第三話 学びながら出会う
本当に、すみませんでした……!
活動報告に書いた通り、いろいろございました、皆様もどうか、猫がコードにじゃれぬようご注意を!
てな訳で、久しぶりの投稿です、はい。
リンドウが生まれて、ちょうど一年が経った。まあ、リンドウ自身は、自分の正確な生年月日なんぞわかっていなかったのであるが。
リンドウは、ようやく両親の顔が識別できるようになってきた生後1歳の視力を、人生初というか前世では体験しなかったというか、体験したけど覚えていない1歳児のスペックを駆使して、今日も今日とて、情報収集に努めていた。
(いい加減この部屋見飽きてきたなぁ……いや、というよりもこの家、かな?)
もう立ち上がる術を身につけた彼は、かなり自由に動き回っていた。どうやら二階の存在しないらしい家の中を何周もして、間取りを記憶してその図を頭に投影できる程度には。
結果わかったことといえば、6LDKという割と破格のサイズの、和洋折衷、見覚えのない建築様式な一戸建てだということ、そして間違いなく魔法が存在するということ、両親は卵を温める親鳥のように交互で働きに行っていること、さらにいうと製本技術が確立されておらず剣が無造作に家におかれているような時代であること、ぐらいだろうか。リンドウ的には、本は見当たらないのに、幼児用ベッドのそばに石墨と、和紙に似た何かが置いてあることが大変なぞだった。
他にも色々と収集するべきことがあるだろうに、家を動き回ってまず真っ先に本を探し、製本技術を確かめるあたり、リンドウは生粋の本の虫なのであろう。
そんな着眼点のおかしいリンドウも、その日は、いつもと何かが違うことを理解していた。彼が朝目覚めると、珍しいことに両親がそばにおらず(といってもその3秒後には母親が部屋の外から飛び込んできたのだが)、朝食(離乳食である、もう至高の二つの山に埋もれることはない)を三人で食べ終えると、父はすぐに台所で料理を始め母は身支度をさっさと済ませて外に出かけていった。ここまでは、まだ有りなくもない日常なのだが、彼の父が作っている料理の量がおかしかった。また、家の外から何人もの声と足音が慌ただしさをにじませて聞こえる点も、非日常的であった。
まあこの時点で、リンドウは察した。
(あ、今日なんかパーティー的なのあるのな。タイミングを考えると俺の誕生日祝いとか一番有りえそうだなぁ)
リンドウのこの予想。リンドウママあたりが聞いたら、口元にその豪快な戦いぶりを彷彿とさせる笑みを浮かべ、こう言い放っただろう。
「半分あたり」と。
* * * * * * * * *
そんな慌ただしい空気の中で午前のお昼寝を済ませたリンドウは、いつの間にか帰ってきていた母親に、まずは早速着替えさせられ(悟りの境地、羞恥心なんて捨てないと死ぬ)、赤子用の、普段よりは作りがちゃんとしていそうな服(洋服しかもボタンあり)を身に纏い、両親に手を引かれながら、今生初の屋外を、というか自分家の庭だろうところを。
そこは、立食形式のパーティー会場風であった。
とまあ、そこでキョロキョロしたがるのが並みの赤子。だがリンドウは、実は今生初の靴の履き心地に一人感動していて、並の挙動などしていなかった。
(うわあ、革製ブーツってこんな感じなんだぁ。これは、うん、蒸れるなっ!)
……ズレた感想である。
とは言え、流石のリンドウも、すぐに意識を前方に向けた。
実はまだ名前の知らない両親以外にも、思った以上にたくさんの人が、その場には集まっていた。明らかにリンドウの家の庭だろうところで集まっている時点で、パーティー開催の理由もリンドウの家にある、と考えるのが妥当なのだが……
(人の数は、なんかジャガイモたくさんって感じで驚きだけども。この人たち、どこを見てるんだ?)
