4.連れてこられましたよ?(改行修正済)
わたしは現在同僚のシルヴィアと銀河維持計画の要の一つである宇宙船の建造の最終チェック作業を行っている。
そんな作業をしている中、突然ファセット様から連絡が入った。
「サリナ、至急医療ポッドの準備を!」
「ファセット様、急にどうしたんですか?」
「小さき子が瀕死の重傷なのです!」
「小さき子って、例の計画のですか?え、なんでまたそんな事に?」
小さき子とは、その存在能力のすごさを見出し、10年ほど前からファセット様が目をつけている未開惑星に住む一人の少女の事だろう。
「いいから早く医療ポッドの準備を!準備出来次第転送します」
「え、転送って……わ、わかりました、すぐに医療室に移動しますね」
そう返事をしつつ、私は医療室へ向かうと同時に同僚のシルヴィアに声をかける。
「シルヴィア、急いで医療室に……」
と声を掛けたが、シルヴィアはすでに部屋から出ていくところだった。
「先に行く」
愛想のない同僚からは簡潔な返事が返ってきた。
「ファセット様、医療室につきました。至急医療ポッド起動します」
「では直接医療ポッドに転送しますので、転送終了次第治療を開始してください」
ファセット様の宣言と同時に医療ポッドの上に血だらけの少女が転送されてきた。
こんな小さい子がこんなに血が出るような怪我を首に負うなんて、一体何があったのだろうか?
「緊急治療開始、治療液注入と同時に洗浄も開始」
モニターを確認している間にシルヴィアが医療ポッドを操作し、治療を開始してくれた。
「こんな小さな子が首を切られて瀕死の状態って、いったい何があったの……」
そういうシルヴィアの顔はすごく悲しそうだ。
この子は滅多に表情が変わらないが、ひどく感情を揺さぶられた時は表情に出てしまう。
「とりあえず、あとは医療ポッドに任せるしかないわね」
この医療ポッドは薬液に満たされると患部を自動で検知し、治療を行ってくれる。このまま機械に任せておけば大丈夫だろう。
そのまま10分ほど経つと、首の傷の縫合が終わったようだ。
「とりあえずはこれで一安心かな?」
後はこのまま治療液に入れていれば十日ほどで傷口が完全にふさがり傷跡も残らず完治するだろう。
「今のうちにマニピュレータを使って衣服を排除しよう」
「そうね、服を着せたままというのもあまり良くないわね」
そしてマニピュレータを操作して衣服を切り裂き、ぼろきれとなった衣服をポッドから取り出したのだが、少女の体を見ると金属製と思われるT字状のパンツを履いていた。
「このパンツ、金属でできてる。素材としてはそれなりに固いけど、どうする?マニピュレータでこれを切るのは無理。というか、なぜこんな素材の下着を?」
「たしかにマニピュレータでこれを切って外すのは無理ね、とりあえず保留かな?材質的にも対溶解性、腐食性の観点で見て最低限の医療用レベルはあるみたいだし、当面の治療に問題は無いわ」
なんだろう?なぜこの子はこんな金属製のパンツを履いているの?こういうのがはやっている文化なの?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
少女を医療ポッドに入れてから三日が経過した。
少女の治療の様子を見るため、ファセット、サリナ、シルヴィアの三人は医療室に集まっていた。
「小さき子の状態はどうですか?」
「とりあえず無事峠は越しましたね。あとは傷口が完全にふさがるのを待てば医療ポッドから出しても大丈夫だと思いますよ」
「あら、貞操帯は着けたままなのですね」
ファセット様がそう言うと、わたしは少女の股間に着けられたT字状の金属製のパンツを見て
「あ、それ貞操帯というのですか?マニピュレーターじゃ外すのは無理だったのでそのままにしてあります。治療への影響も特にない様でしたし、この子を医療ポッドから出すまでそのままでも大丈夫と判断しました」
「そうですね。外すために途中で治療を一度止めて悪化してもよくないですし、終わるまでこのままにしましょう」
「ところで、このパンツ、貞操帯ですか?かなり頑丈みたいですけど、この子のいた所ではこういうパンツがはやってるんですか?」
疑問に思った事をファセット様に聞いてみると
「なんでも、過去異性に襲われかけて貞操の危機に陥って精神的にかなり参っていたようでね。そこでその貞操帯をつける事によって物理的に保護したようです。そして、物理的に保護したことにより、常に自分の体は護られているという事を実感して精神的にもある程度安定したようですよ。それをつける前は近くに男性が近寄ると呼吸困難を起こしたりといろいろ大変だったとか」
「そんな事情があったんですね。でも、こっちだとちょっとした工具があればすぐはずせちゃいますよね?」
と見た感じではあるが貞操帯についての問題点を伝えてみた。
「そうですね。向こうの世界ではこれでもそれなりに頑丈なようですが、こちらではそうではないですね。では、わたしが代わりになるものを用意してプレゼントしましょう。さて、体調も安定してきているようですし、今のうちに加護も与えてルースを発現させてしまいましょうか。潜在的素質が高いことは判っているのですが、それがどこまでかは実際に加護を与えてみないと判らないですからね」
「でもファセット様、この子まだかなり幼いみたいですけど、こんな幼いうちから加護を与えちゃっていいんですか?」
「この子、幼いように見えますけどこれでも銀河標準歴ですでに11歳ですよ?」
「え?どう見てもまだ7~8歳位にしか見えないですよ?」
もしかして、ちゃんとご飯食べていなかったのだろうか?目が覚めたら美味しい物をいっぱい食べさせてあげよう。
「この子のいた星はこちらに比べると成長が遅い様でね。しかも成人した後もこちらよりも若干小柄なのですよ。そしてなにより、この子自体がその中でも特に小さい様ですね」
「へぇ~、ある意味特異点的存在ってわけですか?」
「そうですね、肉体的にも小さいという事で特異点的存在。そしてルースへの適応性についても、まれにみる適応性を持つ特異点的存在という事ですね」
なるほど、いろんな面において特別な子ってわけね。
「もしかして、肉体が小さい事と適応性が高いことに何か関連性が?」
「全くないですね、むしろ他の人達はこちらの人達と比べても潜在能力は低いようですよ。ただ、その中でも幾人かはそれなりに潜在能力が高そうな人いたので、平均は低いけれども、特異的存在が出やすい種族なのかもしれないですね」
「あー、周りが低い分、一部の人に集まっちゃう的な?」
たまたま特異点的なこの子に集中したという事かな?
