35.海賊を突き出しましたよ?
先日捕まえた海賊と、保険金詐欺を働こうとした依頼主についてですが
銀河標準法という宇宙空間における統一の法律があるらしくてそれで裁かれるようです。
で、私の方には海賊討伐による賞金と、依頼については依頼達成報酬の代わりに依頼主側からの違約金としてがっぽり報酬がいただけました!
さらに冒険者組合の方からも依頼のチェックが甘かったという事で口止め料込みで慰謝料をいただきました。
もちろん貢献度も多めにもらえたのですが、すでに金ランクですしね、ここからはランクが下がらない程度に貢献度を稼げばいいので気が楽ですよ。
さて、お姉ちゃんからは着物の宣伝もかねて、常に宇宙に出ているんじゃなくて宇宙ステーション内にもなるべく顔を出すように言われているのですけどね、私は一部の没入型端末を使っている人とは違って通常端末なので、動き回るにもアバターの移動方向を指定して動かすだけなのでどうしたものでしょうか。
え?没入型端末って何かって?
あれですよ、日本の創作物でよくあった完全没入型端末と言って、本人はベッドの上で寝ていて、意識だけでキャラクターをまるで自分の体のように動かすあれです。
こちらでもその技術は開発されているようでね、存在するのですよ。
日本の創作物だと、頭にチップを埋めるとか、首の後ろにコネクターを接続するとか、ヘルメットをかぶって電磁波でとかありましたが、こちらでは方式が違います。
こちらではなんとルースに機械を接続しまして、ルースを介して情報のやり取りをするんだそうです。
ただ、体の安全を考えて基本的には専用のカプセルと言いますか、蓋つきのベッドのようなものがありましてその中に寝てやるそうです。
まぁ、私は宇宙船の操縦メインなのでね、没入型を使う必要性を感じていないのですよ。
あ、冒険者組合員の中の人たちなんかのアバターメインで動かしている人達は没入型端末を使っているらしいですよ?だからあそこまで表情やら動きが人と変わらないレベルで滑らかなんですねー。
ちなみにどっちが良いかについてですが、宇宙船の操縦だけでみると、3Dコントローラを使う人やリアル側でも宇宙船の操縦をする人たちのほとんどは通常端末を使うそうです。
そして、それ以外の人や宇宙ステーションでもアバター同士のやり取りを楽しみたい人なんかは没入型を使うそうで、人によっては宇宙船の操縦は通常端末、船から降りたら没入型と使い分けている人もいるそうです。
後余談なのですが、このゲーム用に作ったアバターはどうやら他のネット関係でも共通で使用可能なんだそうです。
むしろ、ごく一部を除き一つのアバターを全てのネット上で使いまわすのが普通なんだそうです。
「そうと分かっていたらもっとナイスなバディーのアバターにしたのにーーーっ」
と言った所、どうやら没入型で操作する場合、本来の体型とかけ離れたものを操作すると色々問題が発生することが多い様で、作成可能なアバターは本来の体型からそれほど離れた物には出来ないとか。
あと、一部のソフトについては、未成年の没入型端末でのプレイを禁止しているものもあるそうです。
もっともイベント用に巨大なアバター(某ウルトラな人たちとかのアバターも作成可能って事ですかね?)や人型から離れた物を作成して操作するという事も可能らしいのですが、そういう特殊アバターを操作するにはそれ専用の免許があるそうです。
ちなみに、子供の頃に作ったアバターなんかは成長とともにかけ離れていくのでは?と聞いたところ、定期的に体型データをチェックしてアバター自身もそれに合わせて更新されるそうです。
思えば私も月に一回の定期検診を受けていますしね、今後の成長に期待ですね!(数値に変化が無いのは気のせい…気のせい……)
あと、こちらでは遠い所にいる知り合いなんかとは、VR空間で会ってお話したり遊んだりと、日本でいうTV電話的な使い方も普通にされているようで、そのためにリアルと体型を変えたりするのはその変えた所にコンプレックスを持っていると伝えるようなものらしく、あまりお勧めされていないようです。
変に見栄張って変えなくてよかったですよー。
この話を聞いてゲーム内でも変装とかする必要が無いと知った時にはもうね、今まで身バレを気にしていた私は何だったのかと小一時間ほど問い詰めたくなりました。
そうなんです、こっちのネット世界では身バレ上等どころか、身バレするのが普通だったのです。
個人情報がネット上で公開されている訳では無いですが、ネットに接続するアカウントに関しては偽造もなりすましも出来ない仕様ですしね、ネット世界も現実世界も区別が無いとまでは言いませんがその差がすごく少ないんですね。
あ、偽造もなりすましも出来ないとはいえ、こちらでも匿名掲示板のようなものはきちんと存在しているようですよ?
海賊の報奨金などをもらった後は、ゲームでは無難な依頼をこなしつつ1日数回タイムアタックを楽しみ、お勉強は今までのに加えて個人端末内にため込んでいる情報をいかに効率よく検索するかという事も行うようになりました。
この目的とする情報をいかに効率よく取り出すかなのですが、もともと習った授業内容に関しては自分なりに索引のようなものを作成した上、重要と思われるところは赤ペンでマークするようにマーキングしていたので特に問題なく行うことが出来ました。
そのやり方について、こちらの世界での一般的なやり方と比べてもかなり効率の良い方法だとほめてもらえました。
私は褒められて伸びる子なのでね、もっと褒めてくれてもいいのよ?(むふー)
そうしてゲームで着物デビューしてから二週間ほどたったある日の午後、とうとう私をモデルにして着物の撮影をすることになりました。
実は私、こちらに来てリアルでまともに会った人ってお姉ちゃん、サリナさん、シルヴィアさんの三人しかいないのですよね。
他にも何人かの使用人っぽい女性の姿を屋敷内で見かけた事はあるのですが、会話はした事が無いのでこれから会う人にきちんと私の銀河標準語が通用するか不安ですごく緊張していました。
撮影する場所はどうやらお姉ちゃんのお屋敷にある一室を撮影スタジオ風に改造したらしくそこで行うとの事でした。
今日着るのは全部で5着で、うち4着は今まで来たことのある着物なのですが最後の1着がなんと白無垢なのです!