少なくともそれは、自分一人ではない、と。リンドウは、第六感が如きもので、そう感じたのだ。
このとき、リンドウには、隣に座る存在をまじまじと観察できるだけの視力はなかった。いや、そもそも、親以外の人間にあったことのないリンドウには、相手の顔を見たところで全員知らない人だ。
ああ、それでも。例え目でわからず、声が聞こえるわけでもなく、鼻で感じ取れるわけでなく、触覚と味覚は役に立たず、他の知覚手段が機能しておらずとも。
リンドウは、右を向く。
キキョウは、左を向く。
『リンドウとキキョウの壁越えに祝福あれ、幸あれ、未来あれ!』
『全霊でここに感謝を!!』
何人もの、祝福の声に。いや、感謝の声に。包まれながら、リンドウは、キキョウは、見つめ合う。何故か涙が滲み始めている、その目で。
相手の顔の特徴すら掴めなくても、二人には、分かった。
――決して切れることのない、運命の赤い糸の実在が。
自分の半身の存在が。
だから、二人は、言葉を紡ぐ。まだ誰にも披露したことのない、その喉を、口を、声を駆使して。お互いに聞き取れるほどの滑舌もないのに、必死に。
――また君と(あなたと)、学べる、ことに。全霊の感謝を。
* * * * * * * * *
さて、この世界においては、1歳というのは一つの節目である。1歳の誕生日がお披露目の日となることが多い。0歳児はまだ未発達なために、体内にあるオドという存在が、本来は空気中を漂うマナという存在にのみ作用するはずの思念波にかき乱される危険があるためという、この世界特有のものだ。
思念波とは、読んで字の如く、というやつである。その性質は、人類を含み多くの生物が魔法を行使するための目には見えないものであり、世界で唯一マナに作用できるものである。この思念波は強弱等に差はあれど、誰しも使用可能な能力であり、生物の多い場所はこの思念波であふれているだろうというのが、この世界の学者の見解だ。
で、そのあふれたものがよく分からん相互作用というか化学反応というかを引き起こすと、自我の確立が済んでいない0歳児はオドをかき乱される、というもの。
幸い思念波は、一部の例外を除き射程距離は短いので、室内に入れば、思念波がゴッチャに、ということは滅多にない。ということだ。
リンドウが、実は一度も室外に出たことがなく、そのために、生涯の相棒、それどころか生まれ変わっても相棒な相手がそばにいて気づけなかったのは、そのためであった。
……とまあ、そんなことをリンドウが知るのは、もう少し先のことで。
今はとにかく、相棒との日々を全力で満喫するリンドウの姿が、そこにはあった。
「ふふふ、今日も午前中ずっと遊んでたから疲れちゃったのかしらね」
「そんな感じだなぁ。それに、今日もまた仲良さそうに寝てるな。本当、出会ってまだ一週間でこれだからすごいよな」
「ええ、確かにねぇ。奥手で、女性に振られまくった、あ・な・た、の、子供なのにねぇ。もううちの子と仲睦まじそうとは。これはすごいことよねぇ」
「……おかしいな。俺はうちの子とタダオキの子を褒めただけなんだが……なんで俺ディスられてるの?」
「バッカスだからね」
「…………早く帰ってきてくれタダオキ。お前の奥さんが俺をいじめる……!」
寄り添って同じ子供用ベッドで寝るリンドウとキキョウの姿を見て、微妙に口元緩ませながらバカな会話をする二人。だが、この二人、夫婦ではない。
かたや、茶髪な学者風の青年、名をバッカス。
かたや、黒髪な理知的に見える美女と美少女の中間、名をグラティア。
まあ、夫婦にしか見えないのだけども、それぞれ、リンドウの父親と、キキョウの母親なのだ。アリアンナとタダオキは今、仕事に行っていた。
スヤスヤ昼食を済ませお昼寝中の子供二人とその親。それぞれ自分の子供を撫でながら、そんな、他愛もない会話をしながら、日はどんどんと傾いていく。
「「んんぅぅんうん………」」
リンドウとキキョウが、見事に声をそろえながら目を覚まして起き上がると、
「「ただいまぁ〜」」
これまた見事に声をそろえて、リンドウとキキョウそれぞれもう片方の親が帰ってくるのであった。
「いや、お前の家じゃないからな?」
「塀もなくて、勝手口を開ければそっちの家の勝手口までほんの5歩だし、いいじゃん別に。大差ねえよ」
そんな父親同時の会話もいつも通りで。
「あなた、あたしにおかえりは?」
「おかえり〜」
「ほら、リンドウはちゃんと言ってくれてるわよ〜」
「うっ、すまん……おかえり」
「はい、ただいま」
そんなリンドウ親子の会話もいつも通りで。
「…………」
「…………」
「…………」
「バッカスゥー、うち誰もおかえりって言ってくれないよぉ〜」
「おかえりなさい、あなた」
「おかえり!」
「キキョウまで僕で遊ぶの!?」
「あなた、うるさいわよ」
「はい、ごめんなさい……」
そんなキキョウ親子の会話もいつも通りで。
リンドウとキキョウは、そんないつも通りの光景を見て、顔を見合わせて笑う。
「「平和だね〜!」」
――ああ、幸せだなぁ。
今後は、なるべく前までぐらいには更新していきたいと思ってます。
が、今年度入ってから忙しさは増してるので、少々厳しいことも……
生暖かい目で見ていただけると嬉しいです。
今後ともどうかよろしくお願いします!