追憶
答えのない問い掛け。
(7/24 08:30)
結が死んだことを知ったのは、朝のホームルームが始まるまでの暇つぶしに本を読んでいた時だった。
いつもはのんびりとしている担任が、慌てて教室に入ってきたときから違和感はあった。けれど、それが事実に繋がることはなくて、ただ僕は、彼の話を聞くことしか出来なかった。
「……皆、大事な話がある。心して聞いてくれ」
彼の顔には、形容できない感情が浮かんでいた、それはまるで何か大切なものを失ったかのような――
「花宮結さんが昨日、亡くなられたそうだ」
そこで、僕の意識は途切れた。
――――
――別に僕は、教室の真ん中で気絶したわけではなかった。けれど、僕の脳みそは、ハンマーで徹底的に叩き潰された上に、肉片も残らないぐらい刻まれたように――つまりは、意識はあっても、死んでるのとさほど変わりはなかった。
担任の声が遠く聞こえる。思考が揺れていて、誰の声も耳に入らない。ざわめきも泣き声も全て掻き消して、言葉だけが頭を反芻していく。
”自殺?”
”飛び降り”
”屋上”
”制服”
”深夜”
”遺書”
”即死”
どれもこれもが別の国の言葉みたいだった。何一つ頭に入ってこないし、理解できない。脳が全てを拒絶していた。
結が自殺? ありえない。以前の彼女ならかろうじて分かるけれど、この一週間で『何か』が変わったはずだった。彼女は何かを見つけられたはずだったのに。
言っていた。あの日、天体観察をした屋上で、結は言っていた。
「何か見つけられた?」
「……うん。今、生きてることが楽しいんだ」
あの言葉に嘘はなかったはずだ。
笑ってた。確かに、ぎこちなかったけれど、結は笑顔を浮かべていた。それなのに、何故――
理解できないままに、時間だけが過ぎていく。彼女の笑顔は誰にも知られず消えていく。そうして――
僕の世界から、花宮結という人はいなくなった。
(7/26 14:30)
あれから二日が経った。
結の葬式が終わった後、僕は独り、火葬場の中で無駄な思考を続けていた。
――何で、結は死を選んだのだろう。
それはいくら考えても分からないことだったし、今さら分かったとしても、もう意味のないものだった。それでも僕は思考を止めることができなかった。彼女の笑顔を見た僕には、どうしても結の死が納得できなかったのだ。
――何で。
何が彼女を自殺に奔らせたのだろう。何をきっかけに自ら死を選んだのだろう。
再び動き出した思考は答えを見つけるまで終わらない。彼女を喪った僕は今、壊れてしまっているのかもしれなかった。
――僕らのしてきたことを振り返ろう。あの七日間のことを。何か、見つかるかもしれない。
思考は過去へと飛んでいく……