結婚前にウェディングドレスを着ると今期を逃すと言いますが、白無垢は大丈夫でしたっけ?
もっとも、将来的にも男の人とどうこうなるつもりは全くないので婚期を逃すとか私には関係ないですけどね!
撮影についてなのですがどうやら座っているだけではさすがにいろいろ問題あるようで、私が立った状態で撮影が出来るようにちょっとした仕掛けを施すようです。
どのような仕掛けかというと、着物を着る前に金属製の輪っかのようなベルトを装着しました。
これはどういう物かというと、重力軽減用ベルトで、これは装着者にかかる重力を10分の1にした状態で行う球技などがあるらしく、このベルトをつけることによって両足で立ち上がっても足の負担を極力減らした状態で一時的に立っているように見せかけ、その隙に撮影するというちょっとアクロバティックな方法を取ることになりました。
もっとも、カメラの反対側の映らない位置には私が寄り掛かるための物が用意されており、これに寄り掛かる事によって何とか撮影中は立った状態でいられそうです。
さらに膝から下をがっちりと固定する極薄のギプスのようなものをつけ、その上から足袋を履いて隠すという事をして撮影準備完了です。
あ、もちろん下駄も履きますよ?
撮影方法についての説明を受け試しに立ってみた所、短時間でしたら何とか立って(寄り掛かって?)いられることが分かりましたので、撮影の支度に入ります。
まずは髪をセットしてもらいます。
こちらに来てからも毎月シルヴィアさんに毛先を整える程度にカットしてもらっていたのですが、今回は専門家の方が来てくださって髪をセットしてくれました。
ちなみに今回はちょっと髪形を変えて、元々はボブカットに前髪ぱっつんだったのですが、耳周辺の毛を少し切りまして、なんていうんでしょうね、姫カットというのが分かりやすいでしょうか?この方が和服にあうだろうとの事でそれにされました。
その後、がっちりとお化粧をしてから着替え、着物に合わせてルースを保護するサークレットやブレスレットなどもデザインを合わせた物に付け替えて、いよいよ撮影開始です。
そんな状態で始まった撮影ですが、一人での撮影もあればサリナさんやシルヴィアさんと絡んだシーンもあり、それなりに楽しく進んでいきました。
ちなみに、パンフレットにはこの三人の物しか載せないのかと聞いた所、他の人は別の場所で撮影するとの事でした。
しかし、やはり慣れない立ち居姿での撮影のためか、わたしにも疲れがたまってきてしまい、表情が硬くなってきていると言われてしまいました。
残すところは白無垢での撮影なのですが、こちらは椅子に座った状態でも良いという事になりまして少し安心です。
白無垢での撮影は着替えはもちろん、お化粧直しで白粉に紅を引き、髪も結い上げた状態とういうかカツラをかぶり、さらに角隠しを被るというフル装備状態でした。
この準備のために少しは休めたのですが、それでも溜まりに溜まった疲れはどうしようもなく、表情がいまいち優れないとの事でした。
そんな状況で行われた撮影中に、突然サリナさんから
「これが終わったらシルヴィア特製いちごシューがあるよー」
と爆弾発言を聞かされ、思わずにんまりと。
実は、お料理はサリナさんがすごく上手なのですが、おやつ関連に関してはシルヴィアさんの方が上手で、最近の私はシルヴィアさんのお菓子の虜なのです。
もうね、毎日のおやつの時間にはお姉ちゃんからもらった腕輪から出せるお菓子の出番がほとんどない位に美味しいのですよ!
もっとも、たまに小腹が空いたときなんかにはついつい取り出して摘まんじゃってますけどね?
そしてその後OKの言葉にも気が付かず、この後訪れる至福の時間を思い浮かべていたら、なんと目の前に問題のいちごシューが差し出されるではないですか!
思わずきょとんとした顔で持っている人を見上げると、そこには普段滅多な事では感情を表さないシルヴィアさんが珍しく満面の笑顔でこちらを見ていました。
そんなシルヴィアさんの笑顔に見惚れていると、シルヴィアさんから
「よく頑張った、これご褒美のいちごシュー」
と言われたので、撮影中というのも忘れて思わずいちごシューを受け取りかぶりついてしまいました。
疲れた体にシルヴィアさん特製イチゴシューは至福の味で、こんな素晴らしいご褒美があるならたまにモデルやるのも良いかなーとシュークリーム愛好家の私は思ってしまいました。
そんなこんなで5時間ほどかかった撮影も無事終了し、その後はゆっくりお風呂に入ったのですが、その時に足を中心に念入りにマッサージをしてくれました。
その後お風呂から上がると疲れからか安心感からか睡魔が襲ってきましたが、頑張って夜ご飯を食べてからぐっすり寝てしまいました。
こんな感じでモデル初仕事が終わりました。




