蒸発してしまいそうだ。

 隣の席から人の気配を感じ、視線を上げると、千早が席に着いていた。

 気付くと夏服になっており、スカートの柄も変わり新鮮さというか、見慣れないその恰好に

何故だか心拍数が上がって、しばらく千早から視線が外せなかった。


「おはようございます」


 暑さにやられている綾人を気持ち悪いと思ったのか、千早から挨拶してくれた。

 見惚れていた綾人は二秒ぐらいの間を挟んでから、慌てふためき、勢いで席を立ちあがって

大きな声で、「おはようございます!!」犬が吠えるように言ってしまう。

 綾人の大声でクラスから注目を浴びてしまうが、その後特に面白いことをする訳では無いの

で、すぐに注目は散っていく。

 耳を真っ赤にして、穴があったら入りたい気持ちを抱いて自分の腕で顔を隠す。


「おっはー! って、何お前。スライムにでも転職したの?」


 朝練を終えて土を頬に付けた勝喜が、綾人の席の前に立つ。


「いや、暑いから」

「あちぃけど、まだ余裕だろ。これからだぞ、暑くなんの」

「余裕じゃないよ。勝喜の場合は外いる時間多いもんね。そんな元気、俺も欲しいよ」

「お前はインドアすぎんだよ。一緒に公園でも走るか?」

「パスします」


 綾人はあまり運動が得意でないため、体育の授業以外に息を切らすような運動はしない。一

方勝喜は毎日毎日、特に勝喜にとっては最後の大会も近い事から現在サッカー部は過去最高の

練習量をこなし、綾人と勝喜で体力差は天と地ほど開いている。


「俺は暑さよりも、テストが嫌なんだけど」

「言うなよ~、それ言うなよ~!」


 ただでさえ暑さとセミによって毎日が嫌でモチベーションが落ちている時のテスト発言は絶

対に禁句だ。

 その言葉を聞いてより綾人はため息を零す回数が増える。

 ため息のつき過ぎで綾人にはきっと、幸せが欠片ぐらいしか残っていないだろう。


「別にお前はいいじゃんか。そこそこ頭良いんだし。問題は俺だよ。部活で忙しいし、そもそ

もあんま頭良くねーからさ、俺。ここも部活推薦みたいなもんだし、マジヤバいって」


「なにそれ。遠回しの自慢?」


 綾人は顎を机に着けたままボソッと死んだ魚の目で睨む。


「ちがわい! マジでやばいんだって! 今回のテストって成績も大きく関わって来るし、

後々の事を考えるとマジでやらねーと。そうだ、一緒にテスト勉強しようぜ!」


 勝喜は思いついた! と言わんばかりに顔のパーツを上げて目を光らせる。


「勝喜、部活で忙しいでしょ?」

「そこは気合い!」


 力の入った腕を見せつけて来た勝喜はニコッと不安を感じさせない笑みで根性論を唱える。

本人が言うのだ。多分大丈夫なんだろう。


「いいよ。いつからする?」

「今日! 部活後、綾人の家、集合~!」

「今日!? また唐突だな。いいけどさ」

「なら決まりな。あ、千早さんも来る?」

「ちょ――!?」


 何を言っている、この男!? 

