交差していく三人
「おっ! やっぱり居た!!! 千早! 綾人ォ!」
突然、公園の入り口からその声は聴こえる。そちらに目を送ると、バッグを背負った勝喜が
大きく手を振ってこちらに向かっている。
「勝喜? あれ、部活は?」
「うん? サボった。ハハハ!」
「は!? 何で、どうして?」
「そうだ! 千早、大丈夫か? 何か後輩がびしょ濡れの美少女の後を追う冴えない男を見ま
した。って言うから、これはもしかして……って思って来たんだけど」
ニコッと、綾人をからかう口ぶりで話す勝喜はどうも楽しそうだ。笑顔の勝喜が部活をサボ
った理由は嬉しいような、ダメだろ。という気持ちで何か複雑だ。
勝喜はすぐさま綾人から千早に視線を移す。外の温度が暖かい事もあり、千早の身体はだい
ぶ乾いているけど、まだ濡れている部分はあるしバッグはぐしょぐしょだ。
「はい」
「全然大したことあるじゃんかよ! これって佐々木か?」
大きなため息を零した勝喜は、視線で綾人に問う。綾人は、「違うらしい」と言う。
「あなたたちには大したことかも知れませんが、私にとっては特に大きなことではありません」
冷たく突き放す言い方であった。
「いーや。ダメだ!」勝喜は千早の肩を掴んで、「自分の身体なんだからもっと大切にしねーと
ダメだろ。こういう事の積み重ねで大きな病気とかになるかも知れねーし、そしたら夢だって
叶わない可能性があるだろ。それに粗末にしてたら、腹痛めて産んでくれたお母さんが泣くぞ?」
勝喜の言葉に一瞬、ピクリと身体を固めた千早。
「まああれだ。例え大丈夫だとしても身体は大丈夫じゃないって言うしな。うん」
「そんな事言うっけ?」勝喜の言葉に眉を顰める綾人。
「言う! 偉大な仙田 勝喜様が今作った名言だからな!」
腰に手を当ててガッハッハと笑う勝喜に、なんだよそれ、と心の中でツッコミを入れる綾人。
「千早もびしょ濡れになるよりも普通の方がいいだろ? だから嫌じゃなくても常識的に考え
てヤバイのは綾人とか、俺に相談してくれよ……あ、別に友達面をしたいんじゃなくて他に最
適な奴がいるならソイツでもいいと思うぞ!」
心配そうにけれど真っすぐ瞳を見て言う勝喜は正直カッコよかった。自分が言い切れなかっ
た言葉をすんなり言ってしまう辺り、勝喜が人気者と呼ばれる由縁が垣間見える。
「……はい。分かりました。では、今日はヒーローの練習があるので。これで」
勝喜に冷めた目で言う千早は、近寄れない雰囲気を纏ってバッグからいつものセットを取り
出した。
「お、そっか。じゃあ行くか、綾人」
「そうだね。またね千早さん」
「じゃーまたな!」
綾人はバッグを背負って勝喜と共に千早に手を振るが、既に千早は背中を向けていつもの練
習を始めていた。
「てか、部活サボって平気なのかよ。最後の大会だって近いんじゃないのかよ」
「まあ平気じゃねーけど。でも、クラスの状況もあんなだし、何よりクラスメイトがいじめら
れたって知ったら行く以外無くね?」
勝喜は頭の後ろで腕を組んで平然と言い切った。こんな事を言い切れるのは勝喜だけだろう。
綾人には出来ない事、持っていないモノを全て持っている勝喜が時折羨ましく思ってしまう。
「てかよ、千早の両親何かあったのか?」
「え」
「何かさっき母親の事を言ったら一瞬だけ空気変わったからさ」
どうやら勝喜は何かを感じ取ったようだ。
「どうだろ。全然気づかなかったけど」
「ふーん、そっか」
のぞき込むように綾人に視線を向けている勝喜。綾人は悟られないようにぎこちない笑みで
耐え忍んでいる。
「なあ、この後飯食いに行かね? 近くに穴場のラーメン屋があんだよ!」
「そうなの? 別にいいけど」
「うっし。行くか。綾人、ジャンケン――ぽい」
「ポイ?」
「はい、俺の勝ち! ごちそうさまで~す!」
手を合わせて深すぎるお辞儀を勝喜は見せる。拒否権を奪うような圧倒的な空気を纏って。
「は、いやいや聞いてないから!」
「だって言ってねーもん。勝負師はいつ何時も勝負の事を忘れるな。これ俺の名言だから覚え
とけ~」
勝喜は最後に子供のような笑みを浮かべて先に走っていく。
「ちょ、待てよ勝喜。俺、勝負師でもないんだけど!!」
結局、次回奢ってもらうということで、今回は綾人が奢った。