そんな事を思いつつ、少女に手をかざして加護を直接与えるファセット様の様子を見ていた。
「そんな感じですね。っと、これでいいでしょう。あとは本星でしばらく暮らしていればすぐに成長してくれるでしょう」
「ですねー、さて、それじゃ私は船の内装の続きをやっておきますね」
「あ、内装についてなのですが、この子は足が悪いので……」
「浮遊椅子での移動をメインにした設計、ですよね?大丈夫ですよ、事前に聞いていたのでちゃーんと考えて設計していますから」
そう、この子は生まれた時から両足が不自由で、元居た所での治療はもとより、こちらでも治療が不可能な状態なのだ。
なので浮遊椅子を使わなければ自分でまともに移動が出来ないと聞いている。
「そうですか、それは良かったです。あぁ、サリナかシルヴィアのどちらかは常に側についていてあげて下さいね。なにかあったらすぐ対処できるように」
「大丈夫、私がここに仕事を持ち込んで常に見ているから」
大丈夫とか言ってるけど、ここの所おちびちゃんの所に詰めっぱなしよね?倒れないか心配だわ。
「シルヴィア、あなたこの三日間ほとんど休んでないでしょう?ちゃんと休まなければだめよ?」
「まだまだいける。どうしてもだめそうな時だけサリナにお願いする。それ以外はわたしが常に見ている」
「はぁ、まぁいいけど。見てるだけじゃなくて仕事もちゃんとしてね?この子の乗る船なんだから」
「その辺はちゃんとやってる」
「ファセット様も、ちゃんと休んでくださいね?おちびちゃんを転送した影響がまだ治ってないですよね?」
「私の場合は、けがや病気と言う訳ではないので大丈夫ですよ?」
「でも、かなり辛そうですよ?顔色もあまり良くないですし」
「まぁ、ため込んでいた力のほとんどを使い切ってしまいましたからね」
「物の転送ならまだしも、生きてる人をあれだけの距離転送したんですから、無茶が過ぎますよ!」
「そうは言っても、あの場はああするしか小さき子を救うすべはなかったわけですし」
「それは判りますけどね。少しでも休んで力を取り戻して体調を治してください」
「それじゃ、お言葉に甘えて寝させてもらいますね」
その後、ファセット様は休憩をとるために別室に行ったため、私とシルヴィアは治療室でおちびちゃんの状態を見つつ仕事をしているのだが……
「サリナ、ここの装甲なんだけど、もう少し強度を上げた方がいいと思う」
「それは設計段階でも言ったけど、これ以上強度を上げるには重量がかなり嵩んじゃうって言ったじゃない。出力と重量のバランスから割り出した結果、今の装甲の値が最適値って何度も計算したでしょ?」
「でもやっぱりもっと安全性を上げた方が……」
「もう、実際におちびちゃんを見るまではあなたもこの数値で納得していた所か、過剰気味だって言ってた位なのに」
「そうだけど、できるならもっと安全性を」
「そもそも、現状でも並大抵の攻撃でどうこうなるような設計じゃないんだから、あとは速度を出せる方が重要じゃない?重くなればそれだけワープ距離も短くなるし、最高速度も低くなるのよ?」
「逃げるが勝ち……そうね、そういう事ね」
「いやいや、そもそもこの船でそこいらの艦隊と対峙しても負けるというイメージがわかないんだけど?あなた本当にどうしたのよ。それじゃまるで過保護なお母さんみたいよ?」
「お母さん……それも悪くないけど、狙うは頼れるお姉さんポジション」
おちびちゃんを見てからのシルヴィアの反応を見るに、種族特性である誰かを護りたいという感情を刺激されちゃったのかな?
この様子だと近い内におちびちゃんを主として誓いを立てそうね。
もっとも、私もおちびちゃんには母性本能が刺激されて何かと面倒見てあげたくなっちゃうのよね。
シルヴィアが誓いを立てるなら、わたしも一緒に立てちゃおうかしら?
どうせ今までシルヴィアとコンビを組んでやってきたんだし、今後も一緒にやっていくのがこの子なら気心も知れていて良いわよね。
「はぁ、まあいいけどね。私もあなたもおちびちゃんのサポート兼ボディガードとして今後は常に側についている予定だから、仲が良いに越したことはないしね」
「じゃぁ、装甲はこれでいい。つぎに生活区のここなんだけど……」
「そこは…………」
その後も、すでに設計どころか製造まで終わっている部分についての改修案までがシルヴィアから出され、それらへの対応に苦労するサリナであった。