君と過ごした日々
デパートにて。
(7/16 08:15)
十日前。結に「手伝う」と伝えたその二日後のこと。僕たちは、学校を休んで最寄りのデパートへと赴いていた。
「……いや、これ、普通にサボりじゃないか?」
いきなり連れてこられて状況の読めない僕が思わず呟くと、
「手伝ってくれるんでしょ? 細かいことは気にしないの」
結はそう言って、目に入った店の中へと入ってしまう。……これ、荷物持ちに使われるだけなんじゃないのか? そんな疑問を飲み込んで、彼女の後をついていく。
「……って、ここ、女性用服売り場じゃないか……」
見渡す限り女の人。男はこの店で僕ただ一人。
「あ、僕、トイレ行ってくるから一人で買い物して――うぐぇっ」
逃げ出そうとしたら襟首引っ張られた! く、首が苦しい。
「手伝うって言ったでしょ? せっかくここまで来たんだから買い物付き合ってよ」
「それ、楽しい事と何の関係が……?」
「もしかしたらファッションにハマるかもしれないじゃない。女子力も欲しいし」
こ、こいつ、この際だからデパートで買い物を楽しもうとしてやがる、だと……?
「そういうわけだから、よろしく」
結はそう言って襟首から手を放したと思ったら、鼻歌混じりで再び服選びを始めてしまう。……もう、人生楽しいんじゃないですかね、結さん。
(7/16 12:15)
そんなこんなで彼女の買い物に巻き込まれた僕は、橋渡しの要領で店を歩いていく結に三時間程引きずられていた。
「あのー、もう十分買ったんじゃ……」
「そう? 普通じゃない?」
おい、何が普通だ。僕がこんなに袋を持っている姿を見て何も思わないのか!? 色々とおかしいだろう。鬼かあんたは。
「ちょっと休もう。な?」
「えー」
こっちは結に似合う服を選ばされたりして疲れたんだ。何としても休むぞ。
ごねる彼女を連れて店を出る。あばよ、服。もう絶対戻ってこないから。
「……で、何食べるの?」
「結の好きなものでいいよ。奢らないけど」
「好きなものねぇ……」
少しの間彼女は迷った後、
「クレープが食べたいな」
そう言って、デパートの中を歩きはじめる。
僕は結のあとに続きながら、内心少し安心していた。
――何も見つからないって言うわりには、そこまで重病ではなさそうだな。
時々笑ったりしているし、このまま順調に探していけば、彼女が一生大切にしていけるものが見つかるかもしれない。そう僕は思った。
「……やっぱり奢るよ」
「えー嘘でしょ」
「ほんとだよ。……疑り深いなぁ」
「だって悠斗怪しいから……」
「なっ、怪しいってどういう――」
そんな風に、僕たちはそれなりに楽しんでその日を過ごした。……結と過ごすのが楽しかったのは、彼女には秘密にしておいたけれど。
――彼女が自殺するまで、あと六日。