 まさか過ぎる発言に綾人はまた席を立ちあがってそのまま凍ってしまった。

 冗談だと解っていても心臓に悪い。


「遠慮します」


 勝喜のコミュ力には毎回驚かされているので、今回は綾人も頑張って見る事にして、話題を

振って見る。


「もうテスト勉強してるの、千早さんは?」

「はい」

「そっか。やっぱりこの時期にはもうしてんだな」と勝喜。

「まあ二週間前だしね。そろそろする人も多いんじゃないかな」と綾人。

「そう言えば千早って頭良い方なの?」


 勝喜の言葉に綾人も注目する。千早は言うまでもないが未知だ。最近その背景を少しだけ知

りつつあるが、やはり普通の人と比べると未知の部分は多い。鈴峰とのチャットも続いており、

気付けば千早について考える時間が増えている為、少しでも千早の事を知りたいと思っていた。


「普通かと」

「絶対頭いい奴だ! 普通っていう奴が一番頭良い論が以前学会で発表されてたぞ、千早!」


 どこかの名探偵小僧のような、名推理をお披露目して人差指で千早を指さすドヤ勝喜。

 勝喜の自分のペースに巻き込むトークは一種の才能であろう。


「そうですかね。分かりませんが」


 千早も独特のペースを持っているので、埃のように軽い綾人と違って勝喜のペースには乗せ

られないようだ。綾人も少しは参考にしないと、と二人のやり取りに注視する。


「なら、今度のテストこの三人で勝負しよーぜ! 一位の奴の言う事を何でも一つ聞くって言

うのはどうだ! もちろん変なのは無しで!」

「絶対、勝喜に勝ち目ないじゃん」

「わかんねーだろ! お前から勉強を教わって師匠を越える弟子という少年漫画に熱い展開を

俺が披露してやるよ!」

「はいはい。そりゃあ楽しみだーー」


 感情の込められていない言葉を口にする綾人。

 二人の会話を静かに聞いていた千早は、場を壊さない為か、話すタイミングを伺っていたの

か、発言権を得るために小さく手を挙げている。


「どうしたの、千早さん」

「私はやるとは言ってません。なので――」

「まあ、まあ。そう言うなって。ほら、これも思い出的な? 最後の一年は青春しねーとな?」

「そ、そうだよ! これを気に仲良くなれるし、ね?」


 綾人も見ているだけじゃなく一歩勇気を振り絞って見る。


「いや――」


 いいタイミングでチャイムが鳴る。千早の小さな声はチャイムによってかき消され、その後

に言い直そうとした千早の言葉を聞く前に勝喜が、強引に「よろしくな!」とその言葉を置い

て走って自分の席に戻っていく。

 小さくため息を零した千早を横目に少しの罪悪感を覚える。

 だけど綾人から言及する事は辞める。明らか強引であったが、勝喜をきっかけに少しずつ千

早との関係に変化が起こり始めている。

 千早の本心は解らないけど、誰とも絡まない千早の状況が変わりつつあるのは良い事だと信

じたい。

 綾人の脳裏には以前鈴峰から見せてもらった笑顔溢れる千早が居た。夢を見ているかも知れ

ない。偽善とか、自己満だとか言われるかも知れないけど、綾人はいつからか昔の千早を見て

見たい。戻って欲しいと願っていた自分が居る事に気付く。


「あの、すいません。私」


 まあそう来るわな。勝喜が消えた今、隣の綾人に訴えかけて来るのは当たり前だ。

「悪気はないんだ。それに少し楽しそうだしさ、やって見ない? もちろん本当に嫌なら強制

はしないけど。でもでも息抜きにというか、物は試しというか。やって見れば新しい世界が見

えて来るかもしれないし、そこに山があるから登る登山家がいるように――あっ! いずれヒ

ーローになった時に役立つ事とかあるかも知れないし、えっと、えっと――」

 綾人は何とかこのチャンスを物にしたくてとにかく喋った。喋るに喋り倒した。内容はとも

かくここ一年で一番頭を回転させたと言っても良い。

 内容は意味不明であろうが、そんな事を考える余裕はなかった。

 綾人の頑張りを見てなのか、気まぐれなのかは解らないが、千早は綾人の哀れな奮闘を見て

一度深い息をつき、


「分かりました」と一言。

「本当!?」

「その代わり、私が一番になった時の願いは、『金輪際、私に関わらない』と言う事でよろしい

でしょうか」


 冷たい眼差しが綾人の心をぶっ刺す。心臓が張り裂けそうに痛くなる。氷のように冷たい眼

差しに殺されるような恐怖を綾人は覚える。

 同時にショックだった。千早はそこまで人と関わりたくないのかって。

 茨道の先にいるように誰にも近寄らせない絶対的な距離をいつも千早は作っている。


「……」


 綾人の言葉が止まる。千早は以降、口を開かないでただ冷たい瞳で綾人を見ているだけ。

 だから言ってやった。意地もあったけど、試されている気がしてギュッとズボンを握りしめ、

綾人は言ってやったんだ。

「わ、分かった。それでいい。負けないからね、千早さん」

 こうして今後の千早との関係を掛けたテスト勝負が始まった。

 綾人たちのやり取りを真反対の席からつまらなそうに佐々木は見ていた。

本日はここまでです。

連投申し訳ないです。

こちらは既に完結済みの作品ですが、現在執筆中の終末のダンジョンもよろしくお願いします。

